第2話 はじめてのダンジョン

 いざ、洞窟ダンジョンの中へと踏み込む。


 すると、



 『 洞窟ダンジョン【始まりの洞窟RE】の攻略が開始されました。 』



 ピッ。



 『 攻略終了までの残り時間: 72:00:00 』



 ピッ。



 『 ファースト・アタックにつき、冒険者のステータスを表示します。 』



 ピッ。



名前:ヤマダ タケシ

性別:男

種族:人間

ジョブ:冒険者

レベル:1

HP:31

MP:19

STR:6

VIT:4

INT:5

DEX:7

AGI:3

スキルポイント:0



 ……お、おう。なんかでた。


 いきなり色々と出てきたせいで、ビクッとしてしまったぞ。


 このステータスは、俺のもので間違いないようだ。

だって、俺の名前が書いてあるし。もし、これで違っていたら色々と信じられなくなる。


 ちなみに、このステータス表示は、任意でオンオフできるようだ。

表示したいときは、そう思えば表示できるし、消したいときは同じようにすることで表示が消えた。

慣れるまでには少し時間が、かかりそうだけれど中々と便利な機能である。


 しかし、レベル1とはいえ。このステータスの低さは大丈夫なのだろうか。

色々と不安が残るが。ここまできて、まさか引き返すわけにもいかない。


 気を引き締めなおして、進もう。


 剥きだしの地面に、緩やかな傾斜が続く通路。


 少し、鼻につく苔の匂い。


 不思議と視野は暗くはない。ライトが無くても、十分に進めるほどの明さ。


 よく見れば、洞窟ダンジョン内の壁面がぼんやりと光っているようだ。

どんな理屈で光っているのか、わからないがこれは助かる。


 金属バットを両手で握り。一歩、一歩、慎重に洞窟ダンジョンの奥へと進む。


 いつモンスターが出てくるかわからないと考えると、


 心臓がドクドクと、痛いほどに脈打つ。


 暑くもないのにツーと、一筋の汗が流れ落ちた。


「大丈夫だ、大丈夫」と、何の根拠もないことを呟きながら洞窟ダンジョンの奥へと進む。


 そんな俺の気持ちとは裏腹に、モンスターに出会うこともなく。

10分ほど進んだ先に、少し開けた空間にでた。


 広さは三十畳ほど。天井が通路よりもずいぶんと高い。

あとは向こう側に通路があるだけで、特にこれといったものはない。


 緊張したせいか、喉がカラカラだ。


 周囲の安全を確認した後に。

登山用リュックから、水の入ったペットボトルを取り出して、勢いよく喉に流し込む。


 水気を失っていた喉に流れる水が心地いい。



『ブフウッ ブフウッ……』



 なにか、音がする。これは鳴き声か?



 周りを見渡すと、向こう側の通路から猪に似た動物が一匹。

大きさは体長およそ150cm。姿形は、猪や豚と大して違わない気がする。


 違うとすれば、額から大きな角がはえているところか。


 これは……アレだ。ついに、モンスターとエンカウントしてしまったぞ。





 覚悟を決めてきたハズなのに。初モンスターを目の前にして、心臓がバクつく。


 どうしよう、あんな角で突かれたらプロテクターなど簡単に突き破ってしまいそうだ。


 そうだっ、まずはステータスだ。ステータス。



種族:一角豚

性別:男

レベル:1

HP:43

MP:0

STR:8

VIT:6

INT:0

DEX:1

AGI:9



 猪じゃなくて、豚さんだった。


 表示されると思ってはいたが、モンスターにも無事にステータスが表示されてよかった。

このステータスなら、こっちは武器も持っているし、ゲームだったらまず勝てる数値だ。


 しかし、野生の動物を目の前にすると恐怖心が湧いてくる。


 映像と実物では、まるで迫力が違う。



『ブフウッ ブフウッ……』と、鳴き声をあげながら少しづつ、距離を詰めてくる一角豚。



 俺は、リュックを下ろして。


 金属バットを握り直す。


 たぶん、ここが俺のターニングポイントなんだ。


 お世辞にも頭の良いと言えない大学を中退した後、プラプラとバイトをして過ごしてきた俺が変れるとしたら、きっとここ以外にない。


 ずっと、待っていた。ほんの少しでいい。


 俺の背中を押してくれる何かを。



「こいっ、豚野郎っ!!」



 自身に気合を入れるつもりで、力いっぱい叫ぶ。



『ブウオオオオオオオッ!』



 それに反応したかのように俺に向かって、一直線走りだす一角豚。


 想像していたより、ずっと早い。


 慌てて、横へ転げるように避ける。


 間一髪。一角豚は、そのまま壁へ突き刺さった。

その隙に、立ち上がり一角豚から距離をとる。


 はぁっ、はぁっ……これはヤバイ。何度もできる芸当じゃないな。

それに思っていたよりも、体力の消耗が激しい。


 たった一回、避けただけなのにもう息があがっている。


 一角豚は、壁に突き刺さったツノを引く抜くと、態勢をまた俺へと向ける。


 あがった息を整えながら、考える。


 正面から金属バットで殴りつけても、あの一角豚が止まるとは思えない。

それにあの角が邪魔して、正面からバットを打ちつけるのは難しそうだ。


 かと言って、自分から近づくか!? いや、それは危険すぎる。


 今の動きを見るに、小回りはあまり得意じゃなさそうだ。

避けながら、殴りつけるしかない。これでいこう。


 よし、やってやる。



『ブウ、ブウッオオオオオッ!』



 後ろ足を蹴って、走りだす一角豚。


 失敗は考えるな! 絶対にできるハズだ。


 震える足に活を入れて、それを正面から迎え撃つ。



 今だっ!!



「だああああああああああっ!!」



 右側に避けて、側面から一角豚の頭部に向けて力いっぱいバットを叩きつける。


 ドゴッ。鈍い音が響く。


 手には頭蓋を打つ生々しい感触が伝わってきた。


 そして、血が飛び散りふらつく一角豚。


 思ったよりも、効いたみたいだ。よし、もう一度だっ!



 ドゴッ。



 その場に倒れこむ、一角豚。

俺は、何度も、何度もバットを打ち込み続ける。


 ドゴッ。ドゴッ。ドゴッ。ドゴッ。……


 やがて、一角豚はピクリとも動かなくなった。

バットは一角豚の血で染まって真っ赤だ。


 はぁ、はぁっ……倒したのか?



種族:一角豚

性別:男

レベル:1

HP:0/43

MP:0

STR:8

VIT:6

INT:0

DEX:1

AGI:9



「たっ、倒したあああああああっ!」



 気がつけば、俺は年甲斐もなく雄叫びをあげていた。



 ピッ。



『 経験値取得にボーナスがつきます。54の経験値を獲得しました。 』



 ピッ。



『 レベルアップ。スキルポイント15獲得しました。 』



 視界にマスクされるステータス表示と、レベルアップを知らせるポップなメロディーが流れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る