【五章開始!】俺の事が大好きな幼馴染と釣り合うよう努力していたら、あの時助けたアイドルが転校してきて学校が修羅場と化しています

皐月陽龍 「氷姫」電撃文庫 5月発売!

一章 転機

第1話 起きたら全裸の幼馴染がベッドに潜り込んでいた

 突然だが、俺には『幼馴染』と呼ばれる存在がいる。

 名前は九条零くじょうれい。艶やかな髪を背中まで長く伸ばし、凛とした雰囲気を持っている。しかし、身体は出るところは出て、引っ込んでいる所は引っ込んでいるというモデル顔負けの容姿だ。


 中学生の頃までは周りからとても羨ましがられ――いや。嫉妬されていた。そもそも俺も零の事が幼馴染だと周りに言いふらす気は無かったのだが、中学の頃は零がバラした。……お陰で周りからの強い視線に何度も何度も射抜かれた。

 高校生になってからは周りに言ってなかったし、零にも言わないよう頼んだのだが……バレるのは時間の問題であった。




 鳥の鳴く声と共に、朝の微睡みから逃れる様に伸びをする。


 まず最初に甘い香りが鼻についた。続いて霞んだ視界が一面に肌色に染まっている事に気づいた。



「……ん、おはよ」

 鈴のように澄んだ、耳心地の良い声。そんな声は……俺のすぐ傍から聞こえた。


「何度言えば分かるんだ。布団に潜り込んでくるんじゃない」

 目の前には全裸の幼馴染が寝転がっていた。


 寝起きで見るには刺激的な光景。目の前には手に収まりきらないほどの胸があり、少し顔をあげれば百人が百人振り向くような美貌の持ち主……九条零が俺を見て微笑んでいた。




「……だって、全然起きないから」

「だからって全裸で潜り込む奴があるか……「えい」んぐ」

 愚痴を言おうとしたらその豊満な胸で口を塞がれた。甘い女の子の匂いが鼻腔をくすぐる。


「ん……満足した?」

「おいこら。人がおっぱいで気が逸れるとでと思ったか。何年このやり方で丸め込まれていると思っているんだ」

 嘘である。心臓バックバクで完全に臨戦状態である。


「でも、心臓が早いよ? それに、ここも」

 あろう事か、彼女は肥大化した俺のモノを手で握った。


「……うぐ……思春期の男のモノに触れるんじゃない。まったく、汚らわしい」


「……? みーちゃんの身体に汚れてる所なんて無いよ? それとも洗ってあげようか?」

「その名前で呼ぶなと何度言えば分かる。名前で呼ぶか苗字で呼んでくれ。恥ずかしい。あと気軽にそんな事を言うな。もう華の女子高生だろうが」


「……みーちゃんって名前可愛いのに」

 零はそう言って布団の中に頭を突っ込んだ。


「みーちゃんのみーちゃんもおはようございます」

「おいこらド変態。やめろ。近づくな」

 肩を掴んで引き剥がすも、零は未だに合掌した体制であった。


「……なんで拝んでるんだよ」

「だって、あんなにおっきいの入らなさそうだから。初めてはお手柔らかにって言っておかないと」

「生々しいぞおい。少なくとも男に対して言う話では無いし恥じらいを持て。女の子」


「だって……昔はあんなに小さかったのに」

「地味にコンプレックスなんだぞこれ。水泳の時は皆からからかわれるし」

「私は好きだよ? みーちゃんの身体は全部」


「……お前は早く彼氏を作れ」

「や」


 見ての通り、零は俺に依存している。それを直そうと相手の親とも相談して、一旦距離を取ろうと別の高校を選んだのだ。


 が、もう一度言おう。見ての通りである。


「そもそも私がみーちゃん以外の男と付き合うと思う? 私は思いませんとも」

「……男子との交流があるなら、って条件付きで同じ高校なのを許可したけど間違いだったか」


 彼女は俺と違う高校だと知ってからは荒れに荒れまくった。とは言ってもヒステリックに泣き叫ぶとか、そう言う訳ではなく、ひっそりと影で泣いているタイプなのが余計心を痛めさせた。


