第58話 陽の差すダンジョン・アルカン4

 一時間にも及ぶ死闘の末、全ての魔物を倒し終えたローズさん。

その代償に、全身緑色の体液でベトベトになってしまった。


 この距離からでも漂ってくる強烈な臭いに、つい鼻をつまんでしまう。

しかし、当のローズさんといえば、一仕事終えたとばかりに清々しいまでの笑顔である。



「ロ゛ーズざん゛大丈夫でずが?」



 鼻をつまんでいるせいで、声がモザイクの向こう側で喋る人みたいになってしまった。



「問題ないわ! 数は多かったけれど、私の相手ではないわねっ!」



 何度か、思わず手を出してしまいそうになった場面もあったけど。

それは黙っておいたほうがよさそうだ。


 だって今、めちゃくちゃイイ笑顔しているもん。


 そして、ローズが一歩、俺たちの元へ。


 それを受けて俺たちは、まるで足並みを揃えたように後方へ一歩下がる。


 少しばかりの沈黙をおいて、



「……やっぱり?」



「……ええ、やっぱりです。ローズさん」



 当のローズさんは全身に臭い体液を浴びてしまったせいか、お鼻が馬鹿になっているようだ。


 しかし、まぁアレだ。これはどうしたものか。

このままではパーティーの連携に支障がでてしまうレベルの悪臭。


 だからといって、手持ちの水をぶっかけても焼け石に水。

それこそ石鹸などを使って、シャワーでも浴びるくらいのことをしなければならないだろう。


 ……って待てよ。


 あったわ、シャワー。


 というわけで、かもんスキルウィンドウ。



スキルポイント:20


アクティブ:スキル 

HPストック:LvMax

フルスイング:Lv1

火属性魔法:Lv20

回復魔法:Lv2


パッシブ:スキル

アイテムパック:LvMax

マップ:LvMax

言語:LvMax



 これをこうだ。



スキルポイント:19


アクティブ:スキル 

HPストック:LvMax

フルスイング:Lv1

火属性魔法:Lv20

水属性魔法 Lv1

回復魔法:Lv2


パッシブ:スキル

アイテムパック:LvMax

マップ:LvMax

言語:LvMax



 どんなもんだ、スキル振りもだいぶ慣れてきた感があるぞ。

ではさっそく、納品ほやほやの水属性魔法を試し撃ちしてみるとするか。


 イメージはこう、掌から流れだす緩やかな水流。

できればマーライン、マーライオン、こいマーライオン。


 体の中心から何かが掌に集まる感覚と共に、水が放射線を描いて流れだす。


 おっと、これは水量が多いな。

もっと抑えて、シャワーに近づけなければ……ふぉるあぁっ!


 よし、だいぶシャワーぽくなってきたぞ。

しかし、あれだな。これはもしかすると、温度調整なんかも出来ちゃったりするのだろうか。


 いくら此処が気候が穏やかとはいえ、この冷水をローズさんにぶっかけてしまうのは忍びない。


 せっかくであれば、心地の良いお湯加減で快適なシャワーライフをお届けしたいじゃんね。

『アイテムパック』には、自宅から持ってきたシャンプーやボディーソープも入っていることだし。


 目の前で美少女がシャワータイムとか。


 ……おう、これはご褒美か。


 ご褒美だな、間違いない。今決めた。


 俄然、山田さん頑張っちゃうわ。

最高のシャワー作ってやるんだから。


 調整に調整を重ねること数分、理想のシャワーを作りだすことに成功した。

この水圧にお湯加減であれば、きっとローズさんも満足して頂けることだろう。


 掌から流れでるシャワーを止めて、『アイテムパック』から取り出したお風呂セットをローズに手渡すと、キョトンとした表情でそれを受け取った。


 イマイチこちらの意図が伝わっていないご様子。



「ローズさん、お湯を出しますのでそれで魔物の体液を洗い落としてください」



「えっえ……それって……?」



 どうにも歯切れの悪いローズさん。


 ああ、そうか。着替えだな、清潔なお着替えを欲しているのだろう。

せっかく洗い流してもまた同じ服を着ては意味ないからな。


 これは山田さん、気が利かなかったわ。



「すみません、これは気が付きませんでした」



 再度、『アイテムパック』を開いてTシャツとハーフパンツを取り出す。

男物でわるいが、ここは我慢して頂こう。


 それを、今度はクレアさんに手渡す。


 ローズの手が魔物の体液で、ベトベトになっているためだ。

着替えを汚さない小さな気配りが最高にダンディーじゃんね。



「そ、そうじゃなくて……」



 魔物の体液を洗い流すお風呂セットに洗濯した着替え、それに程よい水圧に調整された温度のシャワーここまで揃っていて、あと一体なにが足りないというのか。



「もしかして、魔力の心配でしたら大丈夫ですよ。これくらいで尽きることはないと思います」



 もし、足りなくなったとしても気合で補う所存である。


 だから、何も心配しなくてもいいのだぜ。



「っ……」



 俯き加減だったローズが、まるで覚悟を決めたように俺を見据える。


 心なしか、頬が赤くなっているように見えた。



「わ、わかったわっ! じゃあ……お、お、お願しようかしら?」



 太ももをモジモジと擦り合わせるローズさんラブリー。


 お願いされましょう。


 最高のシャワータイムをローズさんにお届けするぜ。

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