第13話 経験値爆増

――


コボルト レア度:ノーマル (10)

①コボルトを1体召喚する。

②『獣の嗅覚』……周辺の生命体1体の位置を特定する。


――


「お疲れー! どうだった? 何か使えそうな能力そう?」


「……これは、いきなりビンゴかもしれない!」


 僕はフィーテに、コボルトのカードを見せてみた。


「ビンゴって、この獣の嗅覚ってやつ? ただモンスターの場所を特定するだけの能力じゃないの?」


「その、ただ特定するだけの能力が強いんだ」


 強い……どころの話じゃない。ぶっ壊れだ。おまけに、僕たちが直面している問題にピッタリだ。


「この階層にいるコボルトを全部狩ったら、外に出てみよう。ちょっと試したいことがある」


 それから、僕たちは2層のコボルトを3匹狩り、外へと出た。



「で、試したいことって何なの?」


 草原エリアに戻ってくると、フィーテが尋ねてくる。

 僕はさっそく、コボルトのカードを1枚ケースから取り出してみた。


「獣の嗅覚、発動!」


 宣言をした瞬間、僕の目の前にはステータスウィンドウが出現した。


「なにそれ!」


 フィーテにも見えるようで、僕の隣に立って覗き込む。


――


周辺の生命体

・人間

・スライム

・ゴブリン

・アリ


――


 それは、近くにいる生き物の名前のリストだった。

 人間というのは、僕たちのことだろう。他にも、モンスターや、アリのような小さな生き物まで満遍なくリストアップされている。


「確かに便利な能力だと思うけど……でも、この能力とレベルアップに何の関係があるの?」


「聞いたことないか? 倒すと一気にレベルアップすることが出来る、ゴールデンスライムの噂!」


 レベルが上がる仕組みとして、最も有力だとされているのが、『経験値』説だ。

 レベルを上げるには、モンスターを倒して経験値を獲得する必要がある。経験値はモンスターによって変わるが、強ければ強いほど多い傾向がある。


 しかし、例外的に、力が弱いのに経験値を大量に獲得できるモンスターがいるそうだ。それが、ゴールデンスライム。

 とはいえ、すぐに見つかるようなモンスターではない。ゴールデンスライムは隠れるのが上手く、熟練の冒険者でも年に1体見つけられるかどうか、という難易度らしい。


「もし、僕の仮説が正しければ……いた!」


――


周辺の生命体

・ゴールデンスライム


――


 見つけた。この近くに、ゴールデンスライムがいる!


「……そっか! ゴールデンスライムが近くにいるなら!」


 僕の真意を理解したフィーテは、パンと手を叩く。

 僕たちは顔を見合わせた後、ゴールデンスライムの文字を指した。


「獣の嗅覚の対象に、ゴールデンスライムを指定!」


 すると、エコーソナーを使用したときと同じように、僕の頭にある場所が浮かび上がってきた。

 ここは……すぐ近くだ。


「あの草むらか!」


 パッと見た感じではわからないけど、あそこにゴールデンスライムが隠れているようだ。


「液状化、発動!」


 さらに、スライムのカードを使用して、こっそりとゴールデンスライムのいる草むらに近づいていく。

 もしかしたら、同族だと思ってもらえるかもしれないな。お、いたいた!


 草むらの陰から、金色の光が漏れている。見た目はスライムそのものだが、色が全く違うぞ。


 どうやら、僕が近づいていることには気づいていないようだ。よし、これなら!


「今だ! 解除!」


「キュッ!?」


 突如目の前に現れた男に、ゴールデンスライムは驚きを隠せない。

 急いで背を向けて逃げようとするが――時すでに遅し。


 刃を思い切り突き刺すと、ゴールデンスライムは動きを止め、溶けてしまった。


「「やった!」」


 僕とフィーテは同時に歓喜の声を上げた。

 ゴールデンスライムを倒したぞ!


――


 レベルが5になりました。

 レベルが6になりました。

 レベルが7になりました。


――


「……はは」


 思わず変な笑いがこぼれてしまった。


 レベルが一気に3も上がっただって? さすがに冗談だろ? 

 だけど、これは夢でも何でもない。現実に、僕はレベル7になったのだ。


「レシオ、レベルはどうなった?」


「7になったよ」


「え……!? 一気に3も上がったの!?」


 フィーテもかなり驚いているようで、いつもの饒舌ぶりも収まってしまった。


「ねえ、<カード化>って、私たちが思ってたよりすごいスキルなんじゃないの?」


「僕もようやく気付いてきたところだよ」


 たった一週間で、レベル1から7に。歴史的に見ても、こんな事例ないんじゃないだろうか。


「1か月でレベル30なんてもんじゃない。下手したら、今週中には30になるかもしれないぞ……?」


「それ、あながち冗談じゃないかもね。っていうか、適正な目標な気がしてきた」


 見えてきたスキルの真価。それは、僕たちの想像力をはるかに超えるものだった。

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