第7話 出口へ

「こっちじゃない?出口って?」

 響介が、矢印を見つけていた。

 一点透視の地下鉄構内の風景は、このまま永遠と続いているのだろうか。

 等間隔に照らされたオレンジ色の薄暗い灯りで構内は照らされ、奥の方は、ぼんやりとしてはっきりしない。

「ねぇ、ちょっと……、あれ」

 絢音が反対側のホームを指さした。二人はその方向に目を向けた。

 ホームに人影が見える。

 その人は、電車の到着を待ちかねるように、構内の奥を覗いていた。

 たまに、キョロキョロと周りを見渡していた。

 誰かに追われている?

「何、あれ、手?」

 真琴が、自分の目が捉えているものが、間違いないかと二人に確認する。

 その人の後方の壁から、何かムクムクと盛り上がっていた。

 目を凝らして見る。

 大きな手の様だ。

 この手は、良いものでないと言う直感が三人に働いていた。

 獲物を狙う蛇の様にゆっくりとその人に背後から近づいていた。

 人影は、全く気付いていないようだ。

 手が人影の後ろで今にも捕まえようと手を広げていた。

「後ろだ!逃げろ!」

 真琴が、我慢できずに叫んだ。

「う・し・ろ!う・し・ろ!」

 思わず三人が叫ぶ。

 人影は、振り向き大きな手をかわして転んだ。

 その時、電車が入ってきたのだ。


<で、電車ぁ?>

 あまりにも急なことで三人は声を上がることすらできない。

 電車が来るのか! 

 待ちかねていた電車が反対のホームとは言え、目の前にあるのだ。

 この事実を頭に納得させるのに時間がかかっている。

<この電車に乗れれば、元の世界に戻れる>

 そうだ、その通りだ。帰れるんだ。

「おおい、待って、乗ります。待ってぇ!」

 大きな声を上げたのは、響介だった。三人の中で一番反応が速い。

 二人も大きな声と両手を力いっぱい振った。

 だが、電車は何事もなかったかのように走りだした。

 そして、闇の中に消えていった。


 電車が走り去った後のホームには、何も残されていなかった。

 人影も大きな手も。

 

 今起こったことが本当か三人は顔を見合わせていた。

「電車が来たよね」

 響介が二人に確認する。

「反対側に行けるんじゃないか」

 言い終わらない内に響介がホームに飛び込んだ。

「き、響介、やめろ!」

 響介が、着地した所は元のホームだった。

「えっ」

 真琴と絢音も驚いていた。

「何で、ここに?……もう一度やってみる」

 響介は、見てろよと真琴の顔を見て、助走をつけ、ジャンプした。

 響介が着地したのは、元のホームだ。

 何度やっても同じだった。

 響介は、訳が分からないやと床に座り込んだ。

 絶望感が三人を襲う。


「行こう」

 絢音は、ホームに座り込む響介に手を差し伸べた。

 響介は、絢音を見上げ絢音の手を借り立ち上がった。

「そうだな。行こうか」

 三人は、矢印を探して先に進んだ。

「おい、あそこ!」

 それに最初に気付いたのは真琴だった。

 真っすぐ続く壁に切れ目があった。

 見れ目の壁に光が当たって、凹んでいることがわかる。

 真琴は、もう走り出していた。

「気を付けて!」という絢音の声を背中に受けながら走っていた。

 真琴は、切れ目に到着すると、様子を伺いている。

 直ぐに二人に「来い」と手を振って切れ目に姿を消した。

「行こう」

 響介が走り始める。絢音から離れないように。

 絢音は、遅れないように懸命に走るが大変だった。なんせ、歩幅が違う。

 大変なのに、苦しいのに、飛ぶように走る響介を追いかけるとうれしくて笑っていた。

 二人は、切れ目に来ていた。

 そこは、階段だった。上から光が漏れている。

<出口だ>

 二人、真琴を追って駆け上がった。

 扉を開ける。

 眩しい光で、目が痛い。

 先に行った真琴が背を向けて立っていた。

 響介と絢音は、二人は真琴の横に立った。

「すげぇー」

 響介が思わず声を上げる。そこには、広大な世界が広がっていた。

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