第3話 書くこと

書くことが 救いとならなくなってから久しい

かつては書くことで 忘我し 現実の困難を忘れることが出来た

現状は 生活のリアリズムに引っ張られ 

忘我と没入は 抑制されてしまう


健全と言えば健全なのだが

それは ひとたび生活が崩落した時に

自分の魂もまた 同時に崩落する危険を秘めている

文化は魂のリスクヘッジだからだ


呆けた頭で

何一つ気の利いた言葉も浮かばない

それでもなお 思うことを書きとめるしかない

人生を経験し 経験を書きとめるしかない

救いにはならないが

不確定な世界と 生きる過程の中で

せめてものささやかな<寄る辺>とならないかなと

未練がましくあがくのである

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