第67話 未来君は私で勃ってください
「……はっ、俺は今何を?」
「だ、大丈夫ですか!?」
目を開けると目の前に
「彩夏ちゃん彩夏ちゃん。無限ループに入るから。ちょっとみーちゃん貸して」
俺の体に一瞬の浮遊感。そして、誰かに抱きしめられる。
「みーちゃん。起きないとボロンするよ」
「嫌だ! 捕まりたくない! ……はっ、俺は今何を?」
「それで起きんの? ……ちょっと見たかった感はあるけど」
「ムッツリツンデレママ……」
……あれ。もしかして俺今無意識下の中でツッコんでた?
「みーちゃんって寝ながらでも私がボケたらツッコむから。いけるかなって」
「慣れって怖い……というか顔近すぎませんか」
「むちゅー」
「やると思ったよ。お前なら」
唇に唇を押し当てようとしてくる零の頬を片手で掴んで止める。……本当にこいつは隙あらば狙ってくる。いや、隙がない時にだな。……本当に隙があれば、俺も零もとっくに一線を超えている気がする。
まあ、それは置いておこう。零の目がギラギラとしてきたし。『余計な事に気づいたのならもう我慢はしないけど?』と言いたげだし。
「大体あってるよ。いまから保健室行く?」
「保健室をナニ目的で使わないでください」
「え、でも保健体育の保健が使われてるんだよ。それならえっちな事をするための教室と言っても「過言だよ。養護教諭の先生に謝れ」」
そういえばかなり今更だが。周りが阿鼻叫喚の渦になっている。
「ア、アヤカチャンアヤカチャンアヤカチャンアヤカチャン」
「お、落ち着け!【nectar】の一番くじでお小遣いを使い果たした挙句親の金に手を出して半泣きになるまで怒られた山田!」
山田何してんの? 前も似たような事してなかった? 学ばないの?
ちなみに俺も一番くじは買った。運のいいことに、すぐA賞の彩夏のB2ポスターが当たった。欲を言えばB賞C賞の瑠樹と沙良のものも欲しかったが、予算的に諦めた。当然ラストワン賞もだ。
「……? みーちゃんアレになったんだし融通効きそうじゃない?」
「オタクってな。推しにお金を落とさないと死ぬ生き物なんだよ」
推しのグッズは欲しい。めちゃくちゃ欲しい。だが、それ以上に推しに幸せになって欲しいのだ。そのために一番目に見えて分かりやすいのかグッズを買う事である。俺が石油王なら億単位でお金を落としていただろう。
まあそれはそれとして。他の生徒達もなかなか阿鼻叫喚だ。なんだよ、なかなか阿鼻叫喚って。
「オシィ……オシィィ(新種のオタクの鳴き声)」
「う、嘘だよな……夢だよな。はは。ああ。夢だ。これは夢に決まってる」
「佐藤! 飛び降りはやめろ!」
「きゃー! 学校でちゅーしてる! 彩夏ちゃん可愛い!」
「てか待って、今瑠樹の名前出てなかった? そういう事なの!?」
「ヒャッハー! 血祭りにあげてやる!」
モヒカンが戦闘狂みたいな事を言っている。ここは本当に法治国家なのだろうか。
「帰りたい。帰ろうかな」
「学校サボって背徳えっちする?」
「しない。寝たい」
「やっぱり私と寝たいって事だよね!」
「ニホンゴムズカシイ」
と、やっていると先生が来た。ホームルームの始まりだ。俺は席に着いた。何故か席替えをしていないので相変わらず隣は彩夏。
まあ、授業くらいはのんびり出来るだろうと思っていた。
◆◆◆
のんびり出来ませんでしたが?
何故かと言うと。授業中にこっそり彩夏が何度も手を繋ごうとしてきたからだ。
「……少しでも未来さんと繋がっていたいんです」
「う゛っ(絶命)」
なにこの可愛い生物。いや天使。嫉妬する姿まで可愛いとかもう最強無敵天下統一国土無双では?
(私も嫉妬したのでみーちゃんの射精管理がしたいです!)
