第11話 え? 毎日お前の味噌汁(意味深)が飲みたいって?

「た、助けてくれ……豪。精神がががががががが」

「おぉ……学校来て早速壊れたラジオみたいになってんな。そんなに酷かったのか?」

「酷いなんてもんじゃないぞ! 視線とか視線とか視線とか!」

「視線オンリーかよ。……暴言とかは飛んでこなかったのか?」

「あいつらがそれを許すと?」

「……無さそうだな」

「ああ。……一人勇敢な奴は居たが、零が半ギレした」



 思い出すだけでも背筋がゾクリとする。


「……半ギレでそんなに怖かったのかよ」

「ああ。全ギレだと閻魔様もしょんべん漏らしながら裸足で逃げるレベルだぞ。アレは」

「大丈夫? それ言って。怒られない?」

「大丈夫。自分で言ってた事だ。『みーちゃんが地獄に行っても迎えに行くからね』ってさ」

「いや行く前にどうにかしろよ。悪い事する前に止めろよ」

「多分ノリノリで参加してくる上に隠蔽するぞ」

「犯罪者思考に染まりすぎて無いか!?」

「だって日々俺をどうやって逆レするか考えてるような女だもの」

「……えぇ?」


 豪がガチ困惑している。俺だってそっち側の人間だわ。そんな目で見るな。


 この前、俺が本読んでるのを零がずっと見ていた時の事だ。

『……何考えてるんだ?』

 と聞いた時、

『ん? ……いや、最近ずっと考えてるんだけどさ。どうやってみーちゃんを犯そっかなって。やっぱり騎乗位? 縛る? みーちゃんはどっちが良い?』

 って返された時の俺の顔を見せてやりたいね。


「……というか、お前大丈夫か? 今日遠足のレク決めとバスの席決めあっただろ」

「あ……」


 完全に忘れていた。


「お前大丈夫かよ……自分から手挙げてやったんだろ。遠足の委員」

「うわぁ……そうだわ。そうなんだわ。あの時はこんな事になるとは思ってなかったしな」

「まあ、有名税みたいなもんだ。諦めろ」

「くそ……なんで……なんで俺がこんな目に」

「いじめっ子にバチが当たった時みたいなセリフ吐いてんな」

「小物で悪かったな!」


 時計を見る。……俺の余命は六時間無いぐらいか。


 キリキリと痛む腹を押え、俺はため息を吐いた。


 ◆◆◆


「やべえ。もうゲロ吐きそう」

「うわぁ……女子組の目が無くなった途端これかよ」

 次が体育の時間という事で、男子更衣室へと来ていた。……のだが。


「あいつが俺の零ちゃんを……」「いや俺の零ちゃんを」「馬鹿言え。俺の零ちゃんだわ」

「く、くそ……星ちゃん。なんであんなやつを」「やっぱりオタクに優しいギャルなんて嘘だったんだ……」「オタクに優しいギャルは誰にでも優しいんだよ」「ァ……(絶命)」

「彩夏ちゃん……彩夏ちゃん……」「おい! しっかりしろ! 親のクレカ使ってグッズ買った挙句バレてくそ怒られた山田!」「何やってんだよ山田……」


 地獄絵図とはこれか。というか本当に何やってんだよ山田。


 とりあえずさっさと着替えて移動しよう。そう思って服を脱ぎ始めた時だった。


「お、俺! 朝見たぞ! 蒼音が彩夏ちゃんと零ちゃんと、他におっぱいのおっきな子と家の中から出てきたの!」


「「「「「「「「は?」」」」」」」」


 思わず俺も一緒に声を出してしまった。てか、え? 見られてた?


