修道女ですが副業で狙撃手やってます〜私は「血塗られた聖女」と恐れられた修道女〜

ふぃるめる

第1話 暗殺修道女

 「狙撃術式展開、照準調整エイム・アジャストメント


 ベアトリスは、いつもの修道服ではなく、ボディーラインの浮きでるキャットスーツを着ていた。

 そして彼女がいるのは街道や、街並みを一望できる高所。


 「頼むわよ、シャイタック」


 シャイタックと呼ばれた狙撃銃ライフルの形をした魔道具レガリアの引鉄を引いた。

 莫大な量の魔力が膨れ上がると、一条の光が街道を走る馬車へと伸びた。

 そしてベアトリスの狙い通りに馬車の窓を通り抜け中の対象人物を絶命させ馬車の反対側で激しい爆発を起こし護衛の騎士達ごと消し去った。


 「さて、帰るとしましょうか……」


 シャイタックを大きめのガンケースにしまうと、それを背中に担いで何事もなかったかのように歩き出した。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 「ありがとうニコル」


 ニコルへと礼を言う。


 「子供達はもう寝てしまいましたわ」

 「こんな姿見せたくないからね。助かるよ」


 私が修道女シスターとして勤めている教会は、孤児院も併設されていてそのどちらの運営も私と同僚のニコルに任されていた。

 

 「今日も誰かを殺めて来たの?」

 「いつもより多かったわね」


 ターゲットと一人でも良かったけれど、証拠を残さないために護衛の騎士達ごと消してしまった。


 「なら私が穢れを払ってあげる。いつもより早く多めにね?」


 ニコルは嬉しそうに言うと、脱いだばかりの修道服を再び着て錫杖を構えた。


 「天にまします我らの父よ。我らに罪を犯すものを我らがゆるすごとく、 我らの罪をも赦したまえ。我らをこころみにあわせず、悪より救いいだしたまえ」


 ニコルの祈りの言葉が殷々と響いた。


 「教会が予算を増やしてくれたら、ベアトリスもそんなことしなくても済むのにね……」

 「そうね……」


 物憂げな表情でニコルは、肩にかけた魔道具レガリアシャイタックを見つめた。

 私が修道女シスターを生業としている手前、ニコルには悪人をして稼いだお金で教会と孤児院を運営すると伝えている。

 でも、本当は違った。

 私が魔道具レガリアシャイタックを所有しているのは、私の家が代々受け継いで来たからだった。

 その忌まわしき呪いとともに。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 ベアトリスの代から遡ること二百年前、


 「とどめだっ!」


 満身創痍となった勇者アルベールは、最後の魔力を振り絞って魔道具レガリアシャイタックの引鉄を引いた。

 シャイタックから伸びた一条の光は、魔王ヴェンディダードの眉間を刺し貫いた。


 「オマエヲ……子々孫々まで……呪ッテクレルワ……」


 それが魔王の最後の言葉だった。

 魔王の爆発的な魔力が爆ぜ、それに巻き込まれる形でアルベールも死んだと伝承に残されているが真実は定かではない。

 アルベールが妻の腹に遺した子供もまたアルベールの姿を生涯一度たりとも見なかったと言う。

 

 そんなアルベールの息子、ニームは生涯ある飢餓感に襲われ続けた。

 それは――――


 『ソノ引鉄ヲ引ケ……サァ……引クノダ…』


 何者かが精神へと介入し語りかけてくるのだという。

 そしてシャイタックで誰かを殺したいという衝動に駆られた。

 殺害後はまるで薬物にも似た、或いは性交渉にも似た充実感を得て飢餓感も治まるのだと言う。

 だが無秩序に人を殺す訳にもいかず、どうしたものかと悩んだ末にニームは一つの答えに辿り着く。

 それは――――暗殺稼業だった。

 それ以降、ベアトリスに至るまで全員が暗殺稼業を継いで来た。

 そしてその仕事ぶりは評価され続けついた二つ名は『魔弾の射手』だった。

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