何も出来ない僕たちは。

道尾玲香

第1話 何も出来ない僕は。

 僕が出来ること。それは、きっと誰にでも出来ること。そんなことを言われたのはいつだったっけ。僕はみんなから期待されていないし、見られてもいない。じゃあ、誰も味方はいない?いるよ。きっと。自分の味方は自分なんだ。


キーンコーンカーンコーン―

 きっと人生で一度は聴くこのチャイムを、僕は現在、学生として聴いている。

 「今日も放課後は、学習面談やるぞ〜」

 「え〜!だるぅ…」 

「そんなんやってるのうちの学校だけだしぃ」

 僕の通う《市立日山高校》では、期末テスト1週間前に、先生が呼び出した生徒は学習面談をしている。まぁ大抵は、出席番号順だ。そして今日は僕の出席番号が含まれる日だ。

 「今日は、桜庭と佐々木と佐山と篠田と鈴鹿だから忘れるなよ〜」

 「先生!里中はやらないんですか〜?」

 「そうですよ!嶺亜くんだけずるいです!」

 「別に里中はいいんだ。じゃ、説明終わりな。」

 そうだ。僕はいつもこんなんなんだ。期待されていない。気にも留められない。だからって僕も気にしたりしない。だって、今までもこうやって生きてきたんだから。そう、なあなあで生きてもいいんだ。


 僕が人との関わり方を見失ったのは、中1の時だった。その当時、僕のクラスではいじめが多発していた。無視や仲間外れは当たり前。かばおうとする人がいれば、その人もいじめの標的。そんなクラスに僕はうんざりしていた。だが、偽善者になろうともしなかった。

 そしてある日。登校してきた僕は絶望した。自分がいじめの標的になっていたからだ。理由は、いじめられていた人が、僕がチクろうとしていたなどと適当な嘘をついたからだったらしい。まぁ、僕も最初はそんなに気にしないようにしていた。だけど、気にせざるを得ない出来事が起きたんだ。

 その日も俺はいじめられながらも、今までと変わらないように生きようとしていた。でも、その日登校して最初に目にしたのは机の上に置かれた手紙だった。その手紙には

 〔今日の昼休み、屋上で待ってる。悩みを聞いてあげたいんだ。〕

ただそれだけが書かれていた。どうせ相談したからってどうなることでもなかったけれど、こうやって話を聞こうとしてくれている人がいるなら行ってみようと思った。そう思ったのが間違いだった。

 行った先には誰もいなかった。いや、誰がいるようにも見えなかった。次の瞬間、僕は背中に蹴りを入れられていた。倒れ込み振り向くと、そこにはいじめの主犯格のやつらがいた。それから、何十分間か暴力を振るわれた。でも、逃げなかった。逃げても無駄だし、また新たに犠牲者が出てしまうと思ったからだ。

 その次の日、僕には居場所がなかった。完全に孤立した。それだけではなく、僕は何もできなくなった。勉強も運動も、全ての活動ができなくなった。やる意味すらも分からなくなった…


 そう。そんな過去がある僕は期待なんてされない。されたいとも思ってない。最近はこの生活にも慣れてきた。もう、このままの何もない普遍的な生活を送ればいい。そう思っていた。思っていたのに

まさか、自分が普通のようで普通じゃない青春を送ることになるなんて―

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