第605話 修斗がやって来た
「いらっしゃい修斗。よく来たな」
俺も廊下に出て修斗を見ると、嬉しいような困ったような、そんな表情をしていた。
「こ、こんにちは真人おにーさん」
「どうしたんだ? いつもより歯切れが悪いけど」
「いえ、その……おにーさんに聞かされて綾奈先輩がいるのは知ってたんですが、まさか綾奈先輩が出迎えてくれるってのと、俺やっぱり来ない方が良かったかなーって……」
まぁ、確かに俺も修斗の立場なら躊躇すると思う。
実際、今日のことを伝えると躊躇されたんだけど、俺が押し切った。
お泊まりはないけど、多分俺と綾奈は一緒にいられる時間は常に一緒にいることになる。
どうしても一人で対応しなければならないお客さんなら離れるけど、修斗は俺とも綾奈とも親交があるし、邪魔だなんて思うはずがない。
「そんなの気にしなくていいって。来てほしくなかったらキッパリ言うし、綾奈もすぐに了承したんだ。だから修斗は何も気にせずに遠慮なく上がってくれよ」
「……わかりました。まぁ、もし今日綾奈先輩がいなかったらいなかったで逆に気を使ってたかもしれないんで」
それだけ修斗の中で、俺と綾奈はセットってのが定着してるんだな。ちょっと嬉しい。
「ならマジで遠慮する必要はないからな」
「はい! お邪魔します!」
修斗が靴を脱いだタイミングで、スリッパを出てないことに気づいた俺は、急いで来客用スリッパを出し、修斗は「ありがとうございます」と言って、スリッパに足を通した。
そういや、綾奈もいまだに来客用のスリッパを履いてるんだよな。
綾奈ももう家族だし、春休み中に綾奈用のスリッパを買いに行くのもアリだな。
「ねえ、真人」
俺が綾奈のスリッパのことを考えていると、綾奈が俺の袖をクイクイと引っ張った。
「どうしたの綾奈?」
「横水君を呼んで、今日は何をするの?」
綾奈には今日、修斗が来るとだけしか伝えていなかったな。
「ほら、サッカーの練習試合を見に行った日にさ───」
俺は綾奈に修斗が来た理由を説明した。
綾奈の誕生日の翌日の一月二十二日に、サッカー部の練習試合を見に行き、帰り際に修斗からプレゼントをもらったあと、『今度、おにーさんのオススメのアニメを教えてください』と言われた。
その約束を果たしたかったんだけど、三学期中は時間が合わなかったから春休みになってからとちょっと前に話をしていて、今日になった。
「───というわけ」
「なるほど」
「そういや、修斗はラノベも読んでみたいって言ってたけど、活字は読んだことあるのか?」
「いや、それがまったく……。でもおにーさんが読んでるやつなら大丈夫かなって」
やっぱりか。修斗って体を動かす方が好きなタイプだから、字がいっぱいの本は苦手だろうと思ったけど。
修斗がはじめて読むラノベか。俺が勧める本によって、修斗がラノベを好きになるかもしれないと考えると、なかなか責任重大だな。
ラブコメは……読まないだろうなぁ。
それにラノベでスポーツ系ってのも少ないから、やっぱりここはバトルものか異世界ものを勧めるしかないな。
「ちょっと飲み物入れながら考えるから、綾奈、悪いけど修斗を部屋に案内してくれる?」
「わかったよ。横水君、こっちだよ」
「あ、はい。えっと……おにーさん、失礼します」
俺は階段へ向かう二人に手を振り、リビングに入って部屋にあるラノベを思い出し、修斗に勧めれそうなものを頭の中で吟味しながら、三人分のココアを入れた。
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