#28 6月5日 新人とか/日常とか/生活とか


 仕事の話。


 5月の連休直後くらいから新しいバイトが2人入ってきている。大学2年の男の子と、大学1年の女の子。男の子は方は木村くん、女の子の方は萩原さんという。2人とも露骨なほどに若々しい。去年から引き続きいてくれている学生のアルバイトも何人かいるが、この二人は別格に雰囲気が若かった。


 そんな二人も働き始めて1ヶ月が経ち、それなりに作業に慣れつつある。


 今日も私と一生に長く伸びたレジ待ちの列を捌いていた。頼りになるとまではまだ言えないが、少なくとも居ないよりはスムーズだ。


 そんな状況で私と店長、今日出勤のバイトたちを総動員して混雑をどうにか乗り切った。事後処理のような事務作業を終え、閉店作業は店長と夕方以降のアルバイトに任せて店を出る。


 そして長くなった日もすっかり落ちきった帰り道。体を引きずるような気分で慣れた道を歩きながら、指先に引っ掛けた持ち帰り弁当の重さを意識する。


 空気はじっとりと湿っていて身体にまとわりつく。ふと見かけた紫陽花が、乾いたまま夜に色を点けていた。


 そういえばちょうど1年前だったな、と思い出す。


 湊咲と会ったのは、4月の終わりに彼女が家に来た時が最後になっていた。


 全く連絡を取っていないわけではない。久しぶりの授業はどうかとか、新しいバイトを見つけたとか、そういう話をメッセージ上で多少はした。


 話を聞く限り、復学してから湊咲は順調に学生をやっているようだった。どうやら1年分のブランクを取り返そうと頑張っているらしく、そもそも予定が噛み合いそうにない。


 これまでの私たちの頻度が異常だったのは理解していた。


 そもそも湊咲以外の友人となんて、半年に1度会えばいいようなものだ。もっと間が空いて1年ぶりになっていたって、お互いそういうものだと認識している。


 環境が変わって、忙しくなって、少し疎遠になって。当たり前のこと。


 代わり映えのしない日々は十分に忙しくて、元々私はそれだけで満足していたのだと思いだしている。


 生活上の変化も特にない。週に一度あるかどうかのイベントがなくなっただけなのだから、当然といえば当然だった。


 時間の流れは、振り返れば驚くほど淀みがない。


 1日10時間程度働いて、本を読んで。休日は少しだらけて、本の紹介文を考えて、たまに外出して。それだけで私のキャパシティに対しては十分だった。


 ただ、去年と比べてしまえば日々のテンポがのっぺりしたものになっていることは確かだ。湊咲としていたのなんて日常に限りなく近いような買い物と食事、あとはだらりとした会話くらいなものなのに。


 あの日々と今と、一体何が違うのだろうか。


 疲れ切った頭ではよくわからない。


 次に会った時にでも話題にしてみようか。いや、それはちょっと気持ち悪いか。


 去年は湊咲の状況が特殊であっただけで、本来ベッタリと一緒に居るような間柄ではないといえば、そうだろうし。


 距離感や関係なんて、時間が経てば変化はしていくものだろう。


 そんなことを考えているうちに家に着いた。高い湿度の中を歩いたせいで、どうもベタついて不快だ。


 早くシャワーを浴びて、洗い流してしまおう。

 

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