エッセイ「わだち」

ほうがん しゅん

時には透明犬になりたい

オイラを視なかったことにしてちょうだい

オイラだって時には隠れたいときがあるんだよ

こんな気持ちになるなんてオイラおもいもしなかったよ

やっばり 年老いたんだなぁオイラ



あのね

坂を下ってくる犬がオイラの方に近づいて来たんだ

そいつは足が長くってちょいと垂れ目のやつなんだ


でね道端や草むらの中をクンクン嗅いでる

だから奴はオイラがここに居るってこと気づかない様だった

トンマダネェ嬉しそうにくんくん嗅いでたからね・・


だけど、まづいことにご主人様同士が顔見知りのようでさ

どんどこ奴との距離が近づいてくるんだよ

ぐいぐいリードを引っ張られっちゃうとまづいことになりそうな予感がした


だからさ おいら腰と頭を低くして構えたぞ

もう・・肉球がすり減るのを覚悟して身を低くしてだぞ

食い下がってね、主人様に気持ちを伝えたんだ・・


ご主人様はオイラの事を理解してくれる優しい人だから良かったよ

奴のご主人に優しくオイラの気持ちを伝えてくれたから助かったよ



そりゃ若かったころのオイラは勇敢だったね 

オイラのご先祖様は獰猛な熊に戦いを挑んで追いつめるんだぞ

どうだぁ 凄いだろ 

オイラのご先祖様だぜ、どうだ立派だだろ

ほらオイラの体格を視りゃ分かるだろ 

オイラの体格はご先祖様そっくりなんだぜ


じゃぁ なんで挨拶嫌いになっちゃったんだって?

熊よりちっちゃな相手にしり込みするのかって


それなんだよ

それなんだけどなぁ・・・

実のところオイラ、ようわからんのよ


けどな・・

思いだして視りゃ挨拶嫌いになったと思うふしがあった


オイラ 挨拶するのが大好きだったんだ

初めて会う奴の鼻先に鼻をくっつけて嗅いだよ

うん、それから尻も嗅いだんだ

こいつとなら仲良くできるぞと思ってさ

奴の眼を見ながら頭を低くしてさ 一緒に遊ぼって誘ったんだ

そしたら・・いきなり、いきなりだぞ

首から肩辺りにがぶりって噛みつかれたんだ


仲良くできる奴と思っていた相手がだぞ

オイラに噛みついてきたんだぜ


オイラも牙を持ってるから戦おうと思った

だけど オイラは熊を追い払う勇気ある血筋を受け継いでいるから

アイツに歯向かってやっつける自信はある


けど・・大けがをさせたくないもんね

それからだよ

挨拶が嫌いになったのは・・

それからだったとおもうな 

 犬には近づかないことにしたんだ。









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