EPISODE7 『これ、還そう。ちゃんと伝えてほしい』
そしてみんなの感じたことを聞いたボクが、このソレを持った瞬間感じたのは、純粋で、だけど少しだけ複雑になってしまったものだった。
――ありがとう
たった一言、本当はそれを親に伝えたい。だけどそれを素直に伝えるのは、なんだかすごく気恥ずかしい……。
きっとそんな感情がグルグルめぐっているうちに、気恥ずかしさでトゲトゲしてきちゃって、素直だったはずの心もちょこっとだけ硬くなっちゃって。それでも頑張って本当はちゃんと伝えようとして、だけどどうしても上手く伝えられなくて。だからきっと、このソレの持ち主は、今度は必死に見ないふりをした。
「だからここに落ちてきちゃったんだ」
だけどこれ、このままじゃ絶対にもったいない。よく言うでしょう? 『ありがとう』は『有り難う』、あることが難しいから感謝を伝える言葉だって。
一人納得しているボク。周りのみんなは一様にポカンとしていて、慌てて説明足らずだったとみんなへ話す。
「これ、たぶんだけど、『ありがとう』って言う気持ちだよ」
「え!? そのトゲトゲ!?」
ショッカクが驚いて叫んだ。その言葉に頷きながら説明をする。
「きっとこれ、本当はショッカクの言う通り、温かいだけのはずだったと思うんだ。だけど上手く言えない『ありがとう』だったんじゃないかな? それでトゲトゲしてきちゃったんだと思うよ」
「なるほどねー……。そしたらボクが堅いなぁって感じたのも?」
今度はミカクが聞いてきた。
「うん。おんなじ理由だと思う。『ありがとう』が上手く言えないうちに、ちょっとずつ硬くなってきちゃったんじゃないかな? 」
『でもきっと、そんなにまだ時間が経っていないはずだと思うんだ』とボクはみんなに続けた。
「だって、音も色も匂いも、まだまだキレイだったんだよね」
その言葉に他の三人は頷いた。だったらこれ、やっぱり早く返してあげたほうがいいやつだ。
ショッカクは『温かいんだけどね、少しチクチクする』
――素直に言えない“ありがとう”が形を変え始めちゃってて
シカクは『コーラルピンクとレモンイエロー』
――少し恥ずかしくて照れちゃって、だけどその奥に見えるのは優しいまぁるい気持ち
キュウカクは『新緑の爽やかないい香り』
――どこまでもまっすぐで、純粋な混じり気の無い想い
ミカクは『ケチャップとソースとお肉の味。ちょっとだけ硬かった』
――恥ずかしさで少し固まってきちゃったけど、思いだすのはいつでもこの味
チョウカクは『鳥のさえずりと、優しく吹く風の音だ』
――やっぱり優しい、キレイな本音
「よし! チョウカク、ごめんだけど一回またこのソレ、預かっててくれる?」
チョウカクにそう伝えると、チョウカクは『おう』と短く返事をしてソレを受け取ってくれた。ボクはソレを確認して家の中へ一度戻る。そうしてみんなのいる玄関へもう一度戻ってきて、『ぱんぱかぱーん!』と言いながらあるものを出した。
「あぁ、なるほど。今回はそれで半強制的に、持ち主の元に還すんですね」
シカクの言葉にボクは頷く。
「うん。ちょっとこれはやっぱり、長くボクの手元に置いておいたら悪くなる一方な気がしてさ」
ボクが腕に抱えてきたもの……それはソレを入れて打ち上げる小さなバズーカだった。
「それじゃ、いつもの丘に行こう!」
その言葉を合図にみんなで揃って、いつもソレを還す場所である丘へと向かう。フゥロだけが立ち止まったまま玄関から動こうとしなかったから、『行くよ?』と声をかけたら自分も付いていくとは思っていなかったみたいで『わかった』とだけ言って、みんなより数歩後ろをついてきた。
「チョウカク、ソレ、貸して」
「はいよ」
チョウカクからソレを受け取って、バズーカの中に詰める。ぎゅむぎゅむと詰め込んだら、準備はおっけー。
「よし、いっくよー!はっしゃー!!」
ボクの掛け声とともに、ポスンッ!と音が鳴り響いて空高く落ちてきたソレが昇っていく。チョウカクが『相変わらずうるせー音だけど、嫌いじゃねぇな』と言って笑っている。それを聞いたシカクが『確かに。チョウカク、このバズーカの音は平気ですよね』と言い、『なんでなんでー?』とミカクが訪ねた。
「さぁな、わかんねぇけど。嫌な音じゃない、ってことだけは確かだ」
チョウカクがそう言うと、
「チョウカクさんが嫌な音じゃないっていうんなら、嫌なものじゃないんですよ」
とキュウカクが言い、ショッカクもそれに同意する。
「きっとアノコが使っているバズーカだから、かもな」
空高く昇っていくソレをボクらはただ、見守っていた。
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