 ギロリと。何十もの目が俺を貫く。



「お前! 零ちゃんや彩夏ちゃんじゃ飽き足らず他の女の子にまで手出してんのか!?」

「しかもお兄ちゃんって呼ばせてたぞ」

「クソが! そういうプレイかよ!」

「というかヤってんのか!? 脱童貞してんのか!?」

「ア……アア……アヤカチャン」

「しっかりしろ! コンサートのチケットが手に入らなくて転売に手を出そうとした山田!」

 山田何やってんだよ。

「そういえば家に来た星ちゃんにいきなり抱きつかれたりもしてたぞ」

「なにィ!?」

「家まで迎えに来てくれるシチュかよ! こんにゃろうが!」



 その時、誰かが言った。


「な、なぁ……もしあの三人が蒼音にキスとかしてるんならよ。俺らがすれば間接キスじゃねえか……?」

「はぁ!?」


 思わず声が出た。ついに気が狂ったか。


 いや、でも大丈夫だろう。そんな事を気にするやつなど……


「お、お前……」

 ほら、みんなドン引きして――

「「「「「「「「天才かよ!」」」」」」」」

「ついに気が触れたか!?」


 ギロリと。俺を見る目が変わる。


「お、おい……って事はよ。蒼音に挿入れれば間接セッ〇スって事か……? 脱童貞出来るのか……?」

「「「「「「「「天才かよ!」」」」」」」」

「変態だよ!!!」


 ギロリ……とこちらを見ていた目がどんどん近づいてくる。


「お、おい……嘘……嘘だよな? タチの悪い嫌がらせだよな? お、おい。やめ、服を脱が――」







 ◆◆◆




 なんとなく、早めに服を着変えて外に出た。本当になんとなく。


 すると、胸に飛び込んでくる人影があった。一瞬身構えてしまったけど……それがなんなのかすぐに分かったので迎え入れた。


「もう、みーちゃんったら大胆……学校でいきなりなんて…………みーちゃん?」


 いつもなら飛んでくるみーちゃんのツッコミが飛んでこない。その事に違和感があってみーちゃんを見てみると……


「コワイ……オトココワイ……」

「みーちゃん!? 何があったの!?」

「ア……ヤワラカイ……カタクナイ……」

「みーちゃん!? そんな怖がっておっぱいに顔を埋めて……あ、今新しい扉開けた」


 怖がっているみーちゃんを見て新しい性癖を開拓しながら、その頭を撫でる。


「大丈夫だよ。もう怖くないからね。おっぱい飲む? 子供作る?」

「ァ……コドモ……ダメ」

「ぐっ……ダメだったか。でもおっぱいは……?」

「ノム」

「!? ……そ、そこまで追い詰められて……でも言質は取ったからね」


 弱っているみーちゃんは後で授乳プレイで嫌になるほど甘やかそう。最低でも五時間は。


 そう考えていた時だ。


「クソ、未来! 逃げろ! こいつら俺じゃ止められ……九条ちゃん?」

「……相葉君?」


 男子更衣室から波のように押し寄せてくる男子を相葉君がせき止めていた。


「……何があったの?」


 気づけば、そんな声が出ていた。みーちゃんの前で出さないようにしていたのに。


「お、おぉ……未来への嫉妬がみんな強まってな。バカが未来にキスすれば間接キスじゃね? 挿入れれば間接……で脱童貞出来るんじゃね? とか言い出してな」

「……へぇ」


 みーちゃんを抱きしめながら、ピタリと止まった波へと近づく。


「という事は相葉君はみーちゃんを逃がしてくれたんだよね? ありがと」

「お、おぉ……一応言っとくが、ギリギリでセーフだったからな?」

「ん……良かった。それじゃ命まで奪う必要は無いね」


 みーちゃんの頭を愛おしげに撫でながら……男子生徒を見る。






「それじゃ、一列に並んで? 一人一人、タマ潰してくから」

「……へ?」

「だって、そんなのが付いてるからみーちゃんを襲おうとしたんでしょ? あ、ちょっと待ってね。私、暴漢対策に安全靴持ってるんだ。鉄板入ってるやつ。今持ってくるから」

「ちょ、ちょっとま」

「早く並んで? 竿まで潰されたい?」


 そうして男子生徒達を一列に並ばせる。


 ……しかし、直前で星ちゃん達に止められてしまった。惜しかった。


 ◆◆◆


「……いやもうまじで助かった。ありがとうな、豪」

「お、おう……まさかあんな連中も居るとはな」


 その後、どうにか正気に戻った俺は豪へとお礼を言った。