却下で。
というか、彩夏が転校してきてからそういう事をする暇がまじで無いんです。管理とかそういうレベルじゃない。大体部屋に誰かが居るからだ。かと言ってトイレや風呂でやる訳にもいかないし。
一度だけ、俺が間違って酒を飲んでしまった時にすっきりしたが……それだけだ。
あれ? 俺割と凄いのでは? これでも色々と旺盛な高校生だぞ?
(ちなみに私達に言ってくれたらいつでもどこでも何度でも抜くよ?)
この世界に怒られますが?
(世界に怒られるなら世界を変えれば良いんだよ)
話の規模がでかすぎるんだよ。気軽に世界を変えるな。神か。
『呼んだ?』
呼んでない。
(でも世界が変わってもみーちゃんの意識が今のみーちゃんと同じなのかとか興味あるよね。テセウスのみーちゃんだよ)
恐ろしい事をいわないでくれない?
(大丈夫。私が何とかするから)
もうこいつが神でいいんじゃないかな。
「みーちゃん、私の分霊に構いすぎだよ」
「生きていてそんなセリフを聞く事になるとは思わなかったよ。あと授業中だ。席に着け」
「そんなものに私達の中は引き裂けないよ!」
「授業をそんなもの扱いするな。先生ぷるぶるしてるだろ」
「廊下に立ってなさい!」
「昭和かな?」
という事で。俺と零は廊下に立たされる事になった。自業自得なので何も言えない。SNSに上げれば即炎上しそうだが(俺達も先生も)
「二人っきりだね、みーちゃん♡」
「お前は無敵か。無敵だったな」
「やる事ないし淫語プレイする? 耳貸して、みーちゃん」
「反省をしろ」
「そんなもの一文の得にもならないよ」
「一回本気で説教した方が良いのだろうか……」
しかし、説教も効かないだろう。どうしよう。助けて神様。
(無理無理。神様でも唯一出来ない事があるの)
ほんと役に立たねえなこの神様。
(お? ヒロイン十倍にしてやろうか?)
ごめんなさい許してください。
「まあ結局増えるんだけどね。ハーレムメンバーは」
「お前の立ち位置が未だに分からんのだが」
「……? みーちゃんのお嫁さんだよ?」
「お前ならそう言うと思ったよ」
まあそれも置いておこう。何にせよ、授業が受けられないのはそこそこ被害が大きい。
「私が授業しよっか?」
「……出来るのか?」
「高校大学の範囲ならもう全部出来るよ。一回見たら全部理解して覚えた」
「神様。この子だけ制作予算三桁くらい間違えてませんか。その上頭がおかしい業者にお願いしてませんか」
『知らんよ。そいつ私の管轄外の場所から生まれたし』
「お前本当に何者?」
「森羅万象だよ」
「絶妙にボケかどうか迷う答えなんですが」
「嘘だよ。私はみーちゃんのお嫁さん以外にはならないし」
「……まあ、お前が何であろうと関係ないのは確かだな」
零は零だ。それ以外の何者でもない。
「という事で授業を始めます。保健体育の」
「今やってる授業をしてくれませんか先生」
「……先生呼び良いかも。という事で今から特別授業をします。子作りです。未来君は私で勃ってください」
「教育委員会案件だな」
そうしてなんやかんやをやりながらも授業が終わった。昼食だ。
先生に謝罪しながらも教室へと戻る。……それにしても。
「お前教えるの上手すぎないか?」
「……? えっちの事?」
「数分前の記憶失くしたのか。授業だよ。いつもより分かりやすかったまであるぞ」
「みーちゃんに教えるなら全力を出さないと」
「これが努力する天才……」
「未来くーん! 急いで食べるんじゃなかったー!」
星の呼ぶ声にハッとした。時刻は一時。昼食時間が五十分とあるので、食べ終わったら校門まで行かないといけない。
「肛門でイカないといけない!?」
(肛門でイカないといけない!?)
