第13話 人の妹を封印された邪神みたいに扱うんじゃねえ! 合ってるけど!

 俺は今、過去最大の危機に襲われている。それはもう。今までの比にならないレベルの危機だ。


「お待たせ、みーちゃん」

「やめろ抱きついてくるな乳を押し付けてくるな当たってんぞ」

「当ててんのよ」

「それ言いたくてやった? いや、俺もそうなるよう言ってしまったんだけど」


 背中にはすべすべとした、暖かく柔らかい感触が。


 ――そう。今現在、俺と零は全裸なのである。


 理由はただ一つ。零との約束を果たすため。


 ……逃げられなかったのだ。この運命から。


「むぅ……みーちゃんのみーちゃんがおっきくなってない。はやくしようよ」

「そうならないよう頑張ってんだわ! 言っとくが風呂入るだけだからな!」

「おっきくならなければ十万円。おっきくなれば即挿入だよ」

「AV企画か! しかも挑戦者の条件厳しすぎるだろ!」

「まあまあ。まずはやってみなきゃ」

「やめろ! やらねえからな! もう一回言うぞ! やらねえからな!」


 そう言いながらも、俺は零に押されて浴室へと入れられる。


「やめろ! 摩るな! 股を擦り付けるな!」

「まあまあ」

「その言葉最強だと思ってる? もしかして」

「みーちゃんならなあなあで子供まで作れないかなって」

「俺をどれだけ優柔不断だと思ってるの!?」

「まあまあ」

「流されねえよ!?」

「とりあえず座って。背中流すから」

「ああ! もう!」


 そのまま俺は桶に座らされる。このままだと風呂に入る時間も長くなってしまうだろう……との考えでだ。決して優柔不断な訳では無い。


「それじゃ、洗っていくね」


 シュコシュコとボディソープの蓋が押される音が聞こえる。

 そして、ナイロンタオルの擦れる音が……



 聞こえない。


「ま、待て。おい。まさか。手でやるつもりじゃ無いだろうな?」

「……? 違うよ?」



 次の瞬間。俺の思考は何もかもが吹き飛んだ。




「全身で、だよ?」


 にゅるりと。背中に当たった。

「おまっっっっ!」

「ふふ。気持ちいい?」


 耳元で小さく、甘い声で囁かれる。


「や、やめろ」

「んー? ふふ。声ちっちゃくなってるよ? それに……」


 零の手が……泡まみれの手が伸びてきた。


「もうこんなにガッチガチ……しかも、おっきい」

「……これなんてエロ漫画?」

「もー! 良い雰囲気だったのにそんな事言わない! この調子でヤレると思ったのに!」

「ムードブレイカーのお前にだけは言われたくねえな!?」

「大丈夫。もうガッチガチだから。多分挿入はいる」

「やめろ! 前に来るな! 挿入れようとするな!」

「まあまあ。減るもんじゃなし」

「減らなければいいみたいなの良くないと思います! 俺! しかも生は!」

「え? 付ければ良いの?」

「待って? 今どこからゴム取り出した? 虚空から出さなかった?」

「……マジックみたいな感じ?」

「なんでお前も疑問形なの? というかやめろ! 付けようとするんじゃない!」


 剥き出しになっているピンク色のものを被せようとしてくる零の腕を掴む。


「まあまあ。何も減るものが無いどころか増えるんだよ? 家族が」

「やっぱ穴開けてんじゃねえか! 穴の空いたゴムなんざ針のない時計ぐらい意味ねえわ!」

「む。なら無しでやろう」

「それなら……とはならねえよ!?」

「ちっ。ドアインザフェイス失敗」

「知ってる? それって高い要求をした後に低めの要求するやつだよ? 今のって富士山登るの断った相手をエベレストに誘ってるようなもんだよ?」

「登山プレイなら出来るってこと……?」

「新しい言葉を生み出すんじゃねえ! 登山家に怒られろ!」


 どうにか零の腕を押さえていたが。変化が起きた。


「じゃあ仕方ない。本番は諦める。うわーてがすべったー」

「信じられないほどの棒読み!?」


 零が腕を横に開きながら倒れ込んできた。そして……






 ずりゅん、と。


「ふぉぐぁ!?」

「ふふふ……ちゃんとここも洗わないと……ね?」


 ギラン、と。零の瞳が輝いた。


「助けて! 暴女に襲われてます!」

「どうしたの!? お兄ちゃあああああああ! お兄ちゃんがえっちな漫画で見た展開になってる!?」

「なんで当たり前のように鍵閉めてたドア開けてるの? というかなんで全裸で風呂入る気まんまんなの? 入ってくるなって言ったよね? そろそろ愛しの妹って呼べなくなりそうだよ? お兄ちゃん」

