第861話 犬のぬいぐるみ
卓球をしたあと、私たちはこの施設のゲームセンターエリアにやってきた。アーケードにあるゲームセンターよりも規模は大きいからたくさんのゲームがある。
クレーンゲームにプリクラ、メダルゲーム。午前中にちぃちゃんがやっていたリズムゲームに、エアホッケーもある!
ちょっとエアホッケーをしたいと思ったけど、まずはクレーンゲームの方へ。
「いろんなプライズがあるね」
「ホントだね。綾奈はなにか欲しいのあるん?」
「わかんないけど、やっぱり何があるか見てみたいから」
真人と一緒にゲームセンターに行くようになってからは、私もクレーンゲームのプライズを見る癖がついた。真人はフィギュアはあまり部屋に飾ってないけど、プライズを見ては『あのキャラ、美奈が好きそうだな』と、美奈ちゃんの好みのフィギュアを確認していることが多い。妹思いの優しい旦那様を見れて嬉しくなっちゃった。
あの時の真人の優しい顔を思い出してちょっとドキドキしながらプライズを見ていると、あるぬいぐるみに私は足を止めた。
「あ!」
そのクレーンゲームの中に入っていたのは、柴犬のぬいぐるみだった。
大きさは抱き抱えられるほどで、そのわんちゃんはおすわりをしていて、クリっとした目でこちらを見ていて口を開けて喜びを表現している。
「か、かわいい……」
「確かに可愛いけど、綾奈が猫以外の動物でここまで興味を引かれるのも珍しいね」
「真人はわんちゃんが好きだし、なんだかこの子、真人みたいでとってもかわいい」
「……真人っぽいかな?」
ちぃちゃんはわかってなさそうに首を傾げた。
「普段の真人はすっごくかっこいいけど、時折このわんちゃんみたいなかわいい瞳で私を見てくる時があるから……まさと……」
この子は多分女の子だけど、それでも真人は時々、私に甘える時はあんな目をしてくるから、やっぱりちょっと真人みたいって思っちゃう。
「真人に会いたいと思わないようにするために遊びに来てるのに、すっごく会いたそうな顔してる」
「だってやっぱり会いたいんだもん!」
できるなら四六時中一緒にいたいよ!
「まぁ、気持ちはわかるけどね。それで? その犬はどうするん?」
「取っちゃうよ」
私の部屋に飾られてある二匹の猫のぬいぐるみ……まーくんとあーちゃんは真人が取ってくれた私の大事な宝物。
このわんちゃんも部屋に飾りたいって気持ちもあるけど、この子をゲットして真人にプレゼントして、真人の部屋に飾ってほしいって気持ちの方が強い。
ぬいぐるみは私がもらってばかりだから、私も真人にプレゼントしたい。男の子だからぬいぐるみをプレゼントして喜んでくれるかは……ううん、真人は絶対に喜ぶ。真人が私からのプレゼントを喜ばないイメージができないもん。変な物ならともかく、ぬいぐるみは絶対に喜んでくれる。
私はクレーンゲームの筐体にお金を入れてクレーンを動かす。
この筐体はレバー式で、普段あまりクレーンゲームをやらないのに、レバー式は初めてだからちょっとドキドキする。
「ここくらいかな……えい!」
私は掛け声と一緒にボタンを押して、アームがゆっくりと下がっていく。お腹の辺りにアームを持っていかなければいけないのに、前足くらいのところに落ちてしまい、結局最初の一回はほとんど動かせずに終わってしまった。
「む、難しいね……」
「でもさっきのでアームを落とす場所はわかったと思うから、これからだよ」
「うん! よーし、頑張って取るよ!」
その後も挑戦を重ね、十回以上かかっちゃったけどなんとかわんちゃんのぬいぐるみを取ることができた。
「やったね綾奈!」
「うん! ちぃちゃんがアドバイスをくれたからだよ。ありがとうちぃちゃん」
多分、ちぃちゃんが教えてくれなかったら、もっとかかっていたかもしれない。だからちぃちゃんには感謝しかないよ。
「あたしは文字通りアドバイスをしただけだからね。その子は綾奈が自分の力で取ったんだから、もっと胸を張りなよ」
「だけどやっぱり私はちぃちゃんのおかげって思うよ。本当にありがとう。ちぃちゃん大好き!」
「あたしも、大好きだよ綾奈」
私はちぃちゃんの腕に抱きついた。
久しぶりの親友とふたりきりの時間はあっという間で、わんちゃんを抱き抱てから時計を見ると、真人が教えてくれた球技大会が終わる時間が近づいていた。
「もういい時間?」
「うん」
もう少しで真人と会えると思うと嬉しくなる反面、ちぃちゃんとの時間がもう終わるんだと思うとちょっとだけ寂しい気持ちになってしまう。
「そんな顔してくれるのは嬉しいけど、真人が嫉妬しそうだね」
「嫉妬、してくれるのかな?」
女の子同士だから、四月の中村君や泉池さんの時のような嫉妬にはならない気が……。
「真人はああ見えてすごく独占欲が強いからね。顔には出さないかもだけど。というか『してくれる』って、ちょっと期待してんじゃん」
「えへへ、ちょっとだけね」
嫉妬なんてさせたくないけど、それでも嫉妬してくれると思うと、それだけ私が真人に愛されてるって思えてとっても嬉しくなっちゃうもん。
「本当に可愛いんだから。んじゃそろそろ───」
「ぬいぐるみ、取れたみたいだね。おめでとう」
そろそろここを出ようかとなっていたその時、近くで私たちに声をかけてくる男の人の声が聞こえた。
声がした方を見ると、さっき私たちの隣で卓球をしていたふたり組の人たちだ。
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