「二人揃って言うな。というかもしかしてなんだけど。リビング零って零とまた分裂した存在なの? なんかどんどん主張強くなってない?」
「……? そうだよ? 私そのものと言うよりは私のクローンみたいな感じ? 精神のだけど」
「………………頭が痛くなってきたからやめよう」
これ以上踏み込むのなら本格的にジャンルが変わってしまう。……なんに変わるんだ?【狂気】とか? ジャンル:【狂気】ってなんだよ。
「みーくーるーくーん!」
「おっぱい!?」
俺の眼前におっぱいが迫る。いつぞやの乳ドンだ。柔らかいのになんという圧迫感……。
その時、背中に程よい柔らかさが。そして、右耳に吐息があひゃん。
「ほーら未来。そのまま星のおっぱいの中で深呼吸してみて」
「未来君……私のおっぱいも触ってみて」
「な、ならボクも!」
左手にすべすべとした触感。右腕がおっぱいへと抱き寄せられる。あとすっごい甘い匂いします。
四面おっぱいとはまさにこの事……ではなく!
「……ぷはっ! お前ら学校で何してるんだよ!」
「だって未来君、すーぐ零ちゃんと彩夏ちゃんとイチャつくし」
「そうだよ。ちょっとぐらい構ってくれても……い、いや! 寂しかったとかそんなんじゃないけど!」
「ん……はぁ。私は未来君に構ってもらえなくて寂しかったよ?」
「えっと……ボクはなんとなくです」
まだな? ここが家なら一万歩譲って分かる。しかしここは学校だ。教室なうだ。
「万歩って言葉えっちだよね」
「黙らっしゃい。脳内男子中学生」
「えへへ……」
「褒めとらん」
さて。どうしよう。またクラスが阿鼻叫喚の渦となっている。阿鼻叫喚が日常になるのは嫌だな……。
「……そろそろガチで生徒指導に入りそうだから飯を食べよう」
割とまじでそろそろ停学になりかねない。結構自由な校風だが、限度ってものがある。
「あ、じゃあ私が食べさせるよ。未来君」
「じゃあ私は……頭なでなでしておく?」
「私は未来君を食べようかな」
「俺は幼子か何かか。ツンデレママは本当にママになる気か。あと齧るな」
俺の手を甘噛みしている静を引き離し、俺は席へ着いた。
そして、
「よし、それじゃ行ってくるぞ」
「頑張ってねー」
「怪我はしないようにね。未来、彩夏」
「行ってらっしゃい、二人とも」
三人からの声を受けながら俺達は学校を出る。
「もうすぐ田熊さんは来るはずだ。まずは瑠樹の高校。次に沙良の高校へと向かう」
「ん、おっけ」
「分かりました。いつもと同じですね」
「ああ。それで、一時間ほどで向こうに着くはずだ。仕事に関しては……羽生プロデューサーがやってくれるらしいから大丈夫だと思う」
そうして校門で待っていると、すぐに田熊さんの車が来た。
「お待たせ致しました。すぐに残りのメンバーの元へ向かいますので……。なぜ貴方がここに?」
田熊さんが俺と彩夏の間を見てそう言った。
そこには、零が居た。
「みーちゃんの行く場所に私あり。という事です」
「……零が隣に居るのが日常だったから気づかなかった」
「ぼ、ボクも……普通に話してました」
当たり前のように俺の腕に腕を組んでいる零。俺は一つ、ため息を吐いた。
「戻れ、零」
「まあまあ。そう堅いこと言わずに」
「ヘルプ! 星!」
「あいあいさー」
呼ぶと星がすぐ来た。零が居ない事に気づいて来てくれたのだろう。
「えー! みーちゃん達と5Pしたかった!」
「当たり前のように【nectar】のメンバーを頭数に入れるな。一応俺マネージャーだぞ。それじゃあ星、頼んだぞ」
「あいあーい。二人とも気をつけてね」
「行ってらっしゃい、みーちゃん」
「お前の情緒どうなってんだよ……」
零は星に引きずられながらも俺達へ笑顔で手を振っていた。
それを見届け……俺は改めて田熊さんを見る。
「……お騒がせしました。行きましょう」
「………………かしこまりました」
さすがはプロ。何も言う事無く、田熊さんは頷いたのだった。
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