第4話

 目が覚めると、俺は知らない部屋にいた。コンクリート壁の、狭い部屋。白いパイプベッドに寝ていた。ちらりと横を見るとハシボソさんが座っていた。

「気がつきましたか」

 もう泣いてはいなかったが目と鼻が真っ赤だった。声も掠れている。先程のことが夢ではなかったと再確認して思わず目を閉じた。

「すみません。俺、気絶しましたよね。運んでもらってありがとうございます」

「いいえ。僕も取り乱してしまいすみませんでした」

「あの……本当なんですか?」

 嘘であってほしい。そう願って聞いてみた。だけどハシボソさんは首を縦に振った。

「残念ながら、本当のことです。すでに御遺体は黒服が納棺済みで、鷹木さん──あなたが来るまでは誰も棺の窓を開けないように人払いをしています」

「そうです、か……ここから遠いですか? すぐに行きたいです」

 ここがどこかわからないが、納棺済みということは父は葬儀場にいるのだろう。起き上がりベッドから降りようとして、ハシボソさんに止められた。俺はベッドに腰をかけた。

「落ち着いてください。ここは黒服の本拠地、つまり葬儀場です。師範は下のフロアにいます。すぐに会いたいとは思いますが、その前に確認しなければならないことがあります」

 そう言ってハシボソさんは俺の髪を掻き上げてこめかみを確認した。

「ああ……やはり、痣がある」

 とても残念そうに言葉をこぼした。

「失礼しました。鷹木さん、あなたチョウに鱗粉を付けられましたね。それも最悪な奴の……」

「ええと、鱗粉かはわからないですけど、この間の青髪の男がこめかみを俺の頭に擦り付けてきました。ハシボソさんが来る前に。どれくらい前かはわからないんですけど」

「その青髪の男はチョウです。悔しいですがこの間逃してしまった奴……よりにもよって鷹木さんに鱗粉をつけるなんて……!」

 声を荒げた後、すぐにハシボソさんは目を瞑り深呼吸をした。そして落ち着いた声で、部屋の隅のロッカーの鍵を俺に渡し、中の喪服に着替えて待っているように言って部屋から出ていってしまった。

 何もできない俺は、大人しくロッカーを開けて自分のサイズに合う喪服を探して着替えた。ふとロッカーの扉についている鏡でこめかみを確認してみたら、たしかに羽のような痣が見えた。

「変な形だな……タトゥーみたいだ」

 そんなことをぼんやり考えていると、ハシボソさんが戻ってきた。

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