引き問答

辻窪 令斗

引き問答

 「クリスマス爆破計画というものを考えた」

 科学者はこう発言した。


 「それはどういうものかね?」

 文学者が科学者に問う。


 「その名の通り、クリスマスを爆破しようということだ」

 科学者は回答した。


 「言っている意味が分からない。クリスマスというのは、祝日という概念でしかない。物理的には言わずもがな、社会的という意味でも爆破という言葉は誤解を招くだろう」

 文学者が反論した。


 「君はどうも頭だけで物事を捉えようとするな。クリスマスというものは、物理的に破壊可能なのだ」

 科学者が文学者の反論に応じた。


 「とても科学者の発言とは思えないな。フィクション小説でも書いた方がいいんじゃないか」

 文学者は皮肉を口にする。


 「いやいや、科学者君の言うことは非常に興味深いですな」

 哲学者が手を顎にやり、うなずきながら発言した。


 「さすが哲学者。事象に含まれる奥の奥まで見通しているようだ」

 一般人が訳のわからないことを言う。


 「まずは、私の考えた計画を聞いてくれ」

 科学者が本題に話を戻した。


 「まず、爆弾を作製する。爆破なのだから当然の作業だ。そして、クリスマスを爆破するのだが……」


 科学者が説明していると、文学者が口を挟んだ。

 「だから、そのクリスマスを爆破するという意味を説明してくれ」

 「そうだそうだ!」

 一般人が賛同する。


 「これから説明する。クリスマスというと、神聖な日をイメージすることが多いだろう。しかし、実際は神様の生まれた日、バースデーなのだ。バースデーというと、神聖というイメージより、祝福のイメージのほうが強くないだろうか」

 科学者が周囲の人間の顔色をうかがう。


 「なるほど、イメージを爆破するということですか。確かに、それなら可能かもしれませんな」

 哲学者が同意を示す。


 「しかし、それなら別に爆弾を作る必要はないだろう」

 文学者が疑問を呈する。


 「その通り。イメージを爆破するのではない。こちらの爆弾を見てもらおうか。実は、試作品として一つ、作ってみたのだ」

 科学者が自慢げに説明し、大きな箱を取り出した。


 「それが爆弾なのか」

 文学者が恐る恐る聞いた。


 「そうだ」

 科学者は顔色一つ変えずに答える。


 「うわあ、逃げろ!」

 一般人は逃げ出した。


 「やれやれ、まだ安全装置も外していないのに、一般人の奴は落ち着きがないな」

 科学者はあきれた。


 「落ち着きがあるとか、そういう問題なのか」

 文学者は問う。


 「うへへ、爆弾だあ!」

 哲学者の気が狂った。


 「哲学者君を押さえろ!」

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