未踏の道

プロローグ

　この物語はフィクションです。内容には創作が含まれます。

　未踏。

　経産省所轄の独立行政法人IPAが実施する事業であり、IT業界では名の知られた若きソフトウェアエンジニアの登竜門。

　それは文字通り、未踏の道を切り開くための事業。行政の事業としては異質なそれは、ミレニアム事業として誕生して以降の20年以上の歴史の中で、多くの著名なエンジニアやスタートアップ、プロダクトを生み出してきた。メディアアーティストを始めマルチに活躍する落合陽一氏。シンテレワークシステムを二週間で開発した天才プログラマ登大遊氏。「おしりかじり虫」を世に出したことで有名なユニットの「うるまでるび」も未踏の卒業生である。SmartNewsやLive2Dも未踏から生まれた。

　事業を率いる統括PMは、KADOKAWA代表取締役社長の夏野剛氏と、東京大学名誉教授の伝説的LISPハッカー竹内郁雄氏。

　未踏卒業生を中心に設立された一般社団法人未踏の理事にも有名な名前が並ぶ。DeNAの南場智子氏、世界で使われている日本発のプログラミング言語 Ruby の生みの親であるまつもとゆきひろ氏。「はやぶさ」にも使用され、組み込み向けでは大きなシェアをOS、TRONの生みの親、坂村健氏。日本のインターネットの父、村井純氏。

　関係者に錚々（そうそう）たる名前が並ぶ未踏だが、その内実の多くは知られていない。未踏事業自体がまた未踏であり、そのあり方は毎年変化している。

　これは、そんな未踏の知られざる内側を描く物語。