第55話 西蓮寺美人親子の会話
私はいつものように、真人君の姿が見えなくなるまで見送った。
いつもと違うのは、私だけじゃなく、お母さんとお姉ちゃんも真人君を見送っていた事。
「真人君、行っちゃったわね」
「……うん」
お姉ちゃんがそう言うと、私の中に寂しいという感情が溢れてきた。
真人君と一緒にいた時間を思い出す。
二時間にも満たない時間だったけど、真人君とお喋りして、手を繋いで、抱きしめて頭を撫でてくれて、それからキスしそうになって……そこまで考えて、私は顔が赤くなるのを感じた。
「綾奈は真人君の事が本当に好きなのね」
私の考えていることがわかったのか、それとも顔を赤くしているのを見たからなのか、お母さんが優しい口調で言ってきた。
「うん。……大好き」
「真面目でいい子だし、真人君のこと離しちゃダメよ」
「さっきも言ったけど、絶対離さないもん」
私が真人君から離れることは絶対にない。彼のことしか頭にないし、彼以外の男の人なんて考えられない。
去年からそう思っているけど、あの時よりその気持ちは一層強くなっている。
「綾奈はそうかもだけど、真人君から手を離されないよう気をつけなさいよ」
「えっ?」
お姉ちゃんの言葉に私はドキリとする。真人君も私のことが好きだと言ってくれたし大丈夫だと思うけど……楽観視している私をよそに、お姉ちゃんはさらに続けた。
「綾奈が真人君のことばかり考えて成績を下げたら呆れ……いえ、彼なら申し訳ないって思うかもしれないし、お互いすごく好きあってるってわかってるから余計なお世話かもしれないけど、束縛しすぎて真人君に嫌われないようにね」
お姉ちゃんの言葉に私はハッとした。
昨日から付き合い出したからって言うのもあるのだろうけど、私は今日真人君のことばかり考えていた。
で、でも部活も勉強も疎かにするつもりはないよ。
束縛はどうだろう。今日真人君の部活が終わるのを待っていたのも、さっきまで中々真人君を離さなかったのも束縛になるのかな?
「カップルは様々だから、束縛のボーダーもカップルによって違うから、さっきの綾奈の行動に真人君がどう思ったのかはわからないけれど、彼はあれくらいは束縛とは思わないでしょうね。綾奈にくっつかれてむしろ凄く嬉しそうだったから」
「そ、そうかな?……えへへ」
お姉ちゃんの言葉でさっきまでの不安が一気に霧散する。私って単純なのかな?
「さて、綾奈はそろそろ中に入りましょ。麻里奈も早く帰って晩御飯を作らないと、翔太君仕事終わるわよ」
「はーい」
「いけない。それじゃあ二人とも、またね」
お姉ちゃんはそう言って車に乗り込んだ。
エンジンをかけて私とお母さんのそばに車を停めたかと思ったら、窓を開けた。まだ何かあるのかな?
「ところで綾奈。今日学校休みなのになんで制服着てるの?」
「へ?」
まさか帰り際のお姉ちゃんにその事を聞かれるとは思ってなくて、完全に油断してたから変な声が出ちゃった。
私が制服を着ていた理由を二人に話すと、二人はまた生暖かい目で私を見てくるのだった。
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