第5節 勉強会

第25話 勉強会の約束

 ゲーセンに行った日から二週間が経過した木曜日の放課後。

テスト期間中なので、特に寄り道をせず真っ直ぐ西蓮寺さんの家に向かっていた時の事。俺はふと西蓮寺さんのテスト勉強の進捗具合が気になったので聞いてみることにした。

「高崎はいよいよ来週からテストだけど、勉強は順調?」

「大丈夫だよ。このまま勉強を続けてたらいい点を取れそう」

 流石西蓮寺さんだ。高校に入っても変わらず勉学に励んでいた為、上位の成績をキープしているのだろう。

「風見も今週からテスト期間に入ったけど、中筋君は順調?」

 西蓮寺さんも俺の進捗具合が気になったのだろうか?笑顔で同じことを聞き返した。何度見ても好きな人の笑顔は癒される。

「うーん。正直あまり……」

 西蓮寺さんと違って、俺の勉強の捗りはあまり芳しくない。

 地頭が良い訳ではなく、中学の時も勉強に力を入れてなかったからなのか、勉強しても理解出来ない所があった。

「そうなんだ。特に苦手なのはどの教科?」

「数学と英語かな。他の教科なら暗記でどうにかなるけどこの二教科はどうもね」

 一学期のテストも他の教科はそこそこ良い点数だったのだが、数学と英語が足を引っ張り、思うように順位を伸ばせないでいた。

「ちぃちゃんと同じだね」

「宮原さんも?」

「うん。数式や文法を覚えるのが苦手みたい」

 しばらくテスト関連の話題をしながら歩いていると、西蓮寺さんは少し考える素振りを見せたかと思うと、俺の顔を見てこんな提案をしてきた。

「明後日のお昼から、ちぃちゃんと一緒に図書館で勉強するんだけど、よ、良かったら中筋君も来る?」

「え?」

「ほ、ほら、勉強に行き詰まってるなら、私、力になれるかもしれないから」

「嬉しいお誘いだけど、お邪魔していいの?宮原さんに勉強教えるんでしょ?邪魔しちゃうし、テスト範囲も違うかもだし」

 西蓮寺さんから勉強会のお誘いをされて、まさに渡りに船といった状況だ。ただ、やはり俺が一緒にいたんじゃ、二人が勉強に集中できないのではと言う懸念があり、参加を渋ってしまう。

「邪魔じゃないよ!ちぃちゃんもきっとわかってくれる。それに、中筋君テストの順位を少しでも上げたいって言ってたから、少しでも力になればと思って……。きっと範囲もそんなに違わないと思うし!」

 西蓮寺さんの言葉に思わず胸が熱くなる。

 確かに中学時代、学年一位の成績で、今も上位をキープしているであろう西蓮寺さんの協力があれば確実に順位は上がるだろう。それに、ここまで言ってくれて、それでも不参加を表明するのは逆に失礼だ。

