第24話 人間と戦争

 真琴たちは、オムネ城から帰って来てから、なかなか興奮は収まらなかった。

 この白い塔の中に、城下町があり、人間が創ってきたものが簡単に観れるなんて。

 これから、何を観ようか考えを巡らせていた。

 庭園からの扉を開けると、そこには、樹の王メトセラと白い塔の管理者グベルナがテーブルに着いていた。

 グベルナは、真琴たちを見つけると、手招きをしてここに座る様促した。

 真琴たちは、ちょっと緊張しながらもテーブルについた。

「丁度、お茶の時間だ」

 グベルナが言うと、目の前に紅茶が出されていた。もちろん、お菓子も添えられて。

 それを見て、真琴たちは、カラカラに乾いた喉とぺったんこになったお腹を思い出した。

 いただきますと早速いただいた。

 その食べる様子をグベルナが、笑いながら見ていた。

「オムネ城は、面白かったか?あそこには、人間が創ったもの全てがある」

 子どもが自分のオモチャを見せて自慢しているようだ。

 真琴たちは、お菓子を頬張りながら頷いた。

「なぜ、あのようなモノがあるのですか?」最初に訊いたのは、絢音だった。

「人間とは何かを知ることができる。僕の仕事は、人間の監視さ。行きすぎないように、道を外さないように見てるのさ。ね、メトセラ」

 メトセラが、そうだと頷いた。

「オムネ城は、樹の王メトセラや他の王にも開放している……人間は何をするのかわからないからな……爺さんのせいだ」

 爺さんって、地下鉄であったお爺さんの事と真琴たちは顔を見合わす。

「そう、その爺さんさ」と言うグベルナの言葉に、真琴たちは心を読まれたと思った。

「爺さんは、みんな楽しく幸せに暮らしてほしいと願ってたけど、誤算もあってね」

 と、グベルナは、メトセラに目を移すとその言葉を引継ぎ、メトセラが話を続けた。

「人間には、欲がある。全ての人間とは言わないが……。中には非常に強く思う者がいる」

 真琴たちには、ピンとこない話だ。

「まだ、少ししか生きていない君たちには理解できないだろう。

 人間は、戦争を起こす。そのための兵器が何も関係ないモノまで、破壊し殺すのだ」

<戦争・・・・・・>

 真琴は、メトセラと話したことを思い出した。

 人間は、勝手に自分たちだけの価値を作り上げ、それを奪い取るために戦争を起こしていると。

「我々、樹の国の防衛のために人間に穀物を与えた。私は、人間に与えられた能力を見間違っていた。人間自身の幸せのためにその能力を使うと思っていた」

 真琴たちは、メトセラから目が離せない。

「残念ながら、自分たちだけのために使う者が現れたのだ。それを止めることができるのは、同じ人間しかいない。

 横にある銀の塔も気になる。あれは、人間が生んだ機械の塔だと。機械は、戦争に勝つために発展してきたからだ」

 メトセラの言葉に力が入っていることが、感じられる。

「メトセラ、もう、いいだろう」

 グベルナが、メトセラの肩を叩く。

「人間が短い時間で何をしたかは、”視聴覚の間”見てくるが良い。そうすれば、きっと仲良く幸せに生きる方法を考えつくさ。どうしょうもなくなったら、僕の出番だけど」

 グベルナの目が鋭く輝いた。

 何とも背筋が寒くなる程の迫力だったがそれは一瞬のことで、すぐに笑顔を取り戻していた。

「明日、私も付き合おう。腹が減っては、悪いことを考えてしまう。いっぱい食べて休むがいい」

と、メトセラがお茶を注いでくれた。


 次の日、真琴たちはオムネ城の”視聴覚の間”にいた。

 もちろん、メトセラも。

 ”戦争”で検索をした。

 コメントが表示された。

『オリジナルを流します。ただ、事実だけを流します。表示されるのは、日時と場所と戦争名』 

 残酷なシーンがあることの断りが表示された。


 部屋が暗くなり、映像が流れ始めた。

 人類の戦争の歴史。

 人間の争いの記録だ。

 それは、人類が二足歩行をはじめ、両手が使えるようになってからだ。

 食べるためや他の動物から身を守りために木の枝や石で、道具を手にした。

 さらに”火”を手に入れた。

 石器や槍、弓を手に入れ、集団で戦うことを知った人間は、その種族が、生き残るために奪い取ることを覚えた。

 集団で暮らす人間は、自分の属する集団が生き残る為の縄張りや人口を維持ことを考えた。

 道具は、人間を襲う動物や食料となる動物を得ることに使われていた武器は、同じ種同士の戦いに使用された。

 奪い合いの歴史。

 更に時は流れ、蒸気機関や火薬や金属の発展が、多量の殺戮ができる兵器をつくりだした。

 兵器の進化は、決して留まることはなく、多くの兵器がつくられ、多くの者が破壊され殺されていくことになった。

 新しいものを使ってみたい欲望を止めることができない。

 叫び声が、怒りが映し出される。

 人形のような死体が、ゴロゴロと倒れている。

 とうとう、あの世界大戦が映し出される。

 長さ三メートルの直径七十センチ、六十キログラムの核物質を使用した爆弾が投下された。

 巨大な光の玉、衝撃波、きのこ雲、黒い空、黒い雨。

 一瞬のうちに熱線がすべて燃やし人を川を蒸発させる。

 衝撃波が建物を破壊し、窓ガラスが刃物となって壁に床に体に降り注ぐ。

 火傷を負った人びとは、水を求め彷徨い歩く。火傷で垂れ下がった皮膚を引きづりながら。

 辛うじて、助かった人びとも飢えや怪我や火傷に苦しむ。

 その土地を訪れた者まで、細胞を破壊し、数年先に死に追いやる。

 地獄と呼ばれる風景そのもの。

 もちろん、人間だけではなく、植物までが消し去られた。

 

 だが、これにも飽き足らず、また、新兵器が生まれる。

 爆弾の惨事は、対岸の火事を見るように自分毎としては捉えられなかった。

 それは、戦争が悪い。戦争だからと遠くから見つめるだけだった。

 新兵器は、試したくなる魔物。

 いつもどこかで、戦争は起きている。

 誰かが喜び、誰かが泣いている。

 泣き続けている。

 泣き続けているのに泣き声が届かない。

 泣くのは、いつの時代も非力な者たちだ。女や子どもだ。


 なぜ、戦争をするのか?

 させられるのか?

 人間だけが・・・・・・。


 真琴たちの心に深く刻まれていった。

 こんなことは、学校で習っていない。

 人間って、何なんだろう?

 

「人間は、こんなこともやってきているんだ。警戒するのもわかるだろ」

 メトセラが、真琴たちに話しかける。

「この土地には、何も育たないだろうと言った人が居たが、植物の力を見くびってもらっては困る」

と言うと、爆弾が投下された直後と現在の航空写真を映し出した。

「どうだ、我々、植物の力は」

 現在の青々とした土地を指差した。

「お前たち、人間がどうするかを決定するのだ。どうするかは、君たちに係っている」

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