イケメンの俺は美少女のあいつとは付き合わない
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
第1話:イケメンは美少女とは付き合わない
「ねえ、悠斗。今日、里中くんに告白
「ああ、それで今日遅かったん?」
「そー」
暑くもなく、寒くもなく、丁度いい気温の頃、俺たちは不健康にも家にいる。家が好きなのだ。3LDKのマンションの俺の部屋は8畳の広さがあって、洋室。
壁に付けて置いたベッドは時として椅子代わりに座られ、あるときは背もたれにされ、夜は俺に寝られてしまう。
部屋にはベッドの他に勉強机と椅子があるが、その名に反して正しい使われ方をすることはあまりない。
小さな本棚には、マンガとラノベが詰まっていて、何冊あるのか数える元気は既になかった。何しろ その本棚にはその時に一軍がラインナップされているだけで、古いものは段ボールに詰められクローゼットの奥に積まれているのだから。
そして、目の前にいる美少女は
今日も普通に放課後、俺の部屋に遊びに来ている。遊びに来ていると言うか、週5とかでうちに来てダラダラしている。もはや、第二の自宅くらいの勢いだ。
ゲームやラノベ、マンガの趣味が合うのでとても話が合うというのもある。それでいて、お互い相手に異性を求めていないので、余計に付き合いやすいというか、変に気を使わなくていいというか、要するに楽なのである。
「里中はどうなん?」
この場合の「どんなん?」は、「交際相手としてどうか、告白されたのだから付き合うのか」という意味。
「んー、あんまり話したことないし……」
「あー、お前 学校じゃ猫100匹被ってるからね。あんま誰にも話しかけないもんね」
「猫かぶっとーとか言わんでいいやん。『可愛らしい女の子』を演出しとーとって」
「その顔で大人しいとか、そりゃぁ惚れるわ」
「可愛いかろ?」
両頬にそれぞれ人差し指を当てて、にっと笑顔をつくる綾。
そうなのだ、彼女は学校では猫を被っていて、すごくしおらしい。しかも、方言があるのを隠して標準語で話している。美少女なだけではなく、イケてる女なのだ。
「あと、話しかけないのは、ちょっとだけ人見知りなだけやし……」
「他人んちで立膝立ててゲームしてるヤツがよく人見知りとか言うよ」
「家では寛ぎたいと!」
それは、自分ちで寛いでくれ。
一方で、うちでは素の状態でよく喋るし、博多弁だし。部屋でも普通に胡坐をかいて座っている。ちなみに、まだ制服を着ているのでスカートだけど、パンツが見えそうなのは気にしない。たとえ見えてもスルー。
「この顔か! この顔がクラスのヤツを惑わしているのか!」
俺は床に座っている綾の頬を引っ張りながら責める。
綾は逃げようとするが、背もたれになっているベッドがあるから逃げられないでいた。
「
俺はパッと手を離した。
「もー、この可愛い顔が ぶちゃいくになったらどうするとー?」
「泣く男が減る!」
「ひどかー! 別に
「この整った顔が悪い! 男なら誰でも好きになる顔だわぁ」
「うう、褒められとーのに、全然褒められとー気がせん……」
そう、綾は可愛いし、学校では大人しいのでよく告白されている。既にクラスの男子の過半数が告白した状態だ。
俺たちは、それぞれコントローラーを持って、一旦ポーズにしたゲームに再度戻る。
「実際、里中いいやつと思うよ? 成績もいいし、いいやつだし。顔も良くない?」
再開したゲームでは慣れた操作なので、多少の話しながらの余裕はある。
「いいとは思うけど、ずっとお淑やかにしとくとか無理ぽ」
「またそれか。告白されても全部断ってるし、誰とも付き合わないし、お前いつか刺されるぞ!」
