第27話 訪問者

「タケ兄ぃ、お帰りっ!」



 と、声をかけてきたのは従兄妹のユキノだ。


 ぱっと見は、中学生。

見る人によっては、小学生にさえ、見えてしまうのではないだろうか。


 しかし、これでもれっきとした大学生だ。

この幼く見える容姿は、本人もコンプレックスらしく。


 俺はこの話題には、触れないことにしている。


 なぜなら、その後がすごーく怖いから。

きっと次に、触れたときが俺の最期の時だろう。


 ……本当に、ごめんなさい。二度と言いません。



「あれ、来てたのか?」



 と、言うと。


 ニマニマとした顔で、近づいてくるユキノ。


 手で口を隠しながら、小声で、



「まさか、 タケ兄ぃが外国人の彼女を、連れて来るとはねぇ……」



 どうやら、盛大に勘違いをしているらしい。


 そもそも、外国人じゃないしな。


 異世界人だ、異世界人。


 しかも、人間ですら怪しい状態だ。

なんせ、さきほどまでスケルトンだったのだから。



「……なにか勘違いしているだろ?」



「またまたぁ~、隠さなくてもいいよ、っと」



「いてっ」



 パンッと、叩かれるお尻。


 このチビっこい体の、どこにそんな力があるのか。


 甚だ、疑問である。



「あっ、ご主人様、おかえりなさい。お客様が見えていますっ」



「ただいま、クリスティーナ。こいつが変なことしてなかったか?」



「はい、それは大丈夫なのですが……この方は?」



「ああ、こいつは従兄妹だ」



「ご主人様のご親戚だったのですねっ」



 と、ここで。


 袖を引っぱられる、振り向けばユキノだ。



「ちょい、ちょい」



「なんだよ、」



「いつからタケ兄ぃは、外国語を話せるようになったの?」



 ああ、そうか。


 言語スキルを取得したおかげで、クリスティーナとも自然に話せているけど。


 にとっては、外国語……もとい、異世界語なんだよなぁ。



「ね、ネット講座ってやつ? アレで覚えたんだよ、はっはは……」



「なんで、疑問系なのよ。まぁ、いいや、私にも紹介してよ」



「ああ、そうだったな。彼女は、クリスティーナ」



「よろしくね、クリスティーナさん」



 クリスティーナに握手を求める。



「クリスティーナ、こいつはユキノだ。よろしくだってさ」



 ユキノの手をとる、クリスティーナ。



「ご、ご主人様。こちらの言葉で、よろしくとは何というのですか?」



「『よろしく』だよ」



 俺が教えた日本語で、たどたどしくも『よろしく』と挨拶するクリスティーナ。


 まぁ、とりあえずは、外国人ということにしておくか。


 まるっと、正直に話したところで、頭のおかしいヤツだと思われかねないからな。


 ……いや、今までの行いを考えれば。

すでに、思われているかもしれないが、またそれは別の話だ。









「これは……また豪勢だな」



 目の前に並ぶ、色彩りの料理に圧倒される。


 海老ピラフに、ピーマンの肉詰め、パスタに青菜炒め、冷奴とシーザーサラダ。

トドメといわんばかりに、なめたけの味噌汁がついてきた。


 どれもこれも、俺の好物ばかりだ。



「わたしにかかれば、こんなもんよっ! 普段、碌なもの食べてないんでしょ? それに、よしえさんから頼まれているからね。 タケ兄ぃが餓死しないようにって」



 ユキノが言う通り、暇をみては、ちょくちょくと飯を作りに来てくれている。

以前、スルメばかり食べ続けて、死にかけたのが効いているらしい。


 本当に、有難い話だ。



「これは……」



 並べられた料理を目の前にして、クリスティーナが感嘆を漏らした。



「どうぞ、クリスティーナさん。遠慮せずに食べてね」



 ユキノの言葉をクリスティーナに伝えて、


 では、いただきますっ。



「イタ、イタダケマス……」



 クリスティーナも、俺を真似てか。


 カタコトの日本語を使って、フォークに手を伸ばす。

向こうの世界にも、似た食器があるのか、器用にフォークを使って料理を口にする。


 ところが、クリスティーナは、少しばかり口にした所で俯いてしまった。

どうしたのだろうか、味が口に合わなかったのか。



「どうした? こっちの料理は、口に合わなかったのか」



「いえ、とても美味しいです。また、食事ができるとは思ってもいなかったもので……」



 その宝石のような瞳から涙が零れる。



「これだけの量だ。俺とでは食べきれないから、クリスティーナも頑張って食べてくれ」



 どうやら、感動の涙ようだ。

どれだけの期間、スケルトンでいたのかはわからないが。


 再び、食事できたことが嬉しいみたいだ。



「ねぇねぇ、タケ兄ぃ。クリスティーナさん何で泣いているの?」



「ユキノの料理が美味くて感動してるってさ」



 ユキノが用意してくれた料理も全て平らげると、


 「クリスティーナさんにワルイ・・・ことしちゃダメよっ」と言い残して、ユキノは帰っていった。


 まともな食事をとって、まったりとしたのが効いたのか。


 どっと、眠気と疲れが湧いてきた。


 寝るには少しばかり、早い時間だが。


 一日の活動量を考えれば、あれだ、寝てしまおう。


 さて、寝る場所なのだが、自分の部屋は使えないな。


 スケルトンの姿ならまだいいが、今のクリスティーナと同じ部屋で寝るのは、色々とまずい。


 普段使っている部屋をクリスティーナに渡し、俺は別室に移動。

押入れの奥から予備の布団をひいて、横になるとすぐさまその意識を手放した。




 そして、翌日、クリスティーナの叫び声で目が覚めた。




「ご、ご主人様っあああああっ!」


 

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