「もう、お兄ちゃんのツンデレなんだから。『絶対に入ってくるなよ?』ってフリでしょ? テレビで見たもん」

「リテラシーの低下! 新の将来が不安で仕方ないよぉうぐ!? 零さん!? お願いですから動かないで!」

「ふふ。ここがええの? ここがええのんか?」

「エロおやじかよ! キャラ変わりすぎだ……う……」

「ふわぁぁあ! お兄ちゃんもお兄ちゃんのお兄ちゃんも凄い事に……」

「お兄ちゃんがゲシュタルト崩壊する! 零も離れろ! 新もどこかに行ってくれ!」


 ……と。なんやかんやあって。



「どうしてこうなった?」


 俺は今零の背中を流している。それ自体は良いのだが。


「うー! なんで目隠しするの! お兄ちゃん!」


 横でタオルを目隠しにした新が居るのだ。全裸の。


「俺だってそう思うよ!? 普通目隠しするのって男の俺だもんな! でもそうすればお前らに襲われかねないんだよ!」

「……? 目隠し無くても襲うけど?」

「躊躇いとか無いの???」

「無い」

「即答!?」


 そうして背中を洗っていると、横から不穏な言葉が聞こえてきた。

「あ……でもこれ、新しい寝取られプレイみたいで良いかも」

「俺の妹の性癖多くないか!?」

「ふふふ。私の性癖を舐めないでよねっ! お兄ちゃん関連ならなんでもいけるよ! お兄ちゃんって文字だけでも致せるよ!」

「それはもう病気だよ!」


 そんなやり取りをしながらも俺は零の背中を洗い終える。


「ありがと、みーちゃん。次は前だね」

「やらねえよ? 何当たり前のように言ってんの?」

「もう、照れないでよ。みーちゃん。おっぱい飲ませるよ?」

「やめろ! 乳を持つな! 近づけてくるな!」

「でもみーちゃん。おっぱいのむって言ってたよ?」

「おまっ! そんなこと俺が言うわけ「言ったよ?」」


 零は真顔でそう言った。


「……え? もしかして……俺が集団レイプされそうになった時か?」

「何それくわしく」

「新は黙ってような。話が進まん。で、零」

「うん。その時言ってた。みーちゃんが『おっぱい大好き! 零も大好き! 零のおっぱい飲む!』って」

「え……? まじ? 俺そんなきもい事言ってた?」

「嘘」

「嘘かよ! 焦らせんな!」

「でもおっぱい飲む? って聞いたら『ノム』って返ってきたのは本当」

「え……?」

「という訳でみーちゃんには二択を迫ります!」


 そう言って零が指を一つ立てた。


「一つ目! 今ここで授乳プレイをする!」

 そして、二本目を立てる。

「二つ目! 私の前半身も洗う! 特別に下半身は勘弁してあげる! 歩けなくなるから!」

「くそ、ドアインザフェイスの使い方ちゃんと分かってるじゃねえか! ちなみに両方嫌だと言ったら?」

「ん。今ここであーちゃんを解き放つ」

「人の妹を封印された邪神みたいに扱うんじゃねえ! 合ってるけど!」

「えへへ……」

「お前はそれで良いのか!? 俺が言うのもなんだがな!?」


 ニコニコしている新へそう言っていると、零がずずいと近寄ってきた。


「ん! どっちを選ぶの! みーちゃん! 早くしないと封印解いちゃうよ!」

「ぐ……くそ。なら後者で」

「ちゃんと言葉にしないと伝わらないよ!」

「いや何でだよ。さっき自分で言っただろうが」

「ほら! 早く!」

「ああもう! 分かったよ!」


 急かしてくる零に俺はもうヤケになっていた。


「う……零の前のほうも洗わせてください」

「むぅ……本当はおっぱいって言わせたかったけど」

「そこ以外も洗うからな!?」


 ……と、いう事で前の方も洗う事になった。



 余談になるが、背中は手で洗った。ナイロンタオルだと肌を傷つけかねないとの事で。俺はそれに納得していたが……


「……前も手で洗えって事だよな」

「当たり前。敏感な所をごしごしとかそういうプレイもやってみたいけど。今は手で!」

「ぐっ……これ一回で終わりだからな」

「ん。また言質取らない限りやらない」

「しっかりしろよ! 意識が飛んでる俺!」


 ……と、自分に言い聞かせながらもボディソープを泡立て直す。


「……それじゃ、いくぞ」

「ん……なんなら体で洗っても良いんだよ?」

「断る!」

「ひゃんっ! そんな……っ、いきなり……」


 こういうのは先に終わらせるに限る。俺は零の胸に一番最初に手を伸ばした。


 ……柔らかく、しっとりとしている。そして、重い。そんな胸にボディソープを広げるように洗う。



「ぅ……やぁ……にゅるにゅるすごっ……んぅ!」

「お前相変わらず防御力低いな!?」

「あんっ……感じやすいって言って」

「オブラートって知ってる?」

「あ……これ知ってる。答えられないと責めが一段階激しくなるやつだ……最終的に犯されちゃうやつだ。企画もので見た」

「新は何を言ってるんだ!? 強くならないし犯さねえよ!?」


 嬌声を上げる零が気にならなくなるようこちらも声を張る。


 しかし、どうしても反応してしまう訳で。


「ぅ……あ、これ、すごっ……背中、当たって……これから犯されるんだって、理解らせられちゃう……」

「だから犯さねえよ!? 話を聞け!」

「あ……これ聞いてるこっちもやばいかも」

「新も股に手を伸ばすな! ステイッッ!」

「あ、あぁ……お兄ちゃん、ついに私にも我慢プレイを……!」

「ああああ! もう! どうするのが! 正解なんだよ!」


 ……と。そんな事はあったものの、俺は無事貞操を守りきる事が出来た。



 ……だが、この時の俺は知らなかった。


 これから、遠足が始まるまで。まだまだ零達の猛攻が続くという事を。

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