第86話

 「そうだ」とは、言えなかった。


 目の前で泣きながら言われたからである。

 

 「卓也さん。奥さんとは離婚する気ですよね」


 「・・・そうだけど」


 「じゃあ、良いじゃないですか。このデートが最後とは言わず、次は回数なんて決めないで、何度も、何度だってデートしましょうよ!!私は、本気で卓也さんの事が好きなんです」


 「これで最後のデートって約束だろ」 

 

 俺は必死に想いを伝えてくれた、少女に対して冷たく突き放した。


 「・・・そう・・・ですよね。脅しまでして、デートを強要させてくる女なんて嫌われるに決まってますよね」

 

 緩奈は、一息だけついて、泣くのを止めた。

 

 「はい。お疲れ様でした。ゴンドラから降りてください」

 

 観覧車のスタッフがゴンドラの鍵を開けて降りるようにと案内する。

 気づけば、ゴンドラは観覧車を一周して戻っていた。

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