まるで平日の私
向かいのベンチに男の人が座っている。
顔は白く遠くからでもわかる疲れた顔をしていた。スーツを着ているがこの辺の公園の近くに勤めているのだろうか。そして、真顔でタコスを食べている。
まるで平日の私みたい…世の中に疲れてそうな顔してるし、最初は色白だと思っていたけれど、あれは太陽に浴びてない感じの色白さだわ…
しかし、タコスの食べ方や、疲れている顔には気品を感じるものがあった。なんというか…伯爵?そう、色白でドラキュラっぽいし顔も整っているような気がする。
彼のことを、心の中で伯爵と名付けた。また次会えるかどうかもわからないのに。なんて考えていると、伯爵はタコスを食べ終わり口元を拭いている。所作も伯爵だ。
そして彼はビル街に姿を消した。
目で追っちゃうってこういうことなんだろうか。気になってしまった。
さて、午後からも休みだし買い物でもして心をチャージしないと…月曜からの仕事に耐え切れないような気がする。
§ § §
夜はよく行くバルで軽く食事をすることにした。
「あら、久しぶりじゃない!」と声をかけてきたのは、バルのオーナーであるレオ。
レオは、女性のような言葉を使うが男性である。見た目はとても美しい女性に見えるが男性である。
「今日は久々の休みで…元気をチャージしに来ましたよっ」この町に来て、仕事以外の人で話をできるのはレオだけだ。
「あんた、そんなブラックならやめちゃいなさいよ~仕事なんて腐るほどあるわよ!」
「確かに、辞めたいけども…」
「子どもたちがかわいいんでしょ~んもう学校の先生って大変そうだわ」
「毎年仕事が増えていってる気がする…同僚の若い子は結婚に妊娠で、休みに入っちゃうし…代わりの人はいないし…」
「あなた、その辺はどうなの?」
「…察してくださいませレオ様…」
レオがつまんなそうな顔をする。
「好みのタイプとかいないの?顔とか、性格とか!この地域なんて世界中の人たちが集まってできたとこなんだから、1人くらいいるでしょ!!」
「ん~…ん~…ん~…」好みのタイプもすぐに出てこないとか自分終わっているかも…と思ったそのとき、頭に浮かんだのは伯爵だった。
「あっ、伯爵…」
「あーた、何言ってるの?この大都市ヴィンスクとはいえど、伯爵とかいう制度はないわよっ!!!」
「あ、いや、そういうことじゃなくて…」
私はレオに今日の昼間に見た、男性(勝手に伯爵と名付けた)の話をした。
「あーた、それって…一目ぼれとは違うわよねぇ…」
「一目ぼれではないかな。でも、顔は整っていた気がする…」
「平日の自分に似てるって…あーた一応客観視できてるのね。自分のこと。まぁ、せいぜいその伯爵と仲良くなりなさいよ。」
「別に仲良くなりたいわけじゃ…ないけど…機会があったら…」なんてレオと話していたが、そんな機会はあるのだろうか。生ハムをくるくるフォークに巻き付けて食べる。でも、また伯爵に会ってみたいなと思った。
§ § §
帰宅しシャワーを浴びて、1日を振り返る。ヴィンスクに来て初めて楽しみができた。また晴れている日に、公園に行ってみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます