エピローグ

 成果報告会の後には成果報告書という報告書を書いて、それで長かった未踏は終わり。


 それはなんとなくあっけないもので、だけど少し感傷的な気分の中で物思いにふける。


 未踏は確かに特別だった。だけど、特別ってなんだろう。世の中に全く同じものなどない。


 すべての場所、すべての出来事、すべての物語は唯一無二の特別なものだと私は思う。


 一人一人の人生はすべてが特別なもので、人はみなそれぞれの未踏の道を進んでいる。過去の人類の歴史のなかで、同じ人生を歩んだ人なんていない。人生はいつだって未踏の道にある。


 憧れていた未踏は確かに特別で、だけどそれはとても普通の特別だった。得られるものは大きいし、とても価値のあるものだけど、きっと世界は同じくらい特別なことで満ちている。


 未踏で集まった皆は、それぞれの道を進むのだろう。私はこれからどこへ行くのか、それはまだ見つからない。


 未踏の日々が落ち着いて余裕ができた今、小説を書きたいと思った。そのために作ったシステムだ。それを自分で使ってみることは、私の行くべき先を見つける助けになるかもしれない。小説なんて書けないと思ていたけれど、できると信じてやることが大事だと思えるようになった。私が書く小説は、まだ世界にないもの。誰にも書けないもの。それはまさに未踏だ。


 たぶん、うまくは書けないと思う。最初から完璧な人なんていない。未踏でも、見違えるほど大きく成長した人がいた。それは未熟でもチャレンジしたからで、やらなきゃ上手にはなれない。上手になるためには、できない現実と向き合わなきゃいけない。それは苦しくて逃げ出したくなることだけど、乗り越えなきゃその先はない。


 私に書けるのは、未踏の小説。それは小説としてはだれも取り上げたことのないテーマ。実体験をそのまま書くのは少し恥ずかしいけど、フィクションの装いなら書ける気がした。主人公は、私に似た私ではない少女。彼女は私と同じように未踏に期待していて、実際に見ると案外普通でがっかりして、そして体験を通して成長する。


 そんな構想していると、多くの人のことが思い浮かぶ。細かく口出ししないけど、的確なアドバイスをくれたPM。目に見えて成長していく同期たち。自分の体験を語ってくれた先輩。多種多様な人の集まりによって生まれるものが、未踏を特別たらしめるのではないか。個々のプロジェクトは成功していないものがほとんどだけど、それによって成長した人たちはたしかに社会で活躍している。


 その中に加わる主人公が、確かに1人の人間として実在していた。イマジナリーフレンド。彼女は私の友達で、助け合える存在になった。


 私は未踏の先輩。でも、何かを教えてあげる必要はない。ただ私の体験を渡せば、彼女は未踏の道を進む。


 私たちの新しい未踏を、始めよう。

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