あいより
峯橋文弥
第1話 1-7 林田 純恋
「ねぇ先生?愛してるよ」
私にそう言った彼女はとても寂しげだった。
今にも涙が溢れ出てきそうな、そんな眼差しで私を見つめる彼女に
「ありがとう。僕を愛しても得なんかないよ」私は笑ってそう答えることしか許されかった。彼女は真面目とか不真面目とかそういう1生徒という印象が無く、人として私は彼女が好きだった。成績もいたって普通でふざけるタイプでもなかったので授業中会話はほとんどなかった。一年生の夏頃。昼休みに彼女が美術準備室に訪れた。少し迷惑だと思った部分もあったが部屋に入れた。彼女は放置された作品たちを眺めて私に感想を言っていた。
「この人きっと自分の絵に自惚れてる」とか
「私この絵買いたい!」とか
好き放題言った後、私に対して
「先生はどれが一番嫌い?」
と聞いてきたので、なぜ好きな物じゃなく嫌いなものを聞くのだろうと思いながら壁の右端に飾ってある人物画を指差した。その作品の人物を見ていると何もない真っ暗な空洞に吸い込まれそうな感覚がしてずっと嫌いだった。
「すっごい見る目ないね。先生は」
これが美術教師が生徒に言われた言葉とは衝撃だ。チャイムが鳴ったせいでなぜそう思うのか質問する前に彼女が教室に帰ってしまいモヤッとした状態で次の1-7の授業まで過ごさなくてはならなくなった。
木曜日。4限。
1-7の授業が後5分で終わる。昼休みに話を聞きたくて仕方がなくなった私は彼女を昼食に誘った。「私のこと好きなんだねー先生」なんて言うので少し憎たらしくなった。
この前の話を聞こうと思い彼女に問うと全く覚えてないわと言われたのでもやもやはずっと続くのか。と覚悟した。
「恋愛相談てほどじゃないんだけどさ」
女子高校生の恋愛事情。楽しそうな話題だ。
青春時代そこそこ社交的なグループに属していた私はその類の話題を聞いて話すのがとても好きだった。新米教師ということもあり生徒からの恋愛相談も受けることが多かった。
「好きな人と一緒に過ごす夢を見たの。とっても楽しいはずなのに悲しかった。私、起きたら泣いてたんだよ。困っちゃうよね本当。」
恐ろしいほど笑顔でそんな深いことを言うので瞬時に返答できなかった。
でもその時の彼女はすごく美しかった。
悲壮的な感情を一生懸命私に見せないように繕って笑顔を作っていることが目に見えてわかったから。
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