保健室登校の憂鬱

霜花 桔梗

第1話

 わたしは仮面を付けていた。そう、高校生生活が嫌になったのある。


 だから、外した。


 クズみたいな人間関係を止めて、保健室登校を始めたのだ。


 しかし……。


 先客がいた、最新の流行を取り入れたのか、お姫様カットである。


「こ、こんにちは」

「出たな、イモムシ、わたしはここで勉強する、邪魔をするな」


 冒頭から極めて非友好的な態度である。ここはなめられたら損である。わたしはナイフを取り出して手首を切る。結構血がでたな。よし、これでなめられることはない。


「あーまた、変なのが増えた」


 頭の髪をクシャクシャにしてこちらに向かってくるのは保険の先生こと『神奈川 舞』である。


 おっと、わたしの名前がまだだった『神城 美琴』である。


「普通、初対面の相手の前でリストカットする?」

「すみません、これがわたしの常識なので」


 などと、開き直っていると。


「くくく、一階の女子更衣室に向かう水道の前は気を付けな。はちあわせたら最後、ブスだ」


 具体的だな、こいつは本物だ。


「黙れ『相馬 撫子』わたしは資格試験の勉強で忙しい」


 勤務中に資格の勉強とな、この先生もイカレテいる。



 それから、わたしは渋々、切った手首の治療を受ける。手際良く大きなばんそうこうが貼られ治療が終了する。


 流石、プロだと感心していると、撫子が近づいてくる。


「頭が痛い、薬くれ」

「ただの寝過ぎだ、グランドを一周してこい」

「ケチ」


 撫子はベッドに戻ると毛布に包まる。ひょっとして、この保健室は平和なのであろうか……。


 ここはわたしも普通に勉強しよう。丸椅子に机を用意して教科書を広げる。難しいな。ホント、今の時代は詰め込み教育だな。何故、盗んだバイクで走りださないのであろう?


 ま、関係ないか。


 カリカリ……。


 普通に勉強の時間続く。あー飽きた。コーヒーでも飲むか。この保健室なる場所はコーヒーセットが常備されている。


「ずずず……」


 インスタントコーヒーの味だ。モソモソとベッドから撫子が起きてくると。


「わたしも飲む」

「あいよ」


 わたしが『撫子』と書かれたマグカップを取り出すと。熱いお湯を入れて手渡す「ぽ……」嫌な予感する言葉を発する。


「あ、言い忘れたが撫子は惚れっぽいから気をつけな」


 神奈川先生が鉛筆をくわえながら、説明する。このヤンデレに惚れられる?


 背筋がゾッとした。


 翌日、わたしは撫子の視線に脅えていた。昨日の『ぽ……』がまだ続いている感じだ。


「撫子さん、生きたい?」


 神奈川先生が微妙な質問する。確かに恋をしているなら絶対、肯定するはずだ。


「いや、死にたいし……」


 では、昨日の『ぽ……』何なのだ?わたしはストレートに「好きな人いる?」と撫子に問う。


「それが分からないのよ、昨日、一瞬のキュンがあったのだが、映画のリ〇グを見たら、邪気が増して寝たら過去になっていた」


 もう、過去かよ、わたしは昨日から悪寒が止まらなかったのに。無事に恋心が無くなったなら。問題ない。わたしは昇降口に隠して置いたスタンガンを回収することにした。


「ま!それ本物?」


 保健室に戻ると撫子が寄ってくる。しまった、こいつはこの手の物が好物なのか。


「ボウガンが規制されて、密輸しかないのかと思っていたの」


 わたしも詳しくはないが撫子はサイコパスと言うのではないか。ここは、このアイテムを使おう。


『冷えたコーヒー缶!』


 わたしは撫子に缶コーヒーをプレゼントすると。


「おお心の友よ」


 ジャ〇アンの決め台詞である。しかし、F先生は名言をいくつも持っているな。わたしは保健室の窓を開ける。


『死せるF先生、生ける仲達を走らす』


「琴美さん、ネタは万人にわかるモノを使いなさい」


 神奈川先生のアドバイスは適格である。


 しかし、保健室は刺激が少ない。しいて言うなら、新聞が三誌あることだ。元々は職員室で使っていたモノが時代背景から取るのを止めようかと話しになったが、神奈川先生が読みたいと駄々をこねて、そのまま、保健室で取る事になったのだ。


「美琴、この古新聞を紙ひもで結んでくれ」


 わたしは渋々、古新聞を紙ひもで縛る。


「なんだ、ずぶずぶではないか」

「イヤ、かよわい、女子には向かない仕事であろう」


 と……反論すると。神奈川先生は頭をポリポリとかき。


「駐輪場の隣にある。倉庫まで運べ、までは言ってないぞ」


 そんな会話が終わる頃には。用務員さんを呼び。ひも縛りから倉庫への移動を頼むのであった。


 む?撫子が神奈川先生とのやり取りを見ていて、余裕の表情の撫子はじゃがりこをポリポリ食べていた。


「ロシアのドル建て債券がデフォルトするらしいな、戦争が始まった当初はルーブルを買って、一稼ぎしようか迷ったくらいだ」


 やはり、遠巻きにじゃがりこを食べている。


 こ奴できる……。


 そんな微妙な会話が続くと。


「暑いな、窓を閉めてエアコンをつけよう」


 撫子は窓に近づくとお姫様カットの髪が揺れる。


「可憐だ……」


 今度はわたしが惚れる番か?撫子と百合関係にでもなったら。地獄だ、イヤ、煉獄だ。そんな様子を見ていた神奈川先生は『ω』な顔になると。


「強制、勉学の時間」


 神奈川先生は中央にテーブルを移動して三人で勉強する事に。だから、神奈川先生の資格の勉強は要らないはずだ。しかし、この数学の確率分布は難しいな。


 ホント、詰め込み教育はどうなのであろう。


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