第21話 ダンジョン再び

 冒険者ギルドを後にした俺達は、行きに通ったダンジョンへ戻ってきた。


 太陽はすでに真上まで昇り、昼時の様相。


 屋台には来た当初と比べても、倍以上の人が群がっていた。


 ここまで流れてくる、屋台の匂いが堪らないな。

目についた屋台から、串焼きを購入して小腹を満すのもわるくない。



「そういえば、クリスティーナは食べることは出来るのか?」



「それなんですが、スケルトンになってからは食欲がなくて」



「いつか人間に戻れたら、腹いっぱいになるまで食べような」



「はいっ、楽しみにしています」



 なるほど、思ってはいたけど。

やっぱり、スケルトンには食事が必要ないようだ。


 なんとコスパの良いクリスティーナさん。



 ここの屋台にするか。


 何の肉かはわからないが、ブツ切りにした肉が三つほど豪快に突き刺さった串焼き。

焼いた際に溢れでた油が、なんとも美味そうだ。



「おっちゃん、コレいくら?」



 愛想の良さそうな、屋台のおっちゃんに声をかける。

良く見ればケモミミをしてる、何の獣人なのだろう。



「おう、銅貨二枚だ」



 円に換算すれば、およそ二百円。

このボリュームで、この価格は安いな。


 これだけあれば、ビール二本は飲めてしまう。



「じゃあ、一本くださいっ」



 と、言い大金貨一枚を渡す。



「おいおい、あんちゃん。そんな大きいの渡されても困るぜ」



 マジか。どうしよう、こっちの通貨これしないわ。



「だいぶ細かくなるが、いいかい?」



 なんとかなった様子。


 助かった。



「すみません、お願いします」



 ジャラジャラと、渡されるお釣り。


 それを受け取って、お目当ての串焼きをもらう。

焼きたてなのか、串焼きから蒸気がたっている。


 はやく、かぶりつきたいぜ。



「毎度ありっ!」



 さっそく、いただこう。


 大口を開けて、串焼きにかぶりつく。


 口の中に溢れる肉汁、そして、濃厚な肉の旨味が広がる。


 んー……うまいっ!


 胡椒とは、また違ったスパイシーな味付けが、

肉の美味さを引き立てている気がする。


 食べるのが止まらない。


 あっと、いう間に串を平らげてしまった。


 美味かったな、この肉は何の肉を使っていたのだろう。



「おっちゃん、美味いねコレ。何の肉なの?」



「あんちゃん、田舎からでてきたのか? これは、一角豚の肉だ。この辺で肉といえば、こいつのことよぉ」



 そうなのか、あの豚こんなにも美味いのか。

今度見かけたら、集めておくか。


 アイテムパックがあれば、いくらでも入れられるからな。


 

 もう一軒だけ屋台に寄って、ダンジョンへの入り口に向かう。



「クリスティーナ、俺だけ食べちゃってわるいな」



「いえ、そんなことありません。ご主人様が、食べている姿を見ているだけで満足ですっ」



 なんて健気なことを言うスケルトンなのだろう。

今のは、心にグッときちゃったよ。



 ダンジョンの入り口は、兵士が二人ほど立っていたが。

それは、ダンジョンの入場を制限しているわけではなかった。


 おかげで、すんなりと入ることが出来た。


 これは予想だが。

あの兵士はきっと、魔物が外に出てこないように配置されているのだろう。


 ダンジョンの中に入ってみると、行きとは違い。

俺達以外にも、冒険者の姿がみえた。


 その数は、二十人程度だろうか。女や、獣人の姿も多い。


 さすが迷宮都市と、呼ばれるだけのことはある。



「お兄さんも冒険者かい?」



 そう声をかけてきたのは、四十代くらいの男。

人の良さそうな顔に、小太りの体型。


 とても肉体労働を生業にしている、冒険者のそれとはかけ離れているように思える。

どちらかと言えば、商人風だ。



「ええ、そうなんですが。まだ冒険者としては駆け出しで……」



「奇遇だね、私もそうなんだ。実を言うと、本業は商いなんだ。冒険者のほうは趣味でやっているんだよ」



「趣味でダンジョンに?」



「と言っても、比較的安全な低層だけだけどね」



「なるほど」



「妻には、危ないからやめろって言われているんだけど。やっぱり、冒険は男の夢だからねぇ」

 


 と言うと、商人風の男は、少年のような笑顔を浮かべる。



「ああ、紹介がまだだったね。私は、ニコライ。よろしく」



「ヤマダです、どうも」



「もし、良かったら途中までどうかな? ここにいる人達も、次の層まで行くようだし」



 まぁ、悪い人でもなさそうだし。いいか。

それに、まだ知らないダンジョンについての情報も聞けそうだ。



「ええ、よろしくお願いします」



 こうして、予期せぬ同行者を得た、俺達はダンジョンを進むことになった。

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