第32話 これを持って行け
真琴たちは、グベルナに話して拒否されたら何も出来なくなるからと、黙って潜入準備をしたいた。
ウビークエの言った通りに軽い飲み物と食べ物を用意し、両手が空くようにリュックに入れた。
「なんか、遠足見たいね。ワクワクする」
絢音は嬉しそうに荷物を詰めていた。
しかし、果たしてパイロやコックとパテシエも銀の塔に居るのだろうか?
この疑問は、部屋の天井の隅に張られた小さな蜘蛛の巣の様に真琴たちの心に引っ掛かっていた。
休憩しようかと言う響介の提案を受け入れ、真琴たちは庭園に向かった。
いつ来ても、美しい花々で飾られた庭園は、悩みを忘れさせてくれた。
メトセラの助言が功を奏して、色とりどりの花が庭を埋め尽くしていた。
西洋風あずま屋ガゼボで休んでいると、コロニクスを見つけた。
コロニクスは、戻って来たところだった。
相変わらず背筋をぴっと伸ばし、綺麗な姿勢だった。
真琴たちを見つけると、カツカツと踵を鳴らしながら近づいてきた。
三十センチ四方の箱を手にしていた。
コロニクスは、箱をテーブルに置くと真琴たちの向かいに座った。
「何をしている?」
真琴たちは、顔を見合わせ「何も・・・・・・。休んでいるだけ」と答えた。
「あれから、新しい情報は無いか?」と、箱の中をガチャガチャといじっている。
「……あ、ないよな」と、愛想笑いで答えた。
コロニクスは真琴たちの顔を改めて見渡し、再び箱の中に目を移して「そうか」と呟いた。
箱の中から、小さな半円球を取り出しテーブルの上に置いた。
「何?」と真琴たちは、半円球を見つめた。
「これは、カメラだ。何者かが街中に仕掛けられていた」
「誰が?」響介が呟く。
コロニクスは、両手を天に向け「さあな・・・・・・」を答えた。
「何かを監視しているんだろうな。お前たちかもな」
コロニクスは、真琴たち一人ひとりを見つめた。
「図書館で、アルクに会ったんだが、最近、銀の塔のオクルスが料理やお菓子の最新本を多量に持って行ったらしい。怪しくないか?」
怪しいと真琴たちが頷く。
「多分、コックとパテシエは、銀の塔に居る」
再び、真琴たちを見つめて、一呼吸すると立ち上がった。
「何か分かったら、教えてくれ」と、立ち去ろうとしたが、何か思い出した様に立ち止まり振り返った。
コロニクスは、ポケットから小さな箱を取り出し、真琴に頬った。
「これを持って行け。銀の塔用の翻訳機だ。ボタンを適当に押して使い方を覚えろ。見たことあんだろ。それと一番のコロニクスの絵をタップすると、俺に繋がる。気をつけてな」
コロニクスは、そのまま行ってしまった。
真琴は、その小さな箱は、これまたスマホのようだ。
これは、ホームで浮浪者に襲われた時に助けてくれた青年が身に着けていたスマホだ。浮浪者の言葉が、波形グラフと言葉が画面に表示されるヤツだ。
「これは!」
真琴は、顔を上げコロニクスの方を見た。
コロニクスは声に気付いた一瞬歩みを止め、「気をつけろよ」と言うとそのまま行ってしまった。
真琴は、コロニクスに見抜かれていたと思った。
この世界では、この小さな箱を何というか分からないが、真琴たちはスマホと呼ぶことにした。
「バレバレじゃん」と響介が言いながら、真琴からスマホを取り上げた。
絢音も響介に顔を付けて、スマホを覗き込む。
真琴は、このスマホを始めてみた時の話をした。
へぇーと二人とも納得していた。
「浮浪者がしゃべったって」眉間にシワを寄せ響介が聞いた。
「ああ、このスマホに表示されたんだ。”見つけた”とか”捕まえろ”とか」
「なんだそれ、見つけたって、真琴の事か?」翻訳機?翻訳アプリってこと?」
「わからない。僕を襲ってきたから……結果的には僕かな」
「捕まえたかった……、真琴を?」響介が不思議がる。
なぜ?これは、真琴たちがずーっと抱えている問題。
自分の為に、二人を巻き込んでしまったのかと、自然と声が小さくなった。
「このスマホは、あの浮浪者の言葉を翻訳したってこと。つまり、翻訳機……翻訳アプリ?」
「翻訳機は、必要ね。浮浪者の言っていることが分かりから。コロニクスって、優しい人なのかも」
これから、どうしたらよいのだろう?
そう、真琴を元の世界に戻さなくては。
その為にパイロに会って、方法を訊きださなくちゃ。
パイロを見つけないと。
銀の塔へ、銀の塔に探しにいかなくては。
「先ず、動きましょう。明日、銀の塔に行こう!」絢音が立ち上がった。
そうだなっと響介と真琴も立ち上がった。
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