「だってー、付き合うとか無理ゲーやない?素を知られたら絶対引かれるし……知れば知るほど嫌われる要素しかない」
「それだと、俺しか相手いなくなるぞ?」
「じゃあ、うちら付き合う?」
「「……」」
再びポーズして、お互い顔を合わせる。
「「ないわー」」
ハモってしまった。再びポーズを解除してゲームに戻る。
「ちょ!失礼やない!?」
「お前も声がリンクしてただろ!」
「女の子が言うのはいいとよー」
「ズルっ!」
そう、俺にも女の子に対する「理想」があった。綾は可愛いけれど、俺の理想とは違う。昔から隣同士で幼馴染的な要素もあるから恋愛対象としては見ていない。
「悠斗の方は? 美紀ちゃんから告白されたっちゃろ?デートはどうやったん?」
美紀ちゃんとは、これまたクラスメイトの女の子だ。ロングヘアのメガネの子。真面目そうなところが魅力で胸は大きめ。クラスでは絶賛隣の席にいて、ついこの週末にデートしてきた。
「昨日行ってきたよ? 別に問題なかったよ? 美紀ちゃんずっと大人しかったよ? まあ、ちょっと大人しすぎるっていうか……」
「はー、また出たよ! この
「だって、初めての彼女とか大切にしたいじゃない!? 趣味とか合わないと長続きし無さそうだし……」
「うわー、美紀ちゃん可哀そう!悠斗の事 好き好きで目がハートになっとったのに!振る気満々やん!」
「別に振りはしないけど、積極的に進めないというか……」
「あ、また生殺し! 絶対、悠斗の方が刺されるって!」
どびしっと人差し指を指されて言われてしまった。
「すぐ他を好きになるって」
「悠斗は、ちょっと顔が良くて、背が高くて、スポーツができて、成績がよくて、気遣いができるだけで……」
「俺、完璧だった!」
「でも、理想が高すぎるしぃ」
「そんなことはないぞ! 普通で十分!」
「この間もおっぱいが大きいとか小さいとか言いよったやん?」
「あれは、お前が自分のおっぱい触ってみろとか言うから、初めては彼女じゃないと嫌だって言っただけだろ」
「そんな変態みたいなこと言っとらん! 『私くらいの大きさはどう?』って聞いただけやん!?」
「だって、お前まあまあ胸あるし、俺が初めて彼女の胸を見たとき『こんなもんか』とか思ったら、表情に出て失礼だろ」
「悠斗は背が低い子で、胸がペッタンコの子が好きっていうなら、もう、それは小学生やん!ロリコンやん!」
「どうして そう極端なんだよ! 控えめな身長とフラットなボディが理想なんだよ」
「ここにクラスの男子たちの憧れのおっぱいがあるのに興味ないとか、罰当たりやろ」
綾が自分の胸を持ち上げて、強調しながら言った。
自分で「クラスの男子たちの憧れ」とかいうくらいには自覚があるらしい。
「そんなに揉まれたいなら、里中に揉ましてやったらいいだろ」
「うわ! セクハラー! さいてー」
綾の半眼が痛い。しばらく無言でゲーム再開。
「彼女欲しいなぁ……」
1時間ほど経過したところで、俺がぽつりとつぶやいた。
「私だって彼氏欲しいくさ」
綾が画面から目を離さずに乗っかった。
「じゃあ、お互いターゲットを決めて、もう一人がサポートするってのはどう?」
「どゆこと?」
ちょっとレベル上げに飽きてきているので、いったん中断。ちなみに、さっきまでは格ゲーだったけど、今はPRGに移行した。
「例えば、綾がA吉くんを好きなったとしよう」
「誰よ、A吉くん」
「そしたら、俺がA吉くんに綾の良いところを情報としてどんどんねじ込んでいくわけよ」
「ほうほう」
ちょっと興味を持ったらしい。綾がこちらを向いた。俺も綾の方を向く。お互い胡坐をかいてフローリングの床に座っている。ちょうど向かい合った状態になった。綾はミニスカートなので、胡坐をかいたままこちらを向くと太腿のかなりが見えていて、パンツすらも見えそうだけど、あえて見ない。見たら負けな様な気がするからだ。
