第853話 チョロい真人
球技大会……二年生の決勝戦がいよいよ始まる。
相手は三組か。あの中にサッカー部次期エースがいるんだな。
この球技大会では、サッカー部がフルタイム出場することは認められておらず、前半か後半、どちらかしかプレーできない。
逆に言えば、サッカー部以外はフルタイムの出場が可能で、さっき高木と話している時に、俺にフルタイム出てほしいと打診された。
俺よりも他の運動部のやつでも良かったのでは? と思わなくはなかったけど高木直々のお願いだから俺はそれを聞き入れた。
ちなみに一哉は前半、健太郎は後半に出場する。
相手の三組は……どうやら前半はサッカー部を温存する作戦らしいな。
三組もうちと一緒で、サッカー部はひとりしかいない。となると、前半の十五分で最低でも一点は入れておきたいところだ。
前半のうちのクラスのフォワードはバスケ部とテニス部の運動神経に長けたふたり。相手のメンバーを考えると十分通用する。
そして俺のポジションは相変わらずのディフェンダー……ではなく、ミッドフィルダー、その左サイドハーフを任されることとなった。
高木曰く、「中筋は体力もあるし、午前中の試合ではいいオフェンスを見せてくれたから攻守両方で活躍してほしい」どのことだ。
あのオフェンスはマジでマグレだったんだけどなぁ。もう一度やれと言われても絶対にできない自信がある。
でもまぁ、フルタイム出場に加え、攻守両方で動ける権利をもらったんだ。精一杯クラスのために頑張って、そして綾奈にかっこいいところを見せられるように頑張ろう。
でもあまりそのことばかり考えてしまうと大事な場面でミスをしてしまうかもだから、心苦しいけど試合中は綾奈のことは考えないようにしないと。…………やっぱり辛い。
「真人ー、ゴール決めろよー」
俺のうしろ……午前中の試合で俺がいたポジションには一哉がいる。
「ゴールなんて決められるわけないだろ」
ミッドフィルダーだから前線まで上がれるけど、シュートはマジで練習してないぞ。
「ゴール近くで前に蹴りゃ大丈夫なんだ。それにゴールを決めたら綾奈さんが喜ぶぞ」
「簡単に言ってくれる……」
考えないようにしていた矢先、一哉が余計なことを言うもんだから脳内にチアガール姿の綾奈が現れた。
『すごいすごい! 真人かっこいい! 大好き!』
俺のゴールに大はしゃぎのお嫁さん。はっきり言って可愛いしかない。
「…………頑張る」
「綾奈さんもチョロいがお前も大概だな。さすが似た者夫婦」
「褒め言葉として取っておくよ」
綾奈と似てると言われて嬉しくないわけがないからな。自他ともに認める似た者夫婦ってやつだ。
だけどあくまで目標はクラスの勝利だ。俺のそんな欲が先行してしまうとクラスをピンチにしてしまうかもしれないから、シュートを狙うのは本当にチャンスが巡ってきた時だけだ。
「機会があったら狙ってみるさ」
「おう、頑張れ」
「中筋ー! 前みたいな活躍、期待してるぜー!」
一哉のさらに後ろ……ゴールキーパーの泉池の大きな声が届いた。
二十メートル近く離れているのにはっきりと聞こえてくる。色んなものがデカイな。
俺は泉池に手を挙げて応えた。
俺は前を向いて相手のクラスのメンバーを見るが、二、三人くらい俺を見ているやつがいるな。午前中の試合で俺の動きに警戒してるってわけか。
ほとんどノーマークだった前の試合よりも戦いにくくなりそうだ。
けど俺だって体力にはそこそこ自信があるんだ。できるだけ動いてマークを外し、前線にパスを送る。とにかく前半はディフェンスにも気を配りながら前にボールを繋ぐ。そして得点できたらそれを死守。
後半には高木が出てくるから、後半は前半の逆で守備を中心に動く。
これが理想の展開だが、果たしてどこまでそのプランで試合運びができるかだな。
体育教師が試合開始を告げるホイッスルを鳴らし、ついに決勝戦がスタートした。
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