 最終的に、『もうみーちゃんと会えなくなるなら……既成事実を作れば……?』などと言いながら襲われそうになって、仕方なくその条件を出したのだ。


「でも、ちゃんと男子との関わりもあるよ? 色んな人に話しかけてるし、告白とか週一でされてるし」

「……話が合う男子とかイケメンな男子と付き合うのはどうだ? この前隣のクラスのサッカー部の男子に告白されてただろ」

「や」

「その心は?」

「私はみーちゃんが好きだし、みーちゃんも私が好き。それなのに他の人と付き合う必要ある?」

「……凄い自信だな」

「当たり前でしょ?みーちゃんの為だけに努力しているのに。――それとも、」

「みーちゃんは私の事……嫌い?」






 一瞬、俺は考えた。ここで頷けば全て解決するのでは無いかと。



「ああ」


 そう返すと、彼女は傷ついた様子を見せる。それに心が痛むのは間違いないのだが、こうでもしなければ離れないと踏んだ。


「……ひっぐ」

「……」

 例え零が泣いたとしても俺は心を鬼にする。


「……ぅう」


 心が痛い。だけど、これは零の為だ。


「……じゃ、あ、わたし、みーちゃんの好みの女の子に、なる様努力する、から!」


 彼女が自分磨きに手を抜いていない事はもちろん知っている。


 体型を維持するためのランニングや、美容ケア。髪質にも気を使っている。



「もっと……もっと、みーちゃんに釣り合う様に努力する……から、」



「ああ! もう! 悪かった! 全部嘘だ!」


 嫌いになって貰えればどれだけ有難いか。だけど、彼女は……俺の事を嫌いにならない。


「じゃ、じゃあ……みーちゃんの隣に居て、いいですか?」


「居てくれ! 俺が悪かったから許してくれ! 何でもするから!」


 心がいたたまれなくなり、罪悪感に駆られてそんな事を言ってしまう。


「よかっ……た」

 零はそう言って抱きついてきた。色々なものが当たってしまい大変な事になってしまう。


 しばらくそうしていると零は泣きやみ、そして至近距離で微笑んだ。


「みーちゃん、大好きだよ?」


 その破壊力は計り知れない物があった。


「……俺もだ」


 こんな会話をしているが、俺達はただの幼馴染だ。それ以上でも以下でも無い。





 恋人になる事は決して有り得ない。なぜなら、



 ――俺と零は誰がどう見ても釣り合っていないから。



「みーちゃんが自分に自信が持てないんだったら、私が付けさせるよ」


 まるで心を読んだかの様に零は告げた。


「私はみーちゃんの事が好きだから、みーちゃんにもみーちゃんを好きになってもらえる様に頑張る」

「……本来なら頑張るのは俺のはずなんだがな」

「みーちゃんが頑張る手伝いを頑張るだけ」


 そんな頼もしい事を幼馴染が微笑んで告げた。


「でも、私最近色んな男に言い寄られて困ってるの」

「そりゃ零程良い女を見逃す奴は早々居ないだろ」

「みーちゃんは見逃し三振しようとしてたのに?」

「そこまで見越してバットに当ててくるから怖ぇんだよ」


 このままでは話が逸れてしまうと、零がこほんと咳払いをした。どうでもいいが早く服をつけて欲しい。咳払いだけでも零のは大きいからたぷんと揺れてしまうのだ。


「さっき何でもするって言ったよね?」

「………………ああ」

 さすがにやり過ぎた感は否めない。一度くらい言う事を聞かないとバチが――


「じゃ、じゃあキスマーク、付けて」

「はぁ!?」


 零は……潤んだ目で俺を見ていた。



「さすがにそれは……」

「私、これでも結構心にキたんだよ?本当なら三年は引きこもっちゃうぐらい」


「くっ……」


 ……大好きな幼馴染を傷つけてしまった罪悪感が俺の心をぐるぐる回る。


 一つ、ため息を吐いた。


「……しょうがない。今日だけだからな」

「うん! 二箇所でいいから!」

「一箇所じゃないのか……」

「当たり前でしょ。一箇所だけだったら虫刺されと勘違いされるし」


 未来は長く深く溜息を吐いて心の準備を済ませる。


「それで? どこにすればいいんだ?」

 時間もないからさっさと済ませようと思って尋ねると、零は髪を書き上げて首と肩の間を指さした。


「ここ」

「ああ……加減が分からないから痛いかも知れないぞ?」

「寧ろご褒美。痛くして」

「ドMか」

「みーちゃんになら何をされてもご褒美だよ?」


 これは何を言っても無駄だと思いながら、顔を首へと寄せる。


 ふわりと柔らかく甘い香りが鼻腔を刺激し、その傷一つないシミ一つ無い身体が目に入る。


 唇を触れさせると「ん、」と声が漏れた。


 ちう、と吸うと甘い声が漏れ、それが耳を伝って脳内を犯される。


 そうして数十秒程吸って口を離すと、そこは赤くぽつんと腫れていた。


「どう? 出来てる?」

 自身では確認する事は出来ない為、零が尋ねてきた。


「……ああ、自分でも驚くぐらい上手く付いてる」

「本当? 嘘だったら学校で付けさせるよ?」

「本当だぞ……こんな事に嘘は付かん」

 時間も無い為次はどこに付けるんだと急かすと、少々の沈黙があった。


「……ここ」

 そう言って指さした場所は……




 胸である。


「はぁ!?」


 思わず叫んでしまい、慌てて口を塞いだ。


「あのなぁ……そこはさすがに」


「……私、本当につらかったんだけどなぁ」

「うぐっ……」



 このまま黙っていても過ぎるのは時間のみである。



 未来は覚悟を決めた。


「……どうなっても知らないからな」

 零を抱き寄せ、胸元に唇を押し付ける。


 ふにょん、と形状が変わるため中々付けづらい。


「ん……あん、」

 加えて、先程とはまた異なる甘い香りと声が未来の心を犯した。


「んっ、付けづらいなら、こっちでも……いいよ?」

 そう言って零が指さしたのは胸の中心でぷくりと膨らんでいる部分である。


「断る」

 そこはさすがに色々なものを失うことになってしまう。


 仕方ないと手で胸を支え、齧り付く様に吸った。


「ん! ……ぅあ、それ、やばいっ!」

 零は一度ビクンッと身体を跳ねさせ……同時にくたりと横になった。


「ほら、言っただろ? どうなっても知らないって」

「うん……凄かった」

 ほわほわと放心状態の零に告げるも、曖昧な返事しか返ってこない。


 こうして零が俺へと『お願い』をして、こうして果てるのは初めてでは無かった。


 ここまで俺から肌を密着させる事こそ少ないが、その理由として零の防御力が紙装甲になっているからだ。酷い時だと膝枕をして耳かきをするだけで果ててしまう程。


「……ほら、さっさと服着ろ。行くぞ」

「あ……待って、シーツが……その」

 そんな事言われなくても分かっている。


「洗濯機に掛けておくから。さっさと服を着ろ」


 傍から見れば俺が酷い事をして、さらには急かすと言うなんとも言えない光景なのだが……零は幸せそうに頷いたのだった。

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