Ⅱ 4

「ちょっと聞いてみたんだけど、いるらしいのよ」

 夢見は事務所に戻ってくると唐突にタクヤにそう言う。

「いるって何が」

「インデペンデント」

 やっぱり古巣に行ったのかとタクヤは思った。

「それよりも、ミーちゃんに依頼入ってるから」

「なに」

「犬探し」

「それはタクヤの仕事じゃないの」

「決めたじゃない。ネコは僕で、犬はミーちゃんって」

「そうだっけ」

 夢見はまださっきの話を引きずっている様子。

「犬も探してよ」

「ミーちゃん。あのことを調べるのはかまわないけど、依頼が優先だからね」

「わかってるよ」

 タクヤは不服そうな夢見の顔を見て可愛いと思った。

「タク君は犬嫌いなの」

「実を言うと」

「そうなんだ」

 美佐さんがうれしそうに言う。

「犬の世話の仕事があるんだけど」

「あたしの知り合いが旅行に行くみたいで」

「その間犬の面倒を見るの」

「大丈夫だよ。事務所で預かればいいんでしょう」

「ミーちゃんもいるし」

「それで犬探しに行ったの、彼女」

「不本意ながら行きました」

 そう言ってタクヤはタバコに火をつけようとする。そして「ダメなんだよね」と言ってタバコを箱に戻す。

「上に行こうか」

 美佐がタクヤを誘った。

 美佐がときどき階段を上がって行くのをタクヤは知っていた。

「気にする子がいるのよ。あの子たち敏感だから」階段をのぼりながら美佐がタクヤに言う。

「何が気になってるんだろうね」そう言いながら美佐はタバコに火をつける。

「さあ、僕にはさっぱり」

「よくここで、タバコ吸いながら考え事してるよ」

 別に夫婦だからってすべてを知る必要はない。タクヤはそう思っている。

「川でも見に行きますか」

「ダメだよ。そんなには離れられない」

 美佐が微笑みながらタクヤに言った。

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