自室にて

辻窪 令斗

自室にて

 僕には好きな人がいる。


 一人だけだったら、恋人にする努力はしたかもしれない。

 だけど、複数の異性を好きになってしまった僕は、そんな甲斐性は微塵もなかった。

 今日も、その中の一人を相手に、僕の部屋で遊んでいる。


「ずっと思ってたんだけど、僕と一緒にいて楽しい?」

「ええ、楽しいわ」

「僕のこと、恋人だと思ってる?」

「当たり前でしょ。あなたは、そう思ってないの?」

「そ、そんなことないよ」

「嘘。私のこと、そんなに好きじゃないくせに」

「それは違うよ」

「でも、私知ってるわ。あなたが他の女の人と遊んでいること。それも、一人や二人じゃない。確認しきれないほど沢山よ」

「それはそうだ。認めるよ」

「私はただのくだらない愛人ってところかしら。でも、あなたのその隠さない性格は好きよ」

「僕は、ちょっと人と違う感性を持っているようだ。君は理解してくれる?」

「理解するかは別として、興味はあるわね」


「僕は、恋人という概念を認めていない」

「へえ」

「好きな人が一人でなければならない、という考えが、人間として間違っていると思う。恋愛とか、結婚とか、くだらない。なぜ、一生その人だけを好きでいなければならない?君のことは好きだ。だけど、僕は同じくらい、他の人も好きでいるんだ。誰が一番とかじゃない。誰と遊んでも楽しいし、誰が恋人で、誰が愛人かなんて、そんな不条理なことも決めていない。ただただ好きなんだ。この思考が理解されなくても構わない。だけど、僕は、人間は色んな人を好きになり、その人たちと楽しい時間を過ごせば、それは人生の一つの幸せの形だと思うんだ」

「ふうん。思ってたより、あなたって、単純なのね」

「どういうこと?」

「あなたの言うとおり、人は出会って多くの人とふれあい、好きになっていく。でも、その状態から、たった一人を選ぶという、高度な思考過程を持っていないのよ。その一人を選ぶのに、どれだけの苦労をすると思う?他の人をどんな手段を使っても排斥して、たった一つの存在を手に入れる。そのことに価値があるのよ」

「僕には分からない」

「分かるわ。だって、もうあなたは私のものなのだから」


 僕ははっとして、携帯電話で他の女に電話をしようとした。

 しかし、携帯電話には、何十件あった連絡先が、全て同じ名前、番号、メールアドレスに置き換わっていた。

「私は幸せよ。たった一つの存在を手に入れられたのだから。ねえ?」


 僕は鳥肌が立った。彼女のことを、好きじゃなくなったから。

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自室にて 辻窪 令斗 @mebius1810

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