第70話 迷宮都市再び

 レベル50といえば、開始間もないネトゲで例えるならレベルキャップ、つまり上限値相当にも匹敵する数字だ。


 この世界で、この数字がどの程度かはわからないが。

異世界一年生のわずかな経験から見ても、決して低いものではないだろう。


 むしろ、相当高いように思える。

もちろん上には上がいるだろうが、しかし、一つの大台に載ったといえるのではないだろうか。


 などと、考えていたのもつかの間。


 ダンジョンから外にある集落に着いた頃には、レベル50を大幅に超える57になっていた。


 もし、これがソロだったらしばらく篭ってダンジョンの壁を壊していたい衝動にかられる。

こんな美味しい狩場など、ゲームの中ですら滅多に見ないレベルだからだ。


 しかし、パーティーを組んでいる以上そうもいかない。

少し惜しい気もするが、……本当は物凄く惜しいのだが、今回は大人しく諦めることにしよう。




 そして、まるっと二日かけてダンジョンを出た時には日も落ち、すっかり夜の様相。

本日は集落にある宿に一泊して、朝一番の乗り合い馬車で迷宮都市へ戻ることにした。


 泊まるお宿は前回と同じ、麦わら亭。


 ゆっくり休息をとったやまださん一行は、翌朝一番の乗り合い馬車で迷宮都市まで丸半日かけて揺られることに。


 それはもう、パカパカと。


 二馬力のお馬さんでひかれる、サスペンションも装備されていない木製の馬車。

決して乗り心地はよくないが、窓から見える景色は別だ。


 ゆっくりと流れていく、田舎の景色。


 某国営放送が手掛けてたドキュメンタルでよく見る、欧州のそれを思い浮かべたらドンピシャな感じ。いいね、こういう感じ好きかもしれない。


 現代日本では、なかなかお目にかかれない光景じゃなかろうか。

一段落着いたら、のんびり異世界観光もわるくないかもしれないな。


 思い返せば、迷宮都市と先程までいた集落しか知らない自分。

せっかく異世界に来たのだから、色々と見て回らないのは損している気がするし。


 よし、決めた。ローズの暗殺の魔の手から守ることが出来たのなら、やまださんは観光するぞ。


 異世界観光、響きからしてテンションがあがるじゃんね。


 それからたっぷり半日、馬車に揺られ、迷宮都市に着いた頃には昼頃を過ぎていた。


 街の中心部からやや離れた馬車停で降り、宿の点在する繁華街へ向けて歩く。


 徒歩15分といったところ。


 当初まばらであった人も、進むにつれてその数は増えていく。

都市の繁華街、大通りに差し掛かった頃には、お祭りのような賑わいだ。


 やはり、此処は活気があって大変よろしい。

平均年齢が低めの発展途上国とか、こんな熱気を感じるのだろうか。


 日本から出たことがないから、わからないけど。


 だって、日本もとい、お家サイコー。

ネット環境とPCがいけない、アレがあればずっと引きこもってられる。


 案外、人類にとって禁断の果実とは、インターネットのことかもしれない。



「ねぇ、宿はどこでとるつもりなのかしら?」



「そうですね、猫のマタタビ亭に泊まろうかと思います。一般向けの宿ですが、これが中々サービスの良い所だったので」



 と、知った風に語ってしまったけれど。


 本当はここぐらいしか知らないの、ちょっと通ぶってみたかっただけ。


 色々と泊まり歩いてますよ、的な感じでさ。



「初めて聞く名前ね、貴方が泊まると言うのなら……そう、私たちもそこにしようかしら」



 どうやら、ローズさん達も同じお宿にチェックインとのこと。

忘れてしまいそうになるが、ローズさんの身分は王族だ。


 それが一般向けの宿に泊まっても大丈夫なのだろうかと思わなくもない。

しかし、考えてみれば本人自身、冒険者に扮しているのだからその辺りは寛容なのかもしれないな。



「それなら、案内しますので一緒に向かいましょう」



「それは頼もしいわね、お願いするわ」



「ええ、この通りを左に……」



 勝手知ったる何とやら。


 迷宮都市にきて間もないやまださんは、これでもかと知ったかぶりで案内をする。

途中に一本、道を間違えてしまったが問題はない。


 要は、間違えたときに焦るからいけないのだ。


 堂々と間違えれば、「そうなのかも?」と、思わせられるだけの説得力が生まれるのだ。


 なんてことはなく。二・三本道を間違えた所で、通行人に道を聞き無事に辿り着いた。


 カランカランとドアベルが鳴り、



「あっ、やまだニャー! いらっしゃいニャーッ!」



 中にいたエルザが元気よく迎えてくれた。


 いつも元気だなこの子。


 大量のモンスターに追われているときですら、元気一杯だったし。


 ……いや、違う。あれは必死だった。必死の形相だった。


 あの時は、クリスティーナもかなり驚いていたなぁ。


 って、……ついつい、考えてしまう。


 それもそのはず。短い期間だったが、こちらに来てからの思い出には、クリスティーナがいつも横にいたのだから。


 それからエルザと幾つかの世間話を交わして、無事にチェックイン。


 二部屋を確保したやまださんたちは、各自荷物を置いて、ちょっと遅めの昼食をとりに出掛けることにした。



「あの猫人族の娘、知り合いだったのね」



「ダンジョンでちょっと知り合いになったんです」



 などと、会話をしながら宿から外へ出たところ。


 進路を塞ぐように立つおっさんがいた。


 自分自身、アラサーである。片足を中年に突っ込んだ手前、言える筋合いではないが。


 それでも、目の前のおっさんは齢四十代後半ほど。

日本のサラリーマン然としていなく、外人部隊の筋肉モリッモリなマッチョ感じ。ちょっと怖い。


 そして、何故か、やまださんをガン見しているのだから性質タチがわるい。



「ええっと……知り合いなのかしら?」



「そんな、まさか」



 目前を塞ぐ、筋肉の塊を避けて進もうとすると、鉄壁のガードを誇るゴールキーパーのように行く手を塞がれる。


 右へ行こうとすれば、左に。


 左へ行こうとすれば、右にと。


 何度かそれを繰り返した後、いよいよ声を掛けようとした時だ。

筋肉さんが、ガシッとやまださんの肩を掴んでイカツイ笑顔を浮かべる。


 ああ、間違いない。これは、数人ヤッている顔だわ。



「探したぞ! 今、迷宮都市を騒がしてる超大型ルーキー」



「……あの、どちらさまでしょうか?」



 筋肉さんは更にイカツイ笑顔を深め、歯列をキラリ光らせると、



「――俺か? ……俺は、この都市のギルドマスターだ」



 

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