第28話 従者

◆従者アルタクス 視点


ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ


「くっ、肩をやられたか…」


利き腕側をやられたようだ。

暫く、利き腕は使えそうにないな。

ふうっ、だが幸い、真ガルシア帝国の追っ手は上手く撒けたようだ。


私の名は、アルタクス。

テータニア皇国の魔剣士にして、皇国第三皇女、オルデアン様の従者だ。


私は皇国の祭事、【雪ウサギ狩り】の狩り場にオルデアン様の従者として、護衛にあたっていた。


祭事は皇族が新年を祝いに雪ウサギを狩って、皇国の守護神、【スプリング・エフェメラル】様に奉納し、その一年の皇国の安寧を願うものだ。

祭事は滞りなく終わり、王と王妃、皇太子様とオルデアン様は無事に帰途についた筈だった。


しかし、【神の森】の周辺に差し掛かったところで、突如、真ガルシア帝国の隠密部隊の攻撃を受けてしまった。

雪ウサギの狩り場は皇都から近く、比較的安全であり、また、この行事はその祭事の事情から、皇族だけで行う行事であり、毎年、小数精鋭による護衛でり行っていたが、そこを突かれた形だ。


我々は、馬車7台を縦列に組んで進ませ、その左右を護衛していたのだが、唯一の難所である【神の森】周辺の林で、真ガルシア帝国の隠密部隊に遭遇、左右から急襲を受けてしまった。

そして、王と王妃、皇太子の馬車と、オルデアン様の馬車が分断されてしまったのだ。

しかし我々は、当初の護衛計画の通り、分断時の落ち合い場所を街道先の丘と取り決めており、それに従っておのおのの退路に向かい、馬車を走らせた。

幸い、王、王妃、皇太子の馬車に、追っ手は掛からなかった様だが、それは最初からガルシア帝国の狙いが、オルデアン第三皇女だった可能性が高いという事に他ならない。


奴らの狙いがオルデアン様である理由、それは、【皇族の血】だ。


テータニア皇国。

アーデ▪ラテーナ大陸、最大の大国であり、また、最大のを持つ国である。


世界は、いつの頃からか寒冷化が進み、春が無くなった。

国々は人々を生かす為に春を求め、魔石の運用で魔法を使い、【結界】を作った。

都市を、国を、それで覆い、寒冷化を退しりぞけた。


しかし、これにより良質な魔石が高価な資源となり、各国で取り合いになり、戦争が起きた。


この世界には魔法という力があり、自然のことわりに作用し、神のような力を作り出す事が出来る。

その魔法を使う方法は、魔力と魔石がなければならない。


魔力は、大気中の魔素と呼ばれるものを、生物が呼吸により取り込み、変換したものが魔力と言う。

この世界の生物の体内には魔臓と呼ばれる、魔素から魔力を生み出す器官があり、この大陸にいる人間を含めた、あらゆる生き物にあるものだ。

しかし魔臓に貯められる魔力は僅かで、とても魔法を起こせる程の魔力を持つ者は少ないのが現状だ。


そして魔石だが、魔獣と呼ばれる魔力を持った獰猛どうもうな獣の心臓の中にあり、魔力を多く蓄える事が出来る。

この魔石は人間の微量魔力に反応し、人が魔石の中の魔力を自由に引き出し、魔法を行使する事が出来るのだ。


そして、それとは別に、聖魔石とよばれるものがある。

これは魔獣ではなく、聖獣の心臓から産出する。

聖獣とは神に近い種族とされ、神域の森に棲む獣達の総称だ。


魔石と聖魔石は、用途、特性は同じであるが、その性能に大きな開きがある。


魔石は寿命が短く、また魔力消費が大きい。

絶えず魔力を注ぐ必要があり、魔力は生物の生命力で代用が効く為、安易に生け贄を使う。


それに対し聖魔石は、用途や使用法は同じだが、魔石より寿命が長く、魔力消費が小さい。

だから聖魔石の方が良質なのだが、聖魔石を宿す聖獣が中々居ない。



そんな中、テータニア皇国は、国全体を巨大結界で覆い、それによる国の豊かさは大陸随一となった。


その理由が【ティターニヤの涙】といわれる聖魔石せいませきにより、広大な国土を、春の結界で覆う事が出来ている点にある。

この【ティターニアの涙】は唯一無二であり、未だに新しく魔力を注がずとも結界を維持できるのだ。


それは、寒冷化で苦しむ他国の羨望の的であり、春を欲しがる他国にとっては、喉から手が出る程に欲しいものなのだ。

だから他国は【ティターニアの涙】を奪う為、幾度となく皇国に戦争を仕掛けてきた。


しかし、寒冷化で疲弊ひへいした国が、【ティターニアの涙】による豊かな物資に支えられた皇国軍に敵うはずもなく、ほとんどの国が途中で撤退していった。

そして皇国は、【ティターニアの涙】を他国に奪われないようにと、皇国の地下迷宮の深部に納める事とした。


この地下迷宮は、やがて、その地下から湧き出た瘴気により、アンデッドの巣窟となっており、その深部に納められた【ティターニアの涙】に辿り着くには、皇族の血がなければ侵入は容易ではない。


皇族は代々、その血に神に愛された【聖なる血】を宿す。

この【聖なる血】は、神性力をまとっており、アンデッド達は、近寄ってはこないのだ。


これが、オルデアン様が狙われた理由なのだ。

真ガルシア帝国は、執拗に【ティターニアの涙】を狙ってくる。

皇国を守る為には、皇族を守らなければならない。



「オルデアン様、このアルタクスが、必ず、合流し、お守り致します。どうか、其まで御無事で…」



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◆カーナ▪アイーハ視点


『スキル▶【お煎餅せんべいの家】が開放されました』


ナント言う事!

私のお菓子の家が、【お煎餅せんべいの家】になってしまったようです。


煎餅せんべいの家…でも、考え直してみると、家を基本として考えるなら、お煎餅せんべいの方がいいのかも知れません。

だって純粋に建材としてみたら、JIS規格に通るのは、お菓子か、お煎餅せんべい、どちらだと思います?

いや、どちらも通りません?ごもっとも。

でも建材なら、柔らかいスポンジケーキの壁と、ガチガチの堅焼き煎餅せんべいの壁、比べるべくもありませんよね。

え、比べるものがお菓子かしい?

ええ、分かってますって。

硬いチョコだってお菓子だって言うんでしょ。

そんなの、知ってますよ!

これは、自分を納得させる方便ほうべんなんです。

まあ、お煎餅せんべいも嫌いじゃないですよ。

でもねぇ、家の外観を想像すると、お煎餅せんべいの家って、ドンナ家?でしょ。

やっぱり、有名な童話の家の方が格好いいイメージがあるじゃないですか。

ヨーロピアンブランドハウスと、日本の田舎の安売り建て売り住宅的な違い?

でも、お煎餅せんべいの家でも、濡れ煎餅せんべいはヤダさんだよ。


さて、女の子は困ってますし、また地面に寝るのも筋肉痛は困ります。

どうなるか分かりませんが、呼び出してみましょうか。

この只ッ広い花畑に、プライベートルームだけってのは、頂けません。

やはり個室は、家の中にあるべきです。

さあ、この羞恥心を糧に、早速呼び出してみましょうね。




「顕現、お 煎餅せんべいの家!」

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