第774話 家族の自己紹介


 おっと、修斗の驚きを見てるだけじゃなくて、明奈さんたちに修斗を紹介しないとな。

「明奈さん、麻里姉ぇ。彼は横水修斗。美奈と茉子の友達で、今日は彼にサッカーを教えてもらってたんです」

「は、はじめまして……。横水、修斗です」

 いつもの元気はどこへやら。修斗はめっちゃ緊張した面持ちで、声も小さく自己紹介をした。

 修斗の自己紹介を聞いて、明奈さんが何かを思い出したように「ああ!」と言って、手をポンと叩いた。

「綾奈が言っていた、真人君を慕っている子っていうのはあなたのことね?」

「は、はい……そうですね。真人おにーさんにも、綾奈先輩にも、本当にお世話になってます」

「え? 綾奈、そんなこと言ってたんですか?」

 それは初耳だ。ということは、明奈さんは修斗のことを、間接的には知っていたんだな。

「そうなの。その時にお父さんはちょ~っと変な方に考えちゃったみたいだけどね」

「え? 変な方にって……」

「うふふ、それは内緒よ」

 明奈さんは人差し指を口に当てた。やべ、めっちゃ綺麗だ。

「それはそうと、こちらも名乗ならないといけないわね。私は松木麻里奈。綾奈と真人の姉よ。よろしくね横水君」

「は、はい! よろしく、お願いします」

「いや、あの……麻里姉ぇ?」

 いきなり俺のお姉さんって自己紹介を聞いて、たまらず麻里姉ぇにツッコミを入れてしまった。

「あら、どうしたの真人?」

『何か変なこと言ったかしら?』と言わんばかりにきょとんとしている。というかわかっててああいう自己紹介をしたんじゃ……。

「お、俺のお姉さんって……」

「間違ってないでしょ?」

「いや、そうなんだけどさ───」

「私は西蓮寺明奈よ。綾奈と真人君のお母さんです」

「ちょっ、明奈さんまで!?」

 なんでこのタイミングで麻里姉ぇと同じような自己紹介をしてるのこの人!?

「だって、本当のことじゃない」

 すっげぇにこにこしてるよ明奈さん! なんでそんなに嬉しそうなんだよ。

 俺はちょっと……いや、だいぶ照れている。

「そして僕が、ここドゥー・ボヌールの店長で、麻里奈の夫。そして綾奈ちゃんと真人君の義兄の松木翔太です」

「翔太さんまで!? というか、いつからそこに!?」

 全然気づかなかった。気配もなしに俺たちのそばまでやってくるとは……これが元ケンカ最強ヤンキーだったと言われるの翔太さんのスキルなのか!?

「麻里奈とお義母さんが楽しそうに真人君たちと話しているのが見えてね。そしたら彼に自己紹介をしていたから、ここは僕もと思ってね」

「そ、そうなんですね……」

 この人たち、普通に自己紹介をするだけでいいのに、こうも義姉や義母、義兄と言われたら、嬉しくないわけないし、照れないわけもない。

 俺は右上を向き、右手の甲で自分の口を隠した。

「真人。照れてるわね」

「本当だ。照れたらこのポーズを取るって綾奈ちゃんから聞いたことがあるよ」

 綾奈……けっこういろんな情報をリークしてるんだな。全然構わないんだけど。

「うふふ、やっぱり真人君、可愛いわぁ」

 俺の顔の熱が引くのに時間がかかったのは言うまでもない。

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