第60話 陽の差すダンジョン・アルカン6

 目を開くとそこには――


 肌は傷一つなく、白く艶やか。


 背中から流れるようなライン、くびれたウエスト。

その下には、引き締まりながらも肉付きの良いまさに桃尻。


 ローズのお尻が目の前で揺れる。


 それは見事にもうプルンップルンッと。


 しかし、惜しいことに、それを見続けるわけにはいかない。

なにせ、ローズの先には頭だけで大人一人分はありそうな大蛇が迫っている。


 ダンジョンの壁が余りにも巨大で感覚が狂いそうになるが、あれはヤバイ。


 クレアさんはローズを庇うように前に、クリスティーナは魔法を発動させるべく詠唱を始めているが、とてもじゃないが間に合いそうにもない。


 俺は『アイテムパック』から、始まりの剣と名のついた戦斧を取りだす。

なぜ、戦斧なのに剣なのかと。甚だ疑問なのだが、今は……いい。


 随分と手に馴染む武器を片手に、大蛇に向かって走りだす。


 黒い鱗、横に入った赤いライン。

蛇特有のにょろにょろと左右に体を振る走り方は、巨大になってもあまり変わらないようだ。

ただ違いがあるとすれば、大蛇が進む度に、地面の石材が削れ砂埃を巻き上げている点だろう。


 正直、ちょっと怖い。


 しかし、だからといってここで退いてしまえば、後ろにいるクリスティーナ達に被害がでてしまう。

更にいえば、俺達がいるこの場所は袋小路である。


 逃げようにも状況がそれを許さないのだ。

であれば、やまだとしてはパーティーメンバーの為、前へ進むのみである。


 覚悟を決めて、大蛇に向かって全力前進。

踏み込んだ床が割れ、離れていた距離が目に見えて縮まっていく。


 気がつけば、もう目前に。


 飛びあがり戦斧を振りあげて、『フルスイング』を発動させると、淡い光が俺の体を包み輝く。

スキルによって10%ほど強化されたそれを、大蛇の頭めがけて全力で振り下ろす。


 ブオッンと風がうなる。


 振り下ろされた戦斧が大蛇の肉に食い込み、黒い血が勢いよく噴きだす。

肉を切り裂いた感触に目をやれば、頭の右半分が無くなっていた。


 床にべとりと大蛇の肉塊が落ちる。

それでも戦意は喪失してないらしく、シャーッと聞く者の危機感を煽る威嚇音を立てて襲ってきた。


 おう、マジか。魔物すげぇ。


 俺は慌てて再度、戦斧を振り抜く。

逆袈裟切りのように振りぬかれた戦斧は、肉を裂き、大蛇の頭を完全に切り落とした。


 全体の三分の一ほど、起きあがっていた大蛇の体は支える力を失い、重厚な音と共に石材で造られた床の上へと倒れた。


 舞い上がった砂煙が晴れた時、聞き慣れたメッセージが響く。



『 レベルアップ。スキルポイント15を獲得しました。 』







「ご主人様っ! 大丈夫ですか?」



「ああ、見ての通り怪我一つないよ」



 駆け寄ってきたクリスティーナに、手を広げて無事を知らせる。

その後ろには、ローズとクレアさんの姿も見えた。


 しかし、何故だろう。あろうことに、ローズは既に服を着ていた。

なんで着てるんだよ、服なんて着なきゃいいのに……いや、普通に考えて着るよな。


 しかも、替えの服を渡したのは俺だし。



「また、貴方に助けられてしまったわね」



「いえ、ローズさん。私達はパーティーメンバーです、当然の事をしたまでですよ」



「……パーティーメンバー。ええ、そうだわ、私たちパーティーメンバーよっ!」



 そう言ったローズは、どこか嬉しそうに見えた。

もしかしたら冒険好きのローズの事だ、きっとパーティーとか仲間に憧れでも抱いていたのかもしれない。


 さてと、倒した大蛇の方へ振り返ると。


 例の如く、肉体はブクブクと溶けだす。

そして、魔石と、骨、鱗を残してダンジョンへと吸収されていく。


 既に何度も見た光景だが、果たして吸収されたモノはどこへ消えていくのか。

ひょっとして、魔物を産み出す為に再利用されたりしちゃうかもしれない。


 そう考えると、このダンジョンというものも、何か一つの生き物のように思えるな。


 などと、珍しく感傷的なことを考えていると。


 大蛇の骨がある場所、ちょうど中腹あたりだろうか。


 そこに男が横たわっていた。


 年齢は二十代前半、雰囲気的にイケメンだ。

身につけている装備はとてもお高そう。


 ローズのそれと比べても、遜色のない高級なのだろう、きっと。


 しかし、どこかで見たことのあるこの感じ。

だけれど、今ひとつ思い出せない。ワンモヤモヤと云ったところ。


 この男を見るにきっと、運悪く食べられてしまったのだろうな。


 不幸中の幸いであったのは、蛇特有の丸呑みであったこと。

そのままゴクンとやられたおかげで、傷らしい傷は見当たらない。


 ただ、もう少し遅ければ胃液か何だかわからないものに消化され、めでたく大蛇の栄養分になっていことだろう。


 運がいいなこいつ。

いや、そんなことないか。蛇に丸飲みされた時点で運がわるい。


 ややあって、丸飲み男に変化があった。

もぞもぞと動きだしたかと思うと、目を大きく開き辺りを見まわす。


 そして、俺を見つけハッとした表情になり――



「……おっ、お前は誰だっ!」



 蛇の腹から出てきたやつに言われたくないわ。




 

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