第22話  ダンジョン再び2

 次の階層へ向かう道中は、和やかな雰囲気だった。


 それもそのはず、ニコライさんの話によれば、この階層は殆ど魔物が出てこないらしい。

出たとしてもレベルの低い魔物で、新米冒険者でも倒せしまうとのこと。


 ゾロゾロと冒険者達に紛れて、広い洞窟のような通路を進む。



「ヤマダ君、あの石碑が何だか知っているかい?」



 ニコライさんが指差す先に、

大理石のような、ツルツルとした石材で造られた石碑が見えた。



「なんでしょう、記念碑か何かですか?」



「あれはね、『レコード』と呼ばれるものだよ」



「レコードですか?」



「ダンジョンを踏破したらね、あの石碑に攻略した者の名前が刻まれるんだよ」



 そう言われてみれば、最初のダンジョンを踏破したときに、登録どうこう言われた気がする。



「へぇ、そうなんですね」



「レコードに名が刻まれた者は英雄と呼ばれ、冒険者の憧れだよ。自分もいつかは、と思うのだけど。何分、年齢が年齢だけにね」



「冒険に、年齢は関係ありませんよ。大事なのは、ここでしょ?」



 と言い、自分の胸を親指で指す。


 少しばかり、恥ずかしいことを言ってしまっただろうか。

きっと、ダンジョンのせいだろうな。そうに違いない。



「あはははっ、そうだね。その通りだよ」



 ニコライさんが、嬉しそうに笑う。



「そういえば最近、幻のダンジョンと呼ばれていたものが、攻略されたのを知っているかい?」



「いえ、初耳です」



 幻のダンジョンか、心躍るネーミングだな。



「えっと……正式名称は『始まりの洞窟ダンジョン』だったかな。その踏破者の名前が、ヤマダ君と同じ名前だったはずだ。ここらでは珍しい名前だからね、親戚だったりするのかな?」



 ……マジかよ。


 あのダンジョン、レアだったのか。


 確かに、言われてみると思い当たるフシが。

名称にREがついていたし、それにスライムが沢山いたのも納得がいく。


 もしかして、報酬で貰った『始まりの剣』も、レアイテムだったりするのだろうか。



「ここら辺では、珍しい名前ですが。俺の国では、よくある名前ですよ」



 用紙記入の、見本になるくらいだからな。

曰く、山田太郎さんに、山田花子さん。


 あれでどれだけのヘイトが、全国の山田さんに集まったことか。



「そうなんだね。そろそろ、見えてきたアレが次の層への入り口だよ」



 ゴツゴツとした地面に現われたのは、白っぽい石材で組まれた階段。

その幅は、大人が十人横に並んでも余裕がありそうなもの。


 行きに通ってきた、地下祭壇に似た階層だ。



「ヤマダ君、ここからは魔物が出るから気をつけてね」



「はい、わかりました」



 バットを握り直して、ゆっくりと階段を下りていく。


 和やかな空気も消えうせ、少し張り詰めた空気が流れ始める。


 良く見れば、まわりの冒険者達も、各々の武器を用意し始めていた。



「あと、知っていれば余計なお世話だけど。魔物の横殴りはマナー違反になるからね」



 なるほど、これはネトゲでも経験したことがあるからわかる。

ファーストアタックしたプレイヤーに、権利がつくアレだろう。


 42時間、張りついて沸かしたレアモブを、横取りされた時は腹が立ったものだ。



「勉強になりました。ありがとうございます」



 階段を降りきったとき、ざわざわと周囲の冒険者が騒がしくなる。



「ニコライさん、ちょっと様子がおかしいですね」



「そうだね、魔物でも出たのかな」



 先頭を進む、集団に目を向けると。


 騒がしい、なにやら必死に叫んでいるようだ。



「トレインだっ、トレインがおきたぞっ!」



 トレインってあれか、大量の敵を引き連れて逃げている状態のことだろ。


 ネトゲでビギナーが釣ってきたトレインを受けて何度も全滅した経験あるわ。それで数の力の偉大さを学んだ。


 しかし……これは、ちょっとマズイのではないのだろうか。

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