第803話 義両親と共に高崎高校へ

 いつも綾奈と千佳さんと待ち合わせているのより少し遅い時間に、俺は綾奈の家の前にやってきた。

 今日は弘樹さんの運転する車で高崎高校まで乗せていってもらう。弘樹さんの白い車……かっこよくて一度乗ってみたいと思ってたんだよな。

 俺は停められている弘樹さんの車を見て、ちょっとワクワクしながらインターホンを押した。最初はこれを押すのに少し躊躇したり指が震えていたりしたけど、慣れたもんだ。

 インターホンを押して数秒後、明奈さんのちょっと弾んだ声が聞こえてきた。

『はーい』

「おはようございます。真人です」

『うふふ、おはよう真人君。遠慮しないで入ってらっしゃい』

「あ、ありがとうございます!」

 いつもは誰かしらが玄関の扉を開けてくれることがほとんどだけど、今回は勝手に入ってきていいようだ。これも俺が家族と認められているからこそ……だよな。

 俺はちょっと嬉しくなりながら玄関の扉を開け、自分専用のスリッパに履き替えて、リビングに入り、義両親のおふたりに挨拶をする。

「おはようございます。弘樹さん、明奈さん」

「あぁ、おはよう真人君」

「うふふ、おはよう真人君」

 笑顔で挨拶をしてくれたおふたりは、既にほぼ準備万端といった感じだ。

 テーブルにはちょっと大きめなクーラーボックスと保冷袋が置かれている。おそらくあの中には飲み物と弁当が入っているはずだ。

 ん? そのふたつからちょっと離れたところに、折りたたまれたハンカチがある。明奈さんの私物かな?

「じゃああなた。真人君も来たから行きましょうか」

「あぁ、そうだな」

 弘樹さんは見ていた新聞を折り、ソファに置いて立ち上がった。

「あ……もしかしてお待たせしてしまいましたか?」

「ううん。そんなことないわ。時間ピッタリだったわよ」

「そうだよ真人君。だから気に病むことはない」

「は、はい! ありがとうございます!」

 本当に時間ピッタリに来たのかはわからないけど、おふたりがそう言ってくれているのだから、素直に受け取っておこう。

「あ、そうだわ。忘れないうちに……」

 明奈さんはなにか思い出したようにつぶやき、テーブルに置かれていたハンカチを優しく手に持って、俺の前に立った。

「これ、綾奈から預かってたの。どうしても真人君に持っててほしいって、ね」

 そう言って、明奈さんがハンカチを広げると、そこには綾奈の指輪があった。ライトに照らされてキラリと光っている。

「あ……」

「体育祭で汚れちゃうから着けていけない、でも近くにないと嫌って言ってね。だから真人君に持っててほしいんですって」

 綾奈が出る競技は基本的には手は使わない。だけどグラウンドの砂埃や何かしらのアクシデントを考慮して、俺に預ける選択をしたのかもしれないな。

「……わかりました。お預かりします」

 俺は明奈さんから綾奈の指輪を受け取り、自分のペンダントを外して、そこにゆっくりと通し、ペンダントを首にかけた。

「それじゃあ行きましょうか」

「はい。おふたりとも、今日はよろしくお願いします」

 俺は重そうなクーラーボックスを持ち、弘樹さんの車で高崎高校まで向かった。


 高崎高校に到着し、ほとんど空きがなかった駐車場になんとか車を停め、俺たちはグラウンドに。

 広いグラウンド、校舎側には何個ものテントが張られている。教職員や実行委員会、放送部が使ったりするんだろうな。

 反対側には入場ゲートを中心に何脚もの椅子が並べられてある。あっちが生徒用だな。

 そういえば綾奈から学年の同じクラスごとにチーム分けがされてるって聞いたな。つまり俺から見て左側から一組が『白虎』、その隣が二組で『朱雀』、入場ゲートを挟んで三組が『玄武』で四組が『青龍』だな。チーム名がかっこいいし、デカいパネルもあって、モチーフとなっている動物(?)とチーム名が達筆で書かれている。

 そしてトラックの両サイドに設けられた広いスペースが、俺たちの観覧スペースみたいで、既にかなり埋まっている。

 ここのグラウンドに入るのは文化祭以来だけど、やっぱり風見のより断然広いな。

「真人君。こっちよ」

「あ、はい!」

 明奈さんに呼ばれ、俺はおふたりについていく。

 そういえば、あのテーブルにはビニールシートがなかったように見えたけど……。

「あの弘樹さん。俺たちはどこに座るんですか?」

「心配ないよ真人君。既に俺たちの席はとっておいてくれてるからな」

「とっておいてくれてる? ……あ、もしかして麻里姉ぇですか?」

 職権乱用な気もするけど、事前に俺たちの座るスペースを確保できるのは、ここの職員である麻里姉ぇ以外考えられない。明奈さんが前日入りしてとっていたりもできないだろうし。

「残念ながら違うわ。ついてくればわかるわよ」

「?」

 麻里姉ぇじゃないとなると、俺がいくら考えても答えはでないので、おとなしく弘樹さんたちについていくことに。

 やがて観覧スペースに到着し、おふたりはどんどん前に進み、最前列にめちゃくちゃ大きな青のビニールシートで陣取っているご夫婦らしき人たちと合流したのを、俺はちょっと後ろから見ていた。

 あのご夫婦と前々から親交があるのかな?

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