「わかった。そこまで言われたら参加させてもらうよ」

「やったぁ!ありがとう」

「いや、お礼を言うのはこっちだから」

「あれ?そうだっけ?」

「あはは」

「えへへ」

 そんなやり取りをして、お互い笑い合う。西蓮寺さんと一緒の時間は本当に心地いい。

「山根君も誘っても良いからね」

「そうだね。一応一哉にも聞いてみるよ」

 こうして俺は、週末の西蓮寺さんと宮原さんの勉強会に参加する事となった。


 翌日の金曜日の休み時間、一哉と談笑していた俺は、昨日の西蓮寺さん達との勉強会の事を二人に切り出した。健太郎はトイレに行っている。

「実は明日、西蓮寺さんと宮原さんと一緒に図書館で勉強会をする予定なんだけど、一哉も来ないか?」

「真人と西蓮寺さんのイチャイチャを見たいのは山々なんだけど、明日は茜に二人で勉強を教えてもらう約束をしてるんだよ」

「勉強会って言ってるだろ!話聞いてたのか?」

「こういうイベントではその手のアクションは起きるもんだ」

「リアルと漫画やラノベの世界を一緒にすんなよ」

 お前別にオタクじゃないだろ。どこでそんな知識身につけた……あ、俺と健太郎か。

「お前達なら普通にやりそうでさ」

 一哉はからからと笑いながら言ってきた。

「バカップルみたいに言うなよバカップル」

「……お前達はいずれそうなる」

「何いい声で預言者みたいな事言ってんだよ!?それに付き合ってもいないのに」

「まぁ、冗談はさておき、明日はマジで茜との約束があるんだ。悪いな」

 そういうことなら仕方がない。茜は部活に力を入れているが、何だかんだで勉強もそこそこ出来から、一哉の学力も上がるだろう。……ちゃんと勉強をすればな。

「……わかった。それなら仕方ないな」

 一哉とのやり取りに若干疲れた俺は自席に戻ると、そのタイミングで健太郎がトイレから戻ってきた。

 健太郎の成績は学年上位だ。普段一人で勉強をしていると聞いたことがある。恐らく一人でやった方が集中出来るのだろう。それでも俺は健太郎に声をかけ、事の経緯を話した。

「僕が参加していいの?」

「良いから声をかけたんだろ」

「ありがとう。なら参加させてもらうね。それに……」

 健太郎は勉強以外に参加したい理由があるのだろうか?

「真人が骨抜きになっている西蓮寺さんを一度見てみたかったし」

「イチャイチャはしないからな!」

「何の話?」

「いや、何でもない……」

 さっきの一哉との会話が尾を引いているのか、健太郎に余計なツッコミをしてしまった。全ては一哉のせいである。

「それに、あの人にも会いたかったし」

 健太郎に放ったツッコミが恥ずかしくて、健太郎が言ったその言葉が俺の耳に入ることはなかった。


 その日の放課後、いつものように駅で西蓮寺さんと宮原さんの二人と合流した俺は、明日の勉強会に健太郎が参加をするという事を告げた。

「清水君が来るんだね。私、会ってみたかったんだ」

「えっ!?」

 西蓮寺さんが健太郎に会いたかった……それはもしや、恋愛的な意味でと思った俺は驚きの声を上げた。

「西蓮寺さん、まさか、健太郎の事を……」

「ち、違うよ!?中筋君が山根君以外に凄く仲良くしている人だから、どんな人なのか気になっただけ」

 俺のリアクションを見た西蓮寺さんは慌てて否定の言葉を口にした。

「はぁ……。そもそも綾奈が会ったこともない奴の事好きになるわけないじゃん」

 宮原さんが呆れて嘆息する。

 考えてみたらそうだよな。西蓮寺さんと健太郎は会ったこともなければ、ネトゲのチャット何かもしているわけじゃない、お互いにどんな人かよく分からない存在だ。冷静になればすぐにわかりそうなのに、西蓮寺さんの事となると考えるより先に身体が勝手に動いてしまう。

「何?中筋焦ってんの?」

 宮原さんが何やらニヤニヤして聞いてくる。前屈みになってるから谷間が余計目立つ。

「ち、違うって。今まで西蓮寺さんが男に対して自分から会ってみたいって言ったことを聞いたことがなかったら珍しいと思っただけだよ」

 本当は焦っていたけど、何とか平静を装って取り繕う。谷間に自然に目が行くから宮原さんを見ないようにして。

「ふ~ん。ま、そういう事にしといてあげるよ」

 絶対分かってないなこの人。いや、本心を言い当てられてるから、ある意味ではわかってるんだけどさ。

 その後は他愛のない話をして、俺はいつもの様に西蓮寺さんを自宅まで送って行った。

 その日の夜、俺はまだ見ぬ西蓮寺さんの私服姿を想像しながら、明日着ていく服を日付が変わる寸前まで選ぶのだった。

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