トーマスの告白

 目が覚めると鬼塚は病室にいた。

 そして、目の前には、伊万里と本郷、八巻がいた。

「よかった!鬼塚さん!目が覚めたんですね!」

 伊万里は喜んだ。

 鬼塚は暫く考えてから

「はっ!そうだ!面談室でいちじくの母親と話していて向こうが興奮のあまり…鋸の鬼刃を向けてきてそのまま…。あ!いちじくの母親は?」

「あれから警察に無茶苦茶怒られていたみたいだ。さっき、雪之丞君の学校の先生から聞いた」

 八巻は冷静に話してたその時、病室のドアから誰かが覗いていた。

「誰だ!」

 八巻がそう言うと覗いていたのは、いちじくトーマスだった。

「なんでいるんですか?」

 伊万里は小声で八巻に聞いた。

「それより何故鬼塚さんがここにいる事がわかったんだ?」

 八巻は小声で答えた。

「尾行…」

 本郷がボソっと言った。

「尾行ですか?」

「いや、昼休みだったんだろ?鬼塚さんが母親と話をしたの」

いちじく君、ちょっと来て。君と話がしたい」

 鬼塚がそう言ったが、いちじくは何処へ逃げて行ってしまった。

 それを見た八巻は舌打ちをして

「また逃げたな」

「八巻さん、ここまで来たって事は何か言いたかったんでしょう…」

「だよな…」


 いちじくトーマスは学校帰りに担任の石松から鬼塚が運ばれた病院の場所を聞いて行ったが、鬼塚に何も言えなかった事を後悔していた。

 いちじくは昔から悪さばかりしてよく教師に怒られていた。高校に入ってからもそれが続いていた。例えば、苦手な生徒の財布を盗んだり、何か気に入らない事があると暴言を吐くなどしていた。最近では、球技大会でいちじくのクラスB組は、雪之丞のクラスA組に負けたのだ。それが悔しくて悔しくていちじくはある事を決行した。それは、ホットケーキミックスを盗んでA組を困らせる事だった。


 鬼塚はすぐに回復し、今度は石松からいちじくの家の住所を聞き、伊万里と雪之丞を連れていちじくの家へ行った。途中両親が出てきて追い返されそうになったが、いちじくが出て来て鬼塚達を自分の部屋に入れ、正直に話した。

「何でも屋さん、皇…ごめんなさい。皇のクラスのホットケーキミックスを取ったのは俺です。今まで先生達から聞いた通り、球技大会で皇のクラスに負けたのが悔しくて悔しくて…」

 いちじくは涙声になりながら話した。

いちじく…」

 雪之丞は言った。

「何でも屋さん!母さんが何でも屋さんに鋸を向けて何でも屋さんを病院行きにしてしまい、すみませんでした」

 いちじくは頭を下げた。

「大丈夫だよ。それに正直に話してくれてありがとう。ところで、ホットケーキミックスはある?」

 鬼塚は優しく聞いた。

 いちじくは頷くと机の中からビニール袋を出してそれを雪之丞に渡した。

 雪之丞は受け取ると

いちじく…今度はそういう事しないでほしい」

 雪之丞は淡々と言ったが、

「俺、こんなに問題行動を起こしてきたから退学するよ…。次行く学校も決まっていて」

 いちじくは静かに言った。

「そうか…」

 雪之丞は言った。

「母さんがあんな事をしたのもあるし…」

いちじく君、話してくれてありがとう。この間の事は大丈夫だから」

 鬼塚は言った。

 それから鬼塚達はいちじく家を後にした。


 数週間後、何でも屋一行は雪之丞の高校の文化祭に行った。

 雪之丞はすぐ鬼塚と伊万里の姿を見つけ、

「鬼塚さん!イマ!この間はありがとうございました!おかげでなんとか文化祭を迎える事ができました」

「雪之丞くん、よかったね」

「雪ちゃん、お姉ちゃんは心配したのよ。雪ちゃんのメンタルがズタズタになっちゃったかと思って」

「イマが思ってる程豆腐メンタルじゃないよ!」

 そう雪之丞が言うと鬼塚達は爆笑し、伊万里は恥ずかしさのあまり舌を出した。

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