第44話 奇襲
料理人たちが、ノウムに街に戻りたいと訴えている時、部屋の外から気配が感じられていた。
ドン、ドン、ドンと規則正しい音が、振動が床を揺らす。
「何か、何か来る!」
真琴が顔を上げる。響介も絢音もそれを感じて、近づく何かに構えていた。
部屋の前で、音が振動が止まった。
一同、固唾をのみ扉を見つめる。
その時がついに来た。
勢いよく扉が開いたというより、破壊されたと言う方が正しい表現だ。
そこには、真琴たちが浮浪者と呼んでいた大男が複数、立っていた。
浮浪者、銀の塔での名前は”バルバルス”と呼ばれる。
真琴たちは、量産されていた部屋を思い出していた。
あの部屋からやってきたのか?
ウビークエが、すかさず、翻訳機のスイッチを入れていた。
「どうした、バルバルス!」ノウムが声を上げる。
バルバルスが、ピーヒョロオーと言うファックスの音のようなものを発した。
「パイロを探している?」
ノウムが、翻訳する。パウロが、咄嗟にノウムの後ろ隠れる。
バルバルスが、ノウムを片手で振り払う。ノウムが壁まで飛ばされる。
ノウムは、素早く立ち上がり、バルバルスに立ち向かう。
「私を誰だと思っている?お前たち、何をしているのかわかっているのか?」
ノウムが、バルバルスを睨みつける。また、ファックス音。
「銀の創造主の命令だとぉ」
なぜ、私の排除命令が出ているのだ。
私は、人間の事を学習し研究しろと言ったのは、あなた、銀の創造主ではないか?
今さら、辞めろだと。
ノウムは、バルバルスと真琴たちの間に大きく両手を広げ、立ちはだかる。
”……ここから、出さない”翻訳機の画面に表示された。
「ここから出さないと言ってる!」
ウビークエが、真琴たちに大声で伝えて、翻訳機のカラスのアイコンをタップした。
ノウムにかまわずバルバルスが、部屋の中へと押し進む。
「後ろに下がってろ!」と真琴がウベークエたちに叫んだ。
ノウムと真琴たちは、五体のバルバルスに立ち向かった。
「注意しろ!このバルバルスは、新型だ!パワーアップしている」
と、ノウムが叫んだ時、真琴が壁に叩きつけられていた。
「早く言ってよ」
真琴が、ホコリを払いながら立ち上がった。
「新型なんて、関係ないよっと」
真琴が、バルバルスに向かっていく。
真琴、響介、絢音は一体ずつ、ノウムは、二体相手にしている。
ノウムは、細い体で頼りなく見えるが、動きが早い。
ノウムのパンチやキックが、次々とバルバルスにヒットし、厚い装甲を凹ませていく。
バルバルスの大振りの攻撃は、ノウムに避けられ、文字通り手が出なかった。
銀の創造主は、バルバルスの他にもう一つ、この部屋に潜り込ませていた。
それは、虫型の小型ドローンだ。
ノウムは、ドローンに気づいていない。
ドローンは、ハエの様な大きさで飛び回っている。
そのドローンが、ノウムの背中に張り付いた途端、瞬時停電を起こしたように、ノウムの動きが止まった。
そこに、バルバルス二体による集中攻撃を受けた。
無抵抗のまま、二体のバルバルスが、ノウムの腕を掴んで、引きちぎろうとしていた。
再起動したノウムが、両腕を捉えているバルバルスを見て、目を閉じると閃光を発した。
配線がショートして焼けた匂いが漂う。
バルバルスは、間接から煙を上げて、ゆっくりと膝をつき、横にどぉっと倒れこんだ。
バルバルスは、皮膚も剥がれてしまい、金属の骨格が表れている。
ノウムも無事には済まなかった。腕が取れてしまっていた。
その隙をついて、ウビークエとオピフがノウムに駆け寄った。
そして、パウロが後を追った。
「なんてことだ。ノウムさん、分かるか?」
ウビークエとオピフが、ノウムを抱きかかえる。
「……電源が急激に減少している……後数秒で私は止まってしまう。
嗚呼、最後にイチゴケーキを食べてみたかった……」
もう、ノウムは見えていないようだった。
「ノウムさん!あなたのメモリをくれ!どこにあるんだ!」
オピフが叫んだ。すると、ノウムの頭がパカッと開いた。
「俺にまかせろ!」とオピフが慣れた手つきで、メモリを取り出した。
「お前には出来るだろ」
オピフは、メモリをパイロに差し出した。
「ああ、出来るさ」
誰にもこれを絶対離さないとパイロは、両手でしっかりと握った。
真琴たちとバルバルスの戦いは続いていた。
”でかいヤツと戦う時は、倒して戦う”は、前回の戦いで成功していた。
先ずは、倒すことだ。
真琴にバルバルスのパンチが襲い掛かる。
<早い>真琴は、目を見開きパンチを避ける。瞬きなんて出来ない。
瞬きしたら、五発くらいパンチを食らってしまいそうだ。
真琴は、バルバルスにパンチを避けながら、一発、蹴りを繰り出したが、カンという音だけで壊れはしなかった。
「気をつけろ!強くなってる」真琴は、叫びながら戦う。
「関節だ!関節を狙え!」後ろから、オピフの声。
真琴の蹴りは、タイミングよくバルバルスの足にヒットし、倒すことに成功していた。
柔道の送り足払いのように。
バルバルスの懐に入り、身を密着させ、バルバルスのパンチを封じて頭部に肘鉄を食らわした。
動きが止まった所にオピフが細いドライバーで、バスバルスの止めを刺した。
「硬いー」真琴は、痺れた手を振りながら立ち上がると、オピフとハイタッチをして微笑んだ。
響介が、バルバルスのパンチをよけ、距離をつめる。
手前でジャンプし、両膝でバルバルスの顎に蹴り上げ、両拳を脳天へ振り下ろす。
同時に、絢音がバルバルスの足元にスライデングし、膝裏に回し蹴りを見舞った。
「えっ」絢音が呟く。
バルバルスは、倒れなかった。
響介の攻撃で、バルバルスの銀色の頭蓋骨が現れたが、損傷は無かった。
絢音が蹴った足はそのままビクともしていない。
絢音は、この状況を理解しようとしていた。
<硬い。この蹴りに耐えた。前は、蹴りにより吹き飛んだというのに、なんともないなんて。
相手が強化された?それとも、私の力が……>
「絢音、離れろ!」
響介が、叫ぶ。その時、既にバルバスのパンチが絢音に向けて振り下ろされていた。
絢音がパンチを両手を十字にし受けたが、吹っ飛ばされ壁に背中からぶつかった。
何てことなのと、頭を振りながら立ち上がった絢音は、自分の手を見た。
確かに、私は両手で受け止めたはずなのに。
絢音は、目の前に両手を上げた。その瞬間、頭の中が真っ白になった。
絢音の両手は、透けていた。
<時間切れ?>絢音は、響介を探した。
前にも、こんなことがあった。
手が透ける感じ。生まれ変わるための過程なのか?
「響介!」絢音は、響介を探す。
響介は、バルバルスのパンチを受け、絢音のすぐ横まで飛ばされてきた。
「絢音、やばいな」
響介は、バルバルスから目を離さずに言った。
それに、絢音は頷く。
「真琴だけでも、逃がさないと……」
「わかってる」
バルバルス二体が、絢音と響介の前に立ちはだかる。
大きな拳を振り上げる。
あの硬い拳をまともにうけてはいけないと咄嗟に手を前に出した。
出したつもりだった。
「あっ」
響介が思わず声を上げた。二人の手は消えていた。
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