第62話 モルト君 登場
「チエストーッ!!」
「
見事、タックルが決まりました。
ラガーマンは、だらしなく地面に沈みます。
不審者に正義のてっちりを、ではなく、
そーいえばフグ鍋、食べてないわ。
(注:てっちり▶ふぐが主体の鍋料理の事。鉄槌ではありません)
「この不審者、捕まえたわよ!」
私は不審者の襟首を引き上げると、そのまま締め上げました。
「わ、た、し、の、ビール、タンク、に、何し、て、ん、の、あ、ん、た!」
「ぐ、る、し、い、で、す、女、王、さ、ま、………」
ガクッ
あ、落ちた。
◆◇◆
◆ログハウス
ちゃぶ台
「は?私があんたを産んだ?私、まだ未婚の一歳児よ。産めるわけないじゃない!」
「た、確かに女王様のお声がしたんです。『もっと美味しいビールを沢山飲みたい』って。だから、僕が産まれたんです」
「ごめん、私、ラガーマンに知り合い居ないわ」
「そ、そんな……なら、僕、は、何の、為に、生まれ、たん、で、しょうか」
ポタポタポタとヘルメットの隙間から、落ちていく涙。
私が泣かせたの!?
「ちょ、なんか私が悪者みたいじゃない!」
「す、すみません」
このラガーマン。
ビール妖精のモルト君だという。
ビール妖精?なんじゃそりゃ、です。
詳しく聞き出したら、なんでも私の祈りのような力が働いて生まれてきたとの事。
だから、私が産んだ事になったわけ??
いやいや私の祈りって、祈ってないし、むしろ儲け話に目が眩んだ、欲望しかなかったんだけど!
「わ、わかった、分かったから!泣き止んでくれる?!」
「女王、様?」
「あと、女王様じゃないから!」
「女王様は女王様です。他になんとお呼びすればよろしいのですか?」
「カーナ、カーナでいいわ」
「カーナ様?」
「様は要らない。カーナでいいわ」
「カーナ……様」
「んん、まあ、いいわ。其れで?貴方、どんな事が出来るの?」
「美味しいビールを造ります。ボクの主な力は、酵母コントロール、時短熟成、適温管理、ビールプラント召喚、水召喚です。ビールプラント召喚は、ビールプラントその物を召喚でき、仕込み、蒸留、加熱処理、ビン詰め、梱包までを一貫して行えるオートメーションライン工場になります。また水召喚は、天然水、海洋深層水、温泉水と召喚でき、ビールの仕込みに欠かせません。このビールプラント召喚、水召喚のお陰で、ボクは短期間に、大量のビールを生産する事が出来るのです」
「おおーっ、まさにビールの申し子みたい」
「エヘヘ、そ、そうですか?」
「そーだよ、あんた、凄かったんだね。見直したよ」
「じょ、カーナ様に喜んで頂いて、僕も嬉しいです」
うーん、ビールプラントって、所謂、ビール工場そのものだよね?
と、いうことは、商業化のネックだった生産量を大幅に改善出来るって事じゃん。
モルト君、まさに
ピロンッ
『カネノナルキは、ベンケイソウ科クラッスラ属の多肉植物。正式には、クラッスラ・ポルツラケアといい、 英語ではマネーツリー、ダラープラントなどといい、葉が硬貨に似ているのが名前の由来である』
ああ、そんなの、あったわねって、ちょっと、ナビちゃん!?
最近、出番がないからって、いきなり割り込まないでよ!
『………………』
ま、まあ、いいわ。
これで商業化に、一気に突き進む事が出来る。
見てなさい。
必ず軌道に乗せて、地球の周回軌道を一週してみせるわ!
そして、お金を貯めて、誰がなんと言おうと、この森を出て沢山の国を巡る海外ツアーにいくのよ!
海外旅行、海外旅行、海外旅行!!
◆◇◆
◆翌日
「と言うわけで、ビール妖精のモルト君でーす。拍手ーっパチパチパチッ」
ポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッポフッ
ん、肉球だから音が違いまね。
ですが、叩いてる怠惰ウサギ、駄犬、共に、何やら無表情です。何も考えてないですね。
『で、
「ウフフ、【聞いて驚け】です。なんとモルト君は、私が召喚したビール妖精なのです!」
決まった!
私は鼻高々に胸をはります。
皆の衆、私に感謝せよ、おーほ、ほ、ほ。
あれ?
何か雰囲気が変わりませんね。皆さん、首を
シラ~ッとした空気が、辺りを包みます。
なんで?
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