第101話 公開イチャイチャ?

 高崎高校の最寄り駅に到着した俺は、それを綾奈にメッセージで送り、構内を歩いていた。

 ここに来るのは先週の金曜日以来か……うん、ド最近だな。

 まさか二週連続で他校に行くとは思いもしなかった。自分の突発的な発案と行動のせいなんだけどね。

 駅構内を歩いていると、当然だけど高崎高校の制服を来た人とよくすれ違う。

 恐らく帰宅部や部活が休みの人達が家に帰ったり寄り道をしたりするんだろう。

「あ、あの人は……」

 ここでふと、知っている人が目に入った。綾奈や千佳さんではもちろんなく、友達ですらないんだけど知っている人だ。

 忘れもしない、俺と綾奈が初めてゲーセンに行く前に、ここで綾奈をナンパしていた人だ。

 ただ、以前見た彼は確か金髪だったはずなのに、今の髪色は黒になっている。多分だけど、金髪が学校としてはやはりアウトで、強制的に黒に変えられたのかな?

 いや、それだと千佳さんの色素の薄いオレンジ色の髪もアウトになってないとおかしい。

 だとすると、以前のここでの騒ぎが学校に伝わって、そのペナルティで髪色を黒に戻されたのかもしれないな。

 だからと言って俺が気にすることも、同情するわけでもないので、気にせずに高崎高校を目指す。

 やはりというか、すれ違う生徒一人一人に見られる。

 風見高校の制服を着ている俺が高崎高校に向かっているんだから当然なんだけど、こうも見られるとやっぱり居心地が悪くなってくるな。

 でも綾奈と一緒に帰りたいから、ここでUターンして帰るなんて選択肢はない。というか、マジでドタキャンなんかしたら綾奈を失望させてしまうし、千佳さんにもボコられるだろう。いや、帰らないけど。

 すれ違う生徒の視線に耐えながら歩を進めていくと、程なくして高崎高校の校門が見えてきた。やっぱりこの学校デカイな。

 綾奈を目視できる距離まで来たんだけど、綾奈と千佳さんの他に二人の女子生徒の姿も見える。

 あの二人が綾奈達とおしゃべりをしていた友達か。

「綾奈ー!」

 俺は綾奈の名前を呼び、駆け足で近づく。

「ごめん、おまたせ」

「全然待ってないよ。わざわざ来てくれてありがとう真人君」

 会いたかった彼女に会えて、心が満たされていく。

「いやいや、俺から言い出したことだしね。千佳さんもお疲れ様」

「うん。おつかれ真人」

「それから、えっと……」

 俺は千佳さんにも挨拶をして、それから綾奈のクラスメイトであろう二人を見た。

「実は、この二人も真人君を見たいって言って……」

 あぁ、そういうことか。そりゃあ、とんでもない美少女の綾奈が付き合っている男を見てみたいってのはあるだろうな。俺も彼女達の立場なら絶対にそういうだろうな。

 おっと、そんなことを考えるより、まずは二人に自己紹介しないとな。

「はじめまして。綾奈の彼氏で千佳さんの友達の中筋真人です。よろしくね」

 俺は二人にはっきりと綾奈の彼氏であることを伝え、軽く頭を下げた。

「「は、はじめまして」」

 二人は揃って言い、それから一人ずつ自己紹介をしてくれた。

 そこまでは良かったんだけど、自己紹介を済ませた二人は、まじまじと俺を見てくる。多分俺が本当に綾奈に相応しいか品定めしているんだろう。

 これからもこういう視線を向けられる場面が多々あると思うので、今のうちに慣れておいた方が良さそうだな。

「うん。さっきの自己紹介といい、すごく真面目そうな人だね」

「それに、顔もなかなかイケメン」

 イケメンがどうかはさておき、高評価を貰えて胸を撫で下ろす。だが……。

「なかなかじゃないよ。真人君はすごくかっこいいよ!」

 綾奈はさっきの友達の評価を無理やり上方修正してきた。嬉しいし、そんなことを言われると彼氏冥利に尽きるのだが、こうも力強く言われるとなかなかにむず痒くなるな。

「ありがとう、綾奈」

 俺は綾奈にお礼を言って頭を撫でた。

「あっ…………えへへ♡」

 綾奈は一瞬だけ驚いていたが、すぐにいつものふにゃっとした笑顔を見せてくれた。

「どうしよう……綾奈ちゃんすっごくかわいい!」

「うん……さっきの比じゃない」

 二人は綾奈の表情を見て驚いている。まぁ、当然だけどこんな緩みきった顔、普段の学校生活じゃあ見れないもんな。

「はいはい。こんなとこでイチャつかなくていいから。それより早くデートに行きなよ」

 しまった。ついいつもの感じで接してしまったけど、よく考えたらここは高崎高校の校門だ。

 周りを見ると、校門を出ようとしている生徒がまだけっこういて、その人たちがもれなく俺と綾奈を見てくる。うわぁ、やっちまったよ……。

「~~~~~~」

 綾奈を見ると、顔が真っ赤になって照れている。可愛いけど、こんなところでやってしまって申し訳ないな。

「ご、ごめん綾奈!」

 俺は綾奈の頭から手をパッと離すと、やってしまったことを謝った。

「う、ううん。確かに恥ずかしかったけど、それでも真人君に触れてもらえた嬉しさのほうが大きいから気にしないで」

 そんなことを言われて、嬉しくならない男はいないだろう。

 あーヤバい。本当に好きだ。

「綾奈」

「真人君」

 俺たちは名前を呼び合い、お互いの目を真っ直ぐに見つめる。そして…………。

「あんたたち……言ったそばからイチャつかないでもらえる?」

「あっ」

「ふぇ!?」

 千佳さんの一言で俺たちは我に返った。あっぶねー、千佳さんが声をかけてくれなかったらマジでキスしていたかもしれない。さすがにここでキスしたら俺はもうここには来れないし、綾奈に迷惑がかかるからマジで助かった。

「ご、ごめん千佳さん! コホン……じゃあ行こうか、綾奈」

「うん!」

 俺は咳払いをひとつして、綾奈に手を差し伸べると、綾奈は笑顔でその手を取って指を絡めてきた。

「じゃあ三人とも、また明日ね」

「千佳さんまた明日。二人もまたね」

「うん。二人とも楽しんでくるんだよ」

「綾奈ちゃんまた明日ね!彼氏さんもまた!」

「二人ともまたね」

 俺たちは三人に手を振り、三人もまた俺たちに手を振り返してくれた。

 俺たちは千佳さん達と別れ、放課後デートを開始するのだった。


「ねぇ千佳ちゃん」

「何?」

「あの二人っていつもああなの?」

「あんなのまだ可愛いもんさ」

「……マジで」

「ラブラブ」

 俺たちのすぐ後ろで、三人のそんな会話が繰り広げられていたが、俺たちの耳に入ることはなかった。

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