第50話 乗り合い馬車は行く
こんにちは、ヤマダです。私は今、乗り合い馬車に揺られ迷宮都市から一日の距離にある、とあるダンジョンへと向かっています。
トコトコと揺れる馬車の乗り心地は、現代日本の乗り物と比べるもないもので。
半日も乗っていれば、お尻がとても痛くなってしまうこと受け合いです。
しかし、その欠点を補って余りあるのは、この価格。
一日乗っても、銅貨たったの10枚、なんという低価格でしょうか。
日本円にして、1000円にも満たないこの価格で一日中、乗っていられるのです。
タクシーでこの距離を移動したら、一体どんな金額になるのか、考えるのも怖くなってしまいますね。
ちなみに、個人的に馬車を借りれば、銀貨10枚は越えるそうなので、いかに乗合馬車が安いのか、おわかりいただけるでしょうか。
と、まぁ、冗談はさておいて。
昨日、アリナリーゼからの提案を了承した俺は、ローズ達がとっていた宿で一泊し。
太陽が昇り始めた早朝と共に、乗合馬車に乗って迷宮都市を出発してきた。
今回は、クリスティーナをローズの護衛に置いてきたので。
俺一人でダンジョンに向かうはず、だったのだが……。
「ところで、ローズさん。迷宮都市にいるはずでは?」
隣に座る、フードを被ったローズに声をかける。
「……っ」
ビクリと肩を震わすところを見るに、もしかして変装したつもりなのだろうか。
「わ、わたしはローズなんかじゃないわっ。ろ、ロースよ!」
なんだか、美味しそうな名前になっちゃったな、おい。
おもむろに、ローズが被っているフードを引っ手繰る。
「あっ……!」
すると、ふわっと綺麗な金髪が顔を覗かせた。
これでもう、言い逃れはできまい。
「なぜ、ついて来たのですか?
俺の言葉を受けて、ローズは。
あっちへキョロキョロ、こっちへキョロキョロと、忙しなく目線を動かしたかと思えば。
ついに、観念したらしく、その目線をやや下にさげて俺へと向けると。
「だ、だって、これからダンジョンに行くのでしょ?
ダンジョンといえば、冒険よっ! 私だって行きたいじゃない」
このローズさん。自分が狙われていることを、完全に、忘れてしまっているのではないだろうか。
「こうしているうちにも、狙われる可能性もあるのですよ?」
「だ、だって、貴方がいるじゃないっ。宿に籠もっているよりも、ずっと安全だわっ」
ああ、これはアレだ。
冒険と、身の安全を天秤にかけて、冒険のほうへ振り切ってしまったのだろう。
そんな、目をしているわ。
だけど、その気持ちは、わからなくもない。
現に俺も、目の前にあらわれたダンジョンに飛び込んで、今に至るわけだから。
しかし、だからといって。ローズを助けると決めたい以上、危険とわかったまま、連れて行って良いのだろうかと。
……やめだ、やめ。
考えるのは終わり、来てしまったものは仕方がない。
なるように、なるだろう。敵が来たら、俺が頑張ればいいのだ。
よし、その方向でいこう。
「わかりました。ただし、俺の指示には従ってもらいますからね?」
俺の言葉に、あからさまに笑顔を浮かべたローズは、
「もちろんよっ!」
と、言い放った。
乗合馬車は、トコトコ走る。
最初は俺とローズだけだった乗客も、一つ目の馬車停を過ぎたあたりで、一組のパーティーが乗り込んできた。
そのパーティーは四人組で、戦士風の男三人と、魔術師のようなローブを羽織った女性が一人。着込んだ装備を見ても、いかにも冒険者といった雰囲気だ。
彼らも、ダンジョンへと赴くのであろう。
「よぅ、ニイチャン達も、ダンジョンへ行くのかい?」
向かい側に座った彼らの中でも、一際いかつい男が声をかけてきた。
見た目は、盗賊団のお頭と言っても、違和感のない感じだけど。
どこか人の良さそうに見える。
「ええ、そうなんですよ」
「にしても、パーティーは二人だけかい?」
「……まぁ、ワケがあって」
ワケなんてないよ。ローズが勝手についてきただけ、なんだけどな。
ただ、話しかけてきた男は、それを重く受け取ったのか。
「詮索はしねぇが、おたくも色々とあったようだな……」
見てみれば、残りのパーティーメンバーも男の言葉に、ウンウンと頷く。
こちらの世界も、パーティーに歴史ありといったところか。
ネトゲでそういうの沢山見てきたから、わかるよ。
一人のヒメチャンのせいで、チームが解散とかよくあったもん。
「わるいことがあった後には、良い事があるって言うしなぁ。元気だせよなっ!」
と、よくわからない内に、励まされてしまった。
まぁ、訂正するのも面倒くさいので、このままいこう。
ちなみに彼等は、『黒鉄の剣』という名のパーティらしい。
目的地は、俺達と同じダンジョンとのことだ。
ゴトっ。
今まで、トコトコと揺れていた馬車が止まった。
あれ、もう着いちゃったか。
小さな窓から外を覗いてみるが、今まで、通ってきた街道と変わらない。
変わったところがあるとすれば、行く道を塞ぐように立つ男達。
数は、だいたい20人くらいだろうか。
どれもこれも、柄が悪そうなヤツラだ。
「盗賊団か……」
俺に話しかけていた男が、そうつぶやくと。
武器を準備し始める。
目を移せば、他のメンバー達も、各々の武器を持ち始めていた。
「ここは、俺達に任せてくれ」
そう言うと、勇み足で馬車を飛び出して行く、『黒鉄の剣』のメンバー。
自信たっぷりな彼等に任せておけば、きっと大丈夫だろう。
と、思っていたのは数分前。
「ね、ねぇ……大丈夫かしら?」
ローズが不安そうな声をあげる。
それもそのハズ、自信満々で出て行った『黒鉄の剣』のメンバーだったが。
あっと言う間に盗賊団にやられ、地面に倒れているからだ。
「……大丈夫じゃないでしょうね」
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