「結果、A吉くんは綾が好きになって、付き合うようになるわけさ」
「うーん……」
綾が眉間にしわ寄せて難色を示した。学校では一切見せない表情だ。基本的にこいつは学校ではいつもニコニコしているので、眉間にしわを寄せた表情などクラスのヤツは見たことがないだろう。俺もそっち側になりたいんだけど……
「なんだよ。俺の作戦になんか文句あるかよ」
「そうなると、夏休みとか私、A吉くんと過ごすとよね」
「まあ、そうなるだろうな」
付き合い始めてすぐの夏休みとか、絶対一緒に過ごすだろう。ラブラブ過ごすことが当たり前だろうと思う。
「悠斗もB子ちゃんと付き合うのよね」
「まあ、B子ちゃんね。背が低めのB子」
綾の架空の彼氏がA吉くんなら、俺の架空の彼女はB子ちゃん。B子ちゃんは身長150センチくらいがいいな。バストはAカップ。俺はフラットな胸が好きなんだよ。 巨乳? 巨乳も当然好きだよ!? だけど、彼女は小さめがいいんだよ。好みの問題かな。
「ねえ、悠斗は、貴重な夏休みをそんな過ごし方したい?毎日どこかに出かけるの。ゲームもラノベも無し。多分、くたくたに疲れて帰ってきて、翌日も早くからどこかに行くみたいな……」
「あ、ヤバい。うちにいたい」
「でしょ?でしょ?単に家でだらだらしたいだけなのに、『なぜ会えないの⁉』とか問い詰められるのよ?」
「あ、ありそう……」
俺もB子とやらに同様に責められそう。会えない理由が「ダラダラしたいから」だったら、B子が可哀そうすぎる。存在しないB子に同情心が芽生えてきた。すまん! B子! お前は全然悪くないんだ!
「その上、私が
「あ、ヤバい。修羅場だ」
なぜか、A吉くんに胸倉を掴まれている絵が思い浮かんだし、その後ろで泣きながら俺を責め続けるB子もいる。俺のダラダラしたい欲求はこうも人を狂わせるのか⁉
「それでもその作戦やる?」
「やめよう!夏休みはエアコンが効いた部屋でダラダラが最高」
「やろー?」
危うく貴重な夏休みを浪費するところだった。彼女とか害悪でしかない。いらんいらん!
「悠斗ー、ごはんよぉー」
ここでリビングから母親の声。気づけばもう夕飯の時間になっていた。我が家の夕飯はいつも19時くらいなんだけど、遅めかな? うちとしては普通なんだけど。
「綾ちゃんも食べて行くー? 今日、カレーだけど」
「はい! いただきます! お母様!」
綾が唇の横にに手を添えてドアの向こうの母親に答えた。どこから出しているんだ、その甘ったるい声は!
「何でお前は、うちの親に対しても『いい子ちゃんモード』なんだよ」
「つい、癖で……」
「お母様」ってなんだよ。まったく。うちではダラダラ過ごしているのだから、普通にしていたらいいのに、綾はうちの母親に対しても外面がいい。
「家ではさすがに素でしょう?」
「最近、年ごろなので、家でも『いい子ちゃんモード』で……」
「お前のオン/オフはおかしい!」
自分の家でもいい子ちゃんで過ごして、俺の部屋でダラダラ過ごすって絶対おかしいだろ。
「悠斗だけが、精神安定剤なんよ。もうしばらく彼女つくらんで、私の心の止まり木でいてー」
「お前よりも早く彼女とラブラブしたいわ」
そんなことを言いながら、リビングに行き、母親と綾と3人で今日の夕飯であるカレーを食べた。食べたら帰ると思ったら「今日はママンの帰りが遅いって」と言って、9時くらいまで寛いでいきやがった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます