第2章 テレパス以外お断り!
さて「①企画書作成」も通った。
次は「②プリプロ版作成」だが、これは企画書を元にした試作になるので、第1章とこの第2章の内容とほぼ同じになるので割愛する。
というわけで「②プリプロ版作成」も終わり反応も上々!
喜ばしい事に「③本制作(α版)」のGOサインが出た。
さあ、人員を追加して本格的に動き出そう。
会社はいつだって人員不足だ。だからチーム編成を望んだレベルの人間で揃えるということは難しい。
揃えられた人員達。経験もスキルも同一ではない。育ちが違えば考え方も違う。だって人間だもの。
そして、第1章の最後の方に書いたが、みんながシャーロック・ホームズになれるわけではない。
目の前にいる人はワトスン君、レストレード警部、ハドスン夫人、はたまたモリアーティ教授かもしれない。
もしかすると、宇宙からロンドンに来訪したジャー・ジャー・ビンクスかも?
そんな凸凹したメンバーを少ない時間で鍛え上げるのは面倒だし訓練する時間が惜しい。
だから、君は探さないといけない。
そう、君と同じテレパスの保有者を!
「テレパス」とは、テレパシー(声を発せず脳内だけで会話なり映像なりを共有できる超能力のこと)を使用できる能力者のことだ。
クソゲーに関わる上層部は、何故かテレパスを持つ者が多い。
故に、彼らと密接に関わるだろうPLやDSさんは超能力を身につけなければならないのだ。
(※PLがテレパスの場合、残念だがPGさんも必要になるよ)
ここでテレパスの例をあげよう。
ディレクターをD、プランナーをPLと表記した“よくある”会話劇だ。
もしディレクターの気持ちが分かるのなら、君は超能力を持っているに違いない。
/*--------------------*/
D「メニュー画面の方針としては…よくある感じで、恰好よくしてくれればいいよ! 項目もいったんざっくりでOK!」
PL「…念のためですが、Dの中で絶対に必要な項目や機能等は、現時点ではないってことでいいです?」
D「そうだね。任せるよ」
PL「そうなると項目は別として、Dの言っている”よくある”のイメージが自分の中で掴めてないのですが、何かイメージに近い作品とかないですか?」
D「『デトロイト ビカムヒューマン』とか、『ペルソナ5』みたいなやつでいい感じに恰好よく」
PL「あー…、えーと…、つまりどういうことだってばよ…? メニュー画面の背景やボタン操作の演出を豪華にする方針ということか…?」
D「うーん…、とにかく一度ざっくり仕様作って持ってきて!」
~数時間後~
PL「とりあえず、たたき台を作りましたが、イメージあってます? 大丈夫なら、これを元に詳細を詰めていきますが…」
D「全然違うよ! 僕は”『ペルソナ5』みたいなコミック調”だけど”『デトロイト ビカムヒューマン』みたいなSFっぽいUI配置”のイメージだったのに!」
D「マップ画面へ遷移出来るショートカットボタンがないじゃないか…! 常識的に考えて普通は置くよね。ちゃんと洗い出した?」
PL「えー…?」
/*--------------------*/
よくあるディレクターがディレクションしてない案件ですね。
でもこれが正解である。何故なら、テレパスの会話だからだ。
ディレクターにとっては「『デトロイト ビカムヒューマン』とか、『ペルソナ5』みたいなやつでいい感じに恰好よく」=
「『ペルソナ5』みたいなコミック調だけど、『デトロイト ビカムヒューマン』みたいなSFっぽいUI配置」を一発で理解できるのが普通なのだ。
だって脳内のイメージは相手に伝わっているはずだもの。同じものを見ているから、同じ結果になるはずだもの。
先ほど挙げた例が分かりづらいならば、3~5人ほどの人間を集めて「リンゴを描いてください」とお願いしてみよう。
リンゴを描くといっても、人それぞれにリンゴのイメージは存在する。
皿の上にカットされたリンゴを並べた絵、木になっているリンゴの絵、バスケットいっぱいのリンゴの絵、ちょっとかじられてるリンゴの絵、『ぷよぷよ』のりんごちゃんの絵…。
情操教育ならば、どれも素敵だと言って花丸をあげていい。
しかし、これは仕事なのだ。あなたの理想のリンゴの絵がなければ、テレパスは失敗したのだと諦めよう。
そしてこういい放ち、相手に絶望を与えるのだ。
「僕が欲しいのは、葉っぱが1枚ついたリンゴを正面から描いたものだったのに!」
小説や心理学を少しでもかじれば分かる通り、言葉の捉え方は千差万別である。
故にテレパスを持たない一般人は質問を多くすることで、超能力者と同等のことをしようとする。
会話劇でも、テレパスを持たないPLがなんとかして情報を聞き出そうとしているのが分かる。
一般人は撃退するに限る。だって君が作ろうとしているのはクソゲーだからね!
では、その方法をお教えしよう。
1つ目:曖昧で抽象的な表現をすること!
2つ目:必ず否定した後に正解を示すこと!
3つ目:相手が不利となる表現を用いること!
/*--------------------*/
■1つ目:曖昧で抽象的な表現をすること! について。
やっていることは「第1章 クソゲーはどこから生まれるのか」で述べたことに似ている。
ディレクターのセリフを分解して解説していこう。
▼「メニュー画面の方針としては…よくある感じで、恰好よくしてくれればいいよ!項目もざっくりで」
何一つ方針を定義していない。唯一分かっているのは、「よくある感じで、恰好よく」のみ。
テレパスを持たない一般人は、こんな浅瀬で躓くのだ。
奴らが高頻度で口にするのは、「よくあるとは、どういったジャンルの作品にあるものを指すのか? そもそもそれはゲームなのか、それ以外なのか?」といった、掘り下げるような質問だ。
君の掘り下げる時間が勿体ないね。故に、突き放すのが正解だ。
だって十分なテレパスを既に送っており、受信できない側の問題なのだから。
項目についても同様で、「常識が同じならば」登場する項目は同じだし、必ずショートカットボタンもつけてくれるはずさ。
仲間を信じるのが、いいチームだよね!
▼「『デトロイト ビカムヒューマン』とか、『ペルソナ5』みたいなやつでいい感じに恰好よく」
優しいテレパスの君は具体例を出してあげた。なんていい奴だろう、惚れ惚れするよ!
言われた一般人の顔を見てみよう。方向性が真逆の2作を、どう繋げるイメージなのか困惑しているね。なんと哀れなことか!
かわいそうに思ったとしても、それ以上のことは言わないほうがいい。
指示は出している。そう、”いい感じに格好よく”ってね!
曖昧で抽象的な表現バンザイ!
これで『方針の決定』と『具体的なイメージ例』は提供できた。あとは、作業者の責任にできるぞ。
/*--------------------*/
■2つ目:必ず否定した後に正解を示すこと! について。
これはとても簡単だね。相手が勝手に解釈して作成した資料の粗を指摘し、正解を後出しすればいい。
なお正解はいつ出来てもいい。相手は一般人だ。頭の中を覗けないのだから、バレることはない。なんなら、一般人の案をもとに出してもいい。ただし、思いついたタイミングは伏せること!
ではディレクターのセリフを分解して解説していこう。
▼「全然違うよ! 僕は”『ペルソナ5』みたいなコミック調”だけど”『デトロイト ビカムヒューマン』みたいなSFっぽいUI配置”のイメージだったのに!」
最初に否定形を持ってくるのは最高にクールなことだ。この一言で相手は委縮し、続く言葉に恐怖を抱く。
勝手に自信を喪失して自分は無能であると自身に暗示をかけ、テレパスの言葉を疑問に思うことを罪だと認識するようになるのだ。
君のセリフが、そのときに初出した情報だとしてもね!
こうすれば、たまにいる情報が足りなすぎると怒りを抱く不届き者の出現を阻止できる。自信がないから、自分のいうことを信じられず、歯向かう気力を失うのさ。
これだから一般人は…という態度をとるとなお良し。プログラマーさんやデザイナーさんの工数をちらつかせて追い込もう。
▼「マップへ遷移出来るショートカットボタンがないじゃないか…! 常識的に考えて普通は置くよね。ちゃんと洗い出した?」
これも最初に否定があるね。教えを全うするなんて素晴らしいことだよ。
相手の“常識”も否定しているのはナイスだ!
テレパス同士は同じ常識があるから、間違っているのは確実に相手だ。責め立てろ!
注意しなくちゃいけないのは、相手に“常識”も“普通”も定義を教えないことだ。
教えると、もし君の“普通”が少し変わったとき、相手は烈火のごとく攻め入るだろう。その場合は落ち着いて、ヒエラルキーを思い出させよう。
アニメ『ドラえもん』のTVシリーズのジャイアンが参考になるはずだ。
映画版でもいいが、冒頭だけに留めること。彼は物語が進むにつれて頼れる兄貴分ポジに変わることが多いためだ。
/*--------------------*/
■3つ目:相手が不利となる表現を用いること! について
さて、1~2つ目を実践しても、引き下がらない一般人はいるだろう。
君がすべきことは、ソシャゲでよくある弱点の相関表(グーはチョキに強い、チョキはパーに強い、パーはグーに強い、といったジャンケンの相関のようなもの)と同じく、相手が苦手とする伝達方法で説明することだ。
例えば、文章による説明が苦手な人の場合はそれで攻め、口語による説明が苦手な人の場合はそれで攻めるのだ。
なお文章の場合ログが残ると厄介になるので、「曖昧で抽象的な言動」を繰り返し相手が正解の解釈を出すまで引き延ばそう。
返答を考えることが面倒な君に魔法の呪文を授ける。
「君はどう思う?」
この呪文は最強カードだ。トランプの遊びの1つ『大富豪』でいう8切だ!
(8切の補足:8のカードを出したらターンを強制終了させることが出来る特殊ルール。意外だが地域によって適応されたりしなかったりする模様)
まず先に相手に意見を言わせることが出来るので、何も考えていないことを隠し通せる。
意見が出ないなら、考えれば分かると言って放置出来るし、偶然同じ意見になったら褒めればいい。ターンを強制終了させよう。
/*--------------------*/
これを繰り返していけば、一般人はテレパスを恐れて何もいわなくなる。
あとはテレパスの“普通”を遂行しよう。
ただし、テレパスの範囲の設定を見誤ってはいけない。
その説明は次の章で!
/*----------ここから独り言----------*/
ここまで書いてなんですが、漫画の神様・手塚治虫先生は、たとえ嘘だとしても作品内においては、演出以外で曖昧な表現をしないなと思いました。
まぁ気づいていないだけかもしれません。単に俺の頭がアッパラパーなだけかもしれません。
どうでもいい事ですが、俺は『ブラックジャック』が好きです。「木の芽」と「灰色の館」がオススメです。完全版再販してくれ…。
『ルードウィヒ・B』も好き。未完とはいえ、ラストがたまらんのです。
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