デルタ〔Δ〕な彼女

楠本恵士

第1話・デルタ〔Δ〕な彼女

《おはよう、今日もいい天気だよ》

 朝、オレは屋根が破損して空が丸見えの上空から聞こえてきた、自称〝彼女〟の声で起こされた。

 眠い目を擦りながら見上げるオレの目に、彼女の下側が見える。

《そんなにジロジロ、お腹を見られると恥ずかしいよ》

「そこ、お腹だったんだ」

《横に動くね、屋根に開いた穴を塞いだシールドはそのままにしておくから、雨が降っても大丈夫だよ》


 彼女が横に移動すると、少し日差しが部屋に射し込んできた。

 オレは眩しさに目を細める。

《さあ、起きた起きた》

「一つ聞いてもいいか」

《なに?》

「前から気になっていたけれど、それ目なのか? 真ん中の二重円」

 彼女を下から見ると、三角形の中に、円とか線が見える。

《う~ん、よくわかんない。目かも知れないし、そうじゃないかも知れないし》

「自分の体だろう、なんでわからないんだ?」

《だって、気づいたらこの体になっていたから……あっ》

 デルタな彼女が、驚いた声を出す。

「どうした?」

《今、受信したニュースで言っていた、球体で連なった未確認非行物体〔UFO〕の連隊が母船と一緒に都市の上空を移動しているって……カルガモのお引っ越しみたいに、近くの池に母船と子船が移動だって》

「ふ~ん」

 最近は、未確認飛行物体の出没も頻繁で、珍しくもなくなった。


 オレは、三角形な彼女に上から見られながら、パジャマ姿で顔を洗い歯を磨く。

 洗面所の上も彼女が、光線で開けた穴がある。

「本当に家のあちらこちらを、穴だらけにしてくれたな」

《だって、いつも見ていたかったんだもん》

 彼女の姿は、平らな黒い三角形型をしている。どちらかと言うと図形の三角形というよりは。

 ギリシャ文字のデルタ〔Δ〕に似ている。


 彼女は、オレが書店で本を立ち読みしていると、背後に水平に立ってオレを見ていた。

 全長十メートル前後の三角形が。


 書店の天井を見上げると、長方形の穴が開いていた。溶解液みたいなモノで建物を溶かして室内に侵入してきたらしい。

《こんにちは、なに読んでいるんですか?》

 それが、彼女の第一声で、オレと彼女との出会いだった──その日から、オレは彼女につきまとわれている。


 パジャマ姿で制服に着替えために自分の部屋にもどったオレは、天井の穴から彼女を見上げて言った。

「これから、着替えるから後ろ向いていてくれないか」

《わかった》

 彼女の下部に見えていた二重円や線の模様が消えて、光沢がある黒色に変わる──どうやら、この形態が彼女が背を向けている状態らしい。


 着替えながらオレは彼女と会話をする。

「宇宙ってどんな場所だ? 他の未確認飛行物体に遭遇するコトもあるのか? 会話するとか?」

《どうって聞かれても……星雲とか星は綺麗だけれど、見慣れると退屈な場所だよ……他の飛行物体は、宇宙人や未来人の乗り物だったり、円盤型の生物だったり……いろいろだよ、最近はアダムスキー型はレトロなクラッシック円盤だから減ってきたかな》


 彼女の話しだと、未確認飛行物体とか、空飛ぶ円盤は。人間が乗っている乗り物や猫や犬の動物と同じらしい。

 走っている自動車やバスやトラックに、いちいち話しかける人がいないのと同じみたいな感覚らしい。


 制服に着替えたオレは、学校に向かうために家を出た。

 簡単な朝食ゼリー飲料をチューチュー吸いながら、バス停まで向かうオレの頭上を彼女は、フワフワと浮かびながらついてくる。


 空には、さまざまな形状の未確認飛行物体が朝から飛んでいた。

 楕円だえん形、円錐えんすい形、台形からロケット型、クラゲ型やカブトガニ型のような奇妙なモノまで多種多様な飛行物体が、頭上を飛び回っている。


 彼女が言った。

《こんなに、はっきりと存在が確認できるんだから、そろそろ〝未確認〟って呼び方変えた方が良くない……これ提案だけれど『アンノウン』って呼び方なんてどう?》


 アンノウン──まだ解明されていない、未知の、不明のって意味。オレは悪くないと思った。

「未知の飛行物体・アンノウンか……うん、オレはこれからそう呼ぶようにする……君のコトは未知の存在だから」

《あたしが、アンノウン……まぁ、別にいいけれど》

 二重円や線を点滅させている彼女は、なんとなく不服そうにも見えた。

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