先生
入院生活は、つまらないな。
「桂木さん、どうぞ」
「また、体温か?」
「いえ、TVぐらい見れた方がいいかと思いまして」
先生は、TVカードをくれた。
「あのさ、経費か?」
「フフッ、自腹ですよ」
「何で、俺なんかに貢いでやがんだよ」
「何で、でしょうかね?」
「変な奴だな」
「生きてくれたらいいですよ」
その顔が、寂しそうで守って…ってなわけあるか。
安っぽいメロドラマみたいな台詞が、出てきちまった。
「先生、何歳だ?」
「45歳です。」
「俺と一緒だな、結婚は?」
「してません。桂木さんは?」
「俺も、独身だ。って、お見合いみたいだな。」
「構いませんよ」
「なぁー。先生。もう、あがるんだろ?」
「はい」
「着替えてきて、話そうぜ。ちょっと、相手してくれよ」
「構わないですよ」
そう言って先生は、病室を出ていった。
30分後、先生がやってきた。
まだ、朝晩は肌寒いのに先生は、薄手のシャツ一枚だった。
「飲み物買ってきてくれないか?」
「構いませんよ」
先生は、立ち上がった。
「何がいいですか?」
「そうだなー。甘いやつなら、何でもいいよ」
「わかりました」
先生は、荷物を置いて病室を出て行った。
俺は、紙袋の中身を見た。
先生やっぱり、コートあるじゃねーかよ。
手に取った白色に近い色をしたコートは、真っ赤だった。
胸元に、くっきりと手形がついていた。
これって、俺のか?!
俺は、見なかった事にした。
その下に、セーターも入っていて覗いただけでも血がついてるのがわかった。
血がついてるから、先生は、着なかったんだとわかった。
俺は、紙袋にそれをしまった。
「ココアでよかったですかね?」
先生は、ココアを買ってきてくれた。
「ありがとう」
「よかったです。」
先生も、同じものを持っていた。
「なぁー。先生」
「はい」
「暇潰しに、俺のしょうもない話し聞いてくれるか?」
「何でしょうか?」
「俺な、38歳の時に結婚決めてた人が死んだんだ」
「なぜですか?」
「俺は、別に子供とか拘りない人間だったんだ。親に捨てられてるしな。彼女は、望んでてブライダルチェックみたいなやつやってきてさー。それの、ちょっと踏み込んだやつみたいなの?何か、妊娠しにくい体質だって知ったみたいだった。」
「そうだったんですね」
「ああ、それで打ち明けられて。別に気にしないでいいよって笑って言ったのにさ。次の日、蕪木に浮気相手の女とデートしろって言われた。それを相手の旦那に目撃させて、相手が俺だって思わす作戦だって笑った。」
「それで?」
「それを彼女に目撃されていた」
俺の目から、涙が流れてきた。
「彼女、自殺したんだ。」
「えっ?」
「やっぱり、ジョー君は子供が欲しかったんだね。叶えられなくて、ごめんね。愛していたよ。さようならって、遺書残して。死んだんだ。」
「そんな…」
「俺はね、蕪木のずっと言いなりなんだよ。だから、あの日も言いなりになった。これだって、そうさ。蕪木の代わりに刺された。俺の人生は死ぬまで蕪木に操られて生きてくんだよ」
先生は、他人事なのに泣いてくれていた。
「すまない。」
先生は、ポケットからさっきの唾を拭いたハンカチを出して涙を拭っていた。
「先生、それ汚くねーか?」
「もう一枚の方なので、大丈夫ですよ」
「それなら、よかった。で、俺は退院してからも、また蕪木の奴隷になる人生かって思ったんだよ。そしたら、死にたくなってさ。急に終わらせたくなって…。そしたら、先生にとめられちまった。」
俺は、ハハハっと笑って涙を拭った。
先生は、そんな俺をジッーと見つめていた。
「つまらない話しに、付き合ってくれてありがとな。冷える前に、帰った方がいいよ。先生」
そう言った俺の手を先生は握りしめて、こう言った。
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