第145話 晴れる不安
「なるほどねぇ。確かに真人は真っ直ぐだから、隠す事で逆に気まずくなるのが嫌で言っちゃったんだろうね」
さすが茜さん。真人君との付き合いは一番長いから真人君のことをよく理解しているなぁ。
「うん。私もそう思う。でも、真人君が告白されるのが怖い……断ってくれるってわかってるけど、どうしても嫌な方に考えちゃって」
こんな気持ちになるのなら、真人君も自分が告白された事を黙っていてくれたらいいのにとさえ思ってしまう。
でも、もしそうなると真人君の方が気まずい雰囲気になってギクシャクしそうで、それも怖くて……。
「綾奈ちゃんの言いたいことはわかるよ。彼氏が告白されるのって不安になるよね?私もカズくんが告白されたって聞いちゃったら、返事を聞くまでハラハラすると思う」
「茜さんも?」
「そりゃそうだよ。私だけじゃなく世の中のカップルみんなそうだと思うよ?恋人が他の異性に告白されたって聞いたら、大なり小なり不安に感じるよ」
彼氏を取られるのが不安になるのも、告白してきた人のことを怖いと感じるのはみんな同じ……。
茜さんも、あんなに山根君とラブラブでお互い信頼しあっているのに、今の私と同じ状況になったら、やっぱり不安になるんだ。
「まぁ、例外があるとすれば、それは真人みたいなタイプかな?」
「真人君が、例外?」
どの辺が例外なんだろう?私はわからずに首を傾げた。
「綾奈ちゃんみたいに普段から凄くモテて、その数え切れない告白を全て断ってきた人を彼女にしてるから、今後も断り続けるだろうと安易に考えてる……言ってしまえば、危機管理能力が足りてないんだよ真人は」
危機管理能力……ちょっと大袈裟な表現な気がする。
でも、真人君に信頼されていると思うと、凄く嬉しい。
「まぁ、真人もさすがに、綾奈ちゃんが翔太さんクラスのもの凄いイケメンに告白されたら焦ると思うけどね」
お義兄さん程のかっこいい人、そうそういないと思うんだけどな。それ以前に……、
「私はどんなかっこいい人が告白してきても、真人君以外の人の所に行くことはありえないから」
真人君といる時は本当に凄く安心する。真人君の隣じゃないと嫌だし、そこは私だけの特等席だもん。
「だよね?だから綾奈ちゃんも、もっとポジティブな考えでいいと思う。「貴女が告白した魅力的に見える男の子は、私の彼氏なんです。貴女がいくらアプローチしても、彼は私から離れません」みたいにね。真人だってそう思ってるよ。じゃなきゃ綾奈ちゃんを「未来のお嫁さん」なんて絶対言わないだろうし、真人にそう言われてるのは相手を牽制……それどころか、一撃必殺の強力な武器なんだよ」
確かに、この歳で私のことをそんな風に呼んでくれるのは、私を生涯のパートナーにしてくれるといった真人君からの何よりの意思表示だと思う。
その場のノリで冗談半分で言ったり、他の人と同時に付き合って私をそう呼ぶ事は、真人君なら天地がひっくりかえってもありえないから。
真人君が私を「奥さん」や「お嫁さん」って言ってるのを想像して自然と頬が熱くなり、笑顔になる。
「おっ、元気出てきたね?じゃあ、もう一押ししとこうかな?」
「え?」
「真人が告白されたら事を自分から綾奈ちゃんに報告するのって……綾奈ちゃんの傍から離れないっていう何よりの意思を突きつけているんだよ」
「意思?」
「これは真人に限った話ではないんだけど、彼女のことが好きで好きで仕方ないから、彼女にその事を言わないでモヤモヤした気分になるより、言って彼女を安心させて、なに気がねなく彼女と二人でこれからも歩んでいきたいって心の底から思ってるから言ってくるんだよ。だから綾奈ちゃんは、そんな見えない相手に一ミリもビビることはないんだよ。胸を張って、堂々と、真人の彼女を、そして真人の未来のお嫁さんを名乗っていいんだよ。真人は絶対に綾奈ちゃんを裏切ったりしない。幼なじみの私が言うんだから。だから綾奈ちゃんは、今まで以上に自分の信頼を預けちゃっていいんだよ」
茜さんの言葉に、私はハッとさせられた。
真人君が誰かに告白されて、真人君が取られてしまうのではないか……。
それは言い換えると、真人君が私と別れて別の人と付き合うという意志を示すということ。
真人君を信頼しているなんて、どの口が言っているの!? 全然信用出来ていないじゃない!
……私はバカだ。これまで真人君の何を見ていたんだろう。
真人君はその愛情を、言葉で、そして行動で何度も示してくれていた。
なのに私はたったそれだけの事で、真人君を完全には信用出来なくなっていた。
真人君は私を一番に好きでいてくれている。
そんな簡単で当たり前のことを、私はいつの間にか見落としていた。いや、当たり前になりすぎて失念していたのかもしれない。
以前、お姉ちゃんにも『綾奈だけは真人君を最後まで信じなさい』って言われたのに。
さっきの茜さんの言葉ではっきりと再認識した。
これ以上不安に感じたりするのは真人君にとって失礼だ。
何よりそんな私が「真人君の未来のお嫁さん」なんて名乗っちゃいけない。
私は頭をぶんぶんと横に振り、両手で自分の両頬を思い切り叩いた。
「綾奈ちゃん!?」
茜さんは私の行動を見てびっくりした声を上げた。
自分の頬からゆっくりと手を離す。
両頬にジンジンとした痛みが走っている。
「相談に乗ってくれてありがとう茜さん。それから変な事聞かせちゃってごめんね」
「……綾奈ちゃん、いい顔してる」
「茜さんのおかげだよ」
「今その顔を真人に見せたら、きっと惚れ直すんじゃないかな?」
「へっ!?そ、そうかな?……えへへ」
茜さんからの不意打ちの言葉で、私の顔が緩む。
「じゃあ、プレゼント選び再開しようか」
「うん」
そうして私達は席を立ち、フードコートを後にした。
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