 ちなみに、豪以外の男子の半分以上に個別指導がされるらしい。あんな奴ら退学で良いだろう。


「……あと、零にもお礼をしないとな」

「あぁ……あの時はすごい迫力だったぞ。正直チビりそうだった」


 豪へと苦笑いしつつ……俺は考える。


 ……さて。俺はショックで記憶を失っていたが。零へと何か良くない事を言っていないだろうか。零の事だから意識の飛んでる俺相手でも策を散りばめてそうだが……


「……まあ、何にしても先にお礼は言わないとな」

 四限目が終わったので、次は昼食時間だ。


「ああ、そうだ。昼はやっぱあの人達と食うのか?」

「多分そうなる。もし違ったら戻ってくるはずだ」

「分かった」


 豪へとそう言って俺は教科書を片付け、鋭い視線が突き刺さる中零の元へと向かう。


「……? みーちゃん、どうかした? おっぱい欲しくなった? バブみ感じる?」

「一気に畳み掛けて来るんじゃねえよ。欲しくなっとらんわ」

「む……残念」

「じゃなくてだな。……その、ありがとな」

「ん。どういたしまして。お代は体で払ってね?」

「台無しだよ。何もかもが。株を下げるプロなの?」

「えへへ……」

「褒めてねえわ! ……だが、俺が出来る範囲でならお礼はするつもりだ」

「え? 毎日お前の味噌汁(意味深)が飲みたいって?」

「言っとらん言っとらん」

「じゃあ毎日みーちゃんの味噌汁(意味深)が飲みたい」

「話聞いてた? ねえ?」

「え? みーちゃんとお互いの体液を絡ませながら私にみーちゃんの遺伝子を注ぎ込むって話じゃなかった?」

「どこがどうなったらそうなるんだよ」

「え? だって、みーちゃんなんでもするって」

「言っとらんわ。俺が出来る分だわ」

「出来るって子供が?」

「噛み合わねえなぁ! わざとやってる?」

「当たり前でしょ。上手いこと言質取れないかなって」

「助けて! 豪!」

「俺はドラ〇もんじゃねえぞ! そんぐらい自分でどうにかしろ!」


 思わず叫んだが、教室の反対側からそう返ってきた。

「ぐぅ……」

「ぐうの音出てんじゃねえかよ」

 おお、凄い。この距離からでもツッコんでくるか。段々磨かれていってるな。


「ふふ。……友達にも見捨てられて。でも私は、私だけは見捨てないからね? だから観念して子供作ろ?」

「傷心中に取り入ってくる悪女ムーブやめろ」

「もー! じゃあどうやったら子供作ってくれるの! やっぱり無理や「はい、そこまで。外まで会話聞こえてるから」もごご」


 零の口を星が塞いだ。いつの間に……と思っていたら、彩夏もその隣に居た。



「み、未来さん。私も一緒に食べても良いですか?」

「ん? ……ああ。というか、そこも聞きに来たんだ。昼は一緒に食べるか? 零」

「むぐむぐ……ん、もちろん。バレるとかもう無いし。というかみーちゃん! お風呂一緒に入るっていう約束はどうなったの!」

「そういえば彩夏、授業で分からないところとかあったか?」

「……えっ、あ、はい。今のところは大丈夫ですよ」

「へぇ。また話逸らすんだ。良いんだよ? こっちにはあーちゃんも居るし。みーちゃんがお風呂入ってる時に押し入っても」

「悪かった! 悪かったから勘弁してくれ!」

「よろしい。じゃあ体洗いっこしようね。体の隅から隅まで。なんなら中まで」

「タワシで洗ってやろうか?」

「そ、それって……お前を傷つけていいのは俺だけだって事……!?」

「皮肉が通じないの無敵すぎるな」


 思わずため息を吐く。


「という事だ。昼は一緒に食べられるぞ」

「やった……!」

 彩夏が手をぐっと握った。ぷるんと揺れた。でか(ry)


 そこからどうにか意識を逸らす。また一つ思い出した事があった。


「……ああ、そうだ。その前にちょっと打ち合わせだけしてくる」

「みーちゃんまた浮気?」

「またってなんだよ……遠足のレク決めとかの奴だよ」

「ああ……そういや未来達が委員だっけ。確か……浜中さんだっけ」

「そうだ。ちょっと行ってくる」


 俺は星へとそう言って、教室の隅でスマホを見ている浜中……浜中静はまなかしずかの元へと向かった。



 なぜか、ずっと星が俺を見ていた気がしたが。

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