第139話 新婚みたいなやり取り
俺は手洗い場に早足で行き、手を入念に洗い、うがいもしてリビングに入った。
綾奈の隣の椅子が空いていたのでそこに座った。
多分だけど、この椅子には去年まで綾奈のお姉さんの麻里奈さんが座っていたんだろうな。
「うわぁ~」
食卓に並べられた献立を見て、俺は感嘆の声をもらした。
テーブルの中央にあるのは、うちで使っているのよりも大きいお鍋。そのお鍋が真ん中で仕切られており、二種類の異なる鍋が入っていた。
一つは赤いから恐らくキムチ鍋、もう片方は白色になっているので恐らく豆乳鍋だろう。二つとも美味しそうで健康に良さそうだ。
その他にも色とりどりのおかずが用意されていて、どれもとても美味しそうなので、俺は思わずつばを飲みこんだ。
「真人君が来るからちょっと張り切り過ぎちゃった。真人君、遠慮せずどんどん食べちゃってね」
「わざわざ俺のために……本当にありがとうございます」
こんなにもてなしてくれて、俺の胸はすでに腹八分目……いや、胸八分目を余裕で超えていっぱいになっていた。
本当、この人たちとの縁、大事にしないとな。
「真人君、ご飯よそうからお茶碗かして」
「あ、あぁ。ありがとう綾奈」
綾奈は俺からお茶碗を受け取ると、席を立ち炊飯器の前に移動してご飯をよそってくれた。
「はい、どうぞ真人君」
「ありがとう」
俺は白米がいっぱい入ったお茶碗を両手で受け取り、綾奈にお礼を言った。
あぁ、幸せだなぁ。これはまるで───
「二人とも、新婚さんみたいね」
俺が思っていたことを明奈さんが口に出した。
「ふぇ!?」
「っ!」
綾奈が顔を真っ赤にして驚いていた。
俺も心を読まれたような感覚になり驚いた。
「じ、実は俺も同じことを考えてました」
「そ、そうなの!?」
「うん。ご飯をよそってくれる綾奈を見て、新婚みたいだと思ったのと同時に、すごく幸せだなぁって思ったんだ」
「う、うん。私もすごく幸せ。真人君、おかわりしたかったら遠慮なく私に言ってね」
どうやら今日は、俺のご飯は全部綾奈がよそってくれるようだ。
普段なら申し訳なく思ってしまうところだけど、さっきの新婚さんみたいな感覚が忘れられないので、お言葉に甘えることにした。
「わかったよ。その時はお願いね。綾奈」
「えへへ、は~い♡」
俺たちはお互いを見て笑いあった。
「本当に仲良いな二人とも」
「えぇ、見ていて本当に微笑ましいわ」
その様子を温かい目で見ていた綾奈のご両親に気づいたのは少し経